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伊能忠敬邸 幕府失政の問題 <C142>

やっとここまできました。

■ 文化十四年、6月24日(1817年8月6日)午後、深川黒江町


 昼食が終わるころ、日下さんが現れた。

「居ても立ってもいられず、こちらにお邪魔させてもらいました。

 仮住まいですが、もうご近所なので長居できますなぁ。

 麻布の塾は、塾頭をやらせている和田寧に丸投げですわ。

 看板も和田塾に変えても良い、と言ってきましたから後の憂いもありません。

 50にもなって、こんなに血が騒ぐ思いをするとは、長生きはするものですなぁ」


 ニコニコしながら言うと、一緒に連れてきた若者を紹介した。

「日下塾で見所のあるヤツを選りすぐって連れてきた。

 20歳なので、丁度よかろうと思った」

「小出兼政と申します。

 事情はあまり存知上げませんが、師匠から大変やりがいのあるお役目とだけは聞きました。

 なにとぞ、よろしくお願いいたします」


「谷田部の里からこの活動を支援頂く飯塚さんも含めて、ことが成るときには、拙を含めここにいる3人の老人は泉下におるじゃろうて。

 言うたら失礼じゃろうが、拙の後は日下さんが、日下さんの後は間宮さんか高橋さんが率いて活動することになる。

 まあ、拙は例外として、平均60で終わると考えれば、皆ちと歳が足らん。

 ここにおる3人の若者ならば、その成果も確かめられるじゃろうて」

 伊能翁は、またゴホゴホと咳をしながら暴言?を吐いている。


「それはさておき、昨日はどのような話がされたのでしょう」

 日下さんは聞きたがった。

「ソロバンに代わる機械式の計算機をこしらえてはという話をした」

 間宮さんが、その日の話しの概要を伝えるうちに日下さんは興奮し始めた。

「ソロバンほど汎用性はないかも知れませんが、これは重宝しますぞ。

 歯車で数字を回して結果を算出するですか。

 結果を別な機械式計算機に設定することができさえすれば、無限の可能性が生まれますぞ」

 なにやら、伊賀七さんの九段重ねの算盤に似た発想をしているようだ。

「もしその機械ができたら、少なくとも2台は言い値で買い取りますぞ。

 伊能さんのところが先にと言われておるのでしょうがありませんが、その次には是非譲ってくだされ」

 伊賀七さんは評判の良さに驚いてしまっている。

 簡単な計算ができる能力というのが、どれだけ渇望されているのかというのを改めて意識し、かつソロバンが電卓に駆逐されたという経緯を目の当たりにした瞬間なのだ。

「では、私は早めに谷田部に戻り、機械式計算機の開発の算段をつけねばなりますまい」

 伊賀七さんは、早々に帰郷の準備をするべく、江戸藩邸と谷田部への文を書き始めた。


 一応座敷には全員揃っている状態となった。

 正面には、三方に乗った妙見菩薩像、向って左から俺=八兵衛、伊賀七さん、日下さん、小出さん、妙見菩薩像に向って右から、高橋さん、間宮さん、伊能さん、忠誨ただのりさんの並びだ。

 4人が相対して向き合っているが、一昨日との差は記録係りが忠誨さんという所だ。

「菩薩様が問題にされた1856年の『修好通商条約』について、不利とした点をお教えくだされ」

 高橋さんが切り出した。

「具体的な文言は覚えておりませんが、問題となるところの概要は判っています。

 まず、条約の中身でまずいところです。

 居留地内の治外法権を認めたこと、関税自主権が無いこと、最恵国待遇を与えたことです」

「治外法権とは、日本人でないものがからむ法律違反での処罰を行う権利が日本の領土内で行われてもこれを認めない特権です。

 居留地で異人が日本人から盗みをしたり、人殺しをしても、これを調べて裁く権利が日本にはないということです」

「関税自主権は、物品を輸入・輸出する時に国が掛ける税金を決める権利です。

 国内産業の保護や振興のために恣意的に運用するのが一般的ですが、幕府にはこういった概念がないため、相手が良いように決めればと考えた節があると思います。

 この中身を理解するためには、年貢米のことを考えればよいと思います。

 外国から非常に安い米がいくらでも買いつけできるとなったら、幕府は困りますよね。

 それとは違う場面で、外国から日本の米をどんどん買いつけされてしまった場合も困りますよね。

 こういった外国との取引をする時に、国民のために国が税金をかけてて手綱たづなを握るのが普通ですが、これが自国にはな他国の良いように設定できてしまう、という所の問題です」

「最恵国待遇ですが、これは条約を結んだ国以外で、もっと良い貿易の条件を結ぶ国があった場合に、その良い内容に換えることができるという内容です。

 国として恣意的に付き合う国を選定できなくなるという意味では、権利を放棄するに等しい行為です」


「しかし、この条約の中で、この条約以前にも結ばれた条約や取り決めの中で最悪と思われるのが『外国通貨と日本通貨は同種・同量での通用』を明記した点です。

 実は、日本は今例外的に金を沢山保有する国なのです。

 そして、貨幣として銀も使われていますが、銀は刻印を打つことで銀自体の価値より高い購買力を与えられています。

 この結果、貨幣に使われている地金だけで見ると、金と銀の交換比率は1対4位に非常に接近しています。

 貿易で、外国銀貨を持ってきて日本の銀貨の銀と同じ量の貨幣と交換し、その上で日本の中で日本の銀貨を小判に替え海外に持ち出すだけで、3~4倍の利益が生まれます。

 その分、実は日本の富が流出しているのです。

 外国はハゲタカのように日本の富を狙っていて、結局条約で縛って富をまんまと引き出した、というのが真相ではないかと思います」


「このような海外からの交渉や条約締結に対して、国内は混乱します。

 一番の原因は、開国・鎖国と意見が分かれたこと。

 この問題に、天皇の勅許がからんでしまったこと。

 蒸気船の出現に、海防が困難であり、国土を充分守れないことが認識されてしまったこと。

 などが上げられます」


「今述べた内容は、俺が学校で教わった内容をまとめたものです。

 なので、ひょっとすると、わざと間違えた内容を学校で教えている可能性もあります。

 その時代ごとに政治まつりごとを行うところは自分に都合のいいことだけを教え込もうとする性質があるので、なんらかの巧妙な嘘を織り込んでいる可能性もあると思ってください。

 俺は、貨幣の銀の取り扱いが日本は他の国と異なっているため、同種・同量の原則に絶対乗せないことで、金という富が安易に海外に流出することがないようにしたい。

 貿易の関税権を手放さないことで、日本の富や経済振興策を海外に牛耳られることがないようにしたい。

 日本国内での外国人の犯罪は、日本の手で調査・処罰を行えるようにしたい。

 その他、権利として本来持っているものは、これを手放さないようにしたい。

 そう考えています」

 俺は幕末に対応したいと思っていることを、おおよそ全部吐き出した。

「あと、このような問題が起きている最中に、幕府の内部は将軍の世継ぎ問題でざわざわしており、実際には体制としても無理がきていたのかも知れません。

 しかし、この知識が生きて、幕府が対応できるのであれば、体制としては維持でき、多分明治維新という状態にはならないと思います」


誤操作でデータロストしました。

設定資料もロスしたので、ショックが大きいです。


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