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伊能忠敬邸 計算機開発の決着と諸々 <C140>

やっと計算機開発の目処が立つところです。

■ 文化十四年、6月23日(1817年8月5日)午後その2、深川黒江町


 奉公換えの話しが決着したが、ちょっと考えてしまった。

 1両はだいたい平成の10万円に相当するというのが俺の感覚なのだ。

 すると、計算機開発資金として2000万円をポンと出し、おまけに俺の奉公換えの支度金として500万円を上乗せしたのだ。

 もちろん、このお金は俺に一円も入ってこない。

 俺の価値が500万円って、高いのか安いのか。

「八兵衛さん、奉公人の給金って判りますか」

『はい、伊賀七さんのところで、ワシら奉公人は年4両程度もらっております。

 もっとも、給金はほとんど実家に直接渡されております。

 これ以外に食費やなんやかやで、給金以外に年2~3両はかかっているんじゃないでしょうか』

 すると、年俸で60~70万円、大目にみて年100万円として5年分の年俸になる。

 まあ、金銭トレードの対価としては妥当と思うことにした。


「伊能さん、計算機の仕組みについて、これから八兵衛と内輪の話をさせて頂きたく、よろしいですかな」

「奉公換えの口約束をさせて頂きましたが、内輪のことなのでご用のある時は今まで通りでも良いと思いますぞ。

 ただ、今から谷田部の里に連れて戻るという様なことだけはご容赦くだされ。

 寝具はもう片付けているであろうから、隣の間で存分にお話くだされ」

 伊賀七さんと一緒に俺=八兵衛は隣の部屋に移った。


「伊賀七さん、藩に遠慮することがない資金が出ましたね。

 これで工房を拡大できますよ。

 今までのカラクリ人形だけでなく、熱気球、計算機と目玉が出来ましたね。

 計算機はまず木工で動作確認する見本を2~3個作ってから、金属の歯車に写せばよいのだから楽勝ではないですか」

「嬉しい限りだが、計算機を任せることができる奉公人を見出すことができるかが問題だなあ。

 お前が、健一様が憑依する前のお前だったら、計算機を任せられたんだがなぁ。

 庄蔵は、今まで通りのカラクリ人形を任せる。

 吉之助には、熱気球の実験があるだろう。

 ここで大雑把な仕組みを決めておいて、工房で皆に見せた時の様子で考えるか。

 さて、図面だが概観からはよく判らないところもあったので、教えてもらいたい」


「伊賀七さん、俺はこの機械式計算機を作ったことが無く、外観を見たことがある程度と原理くらいしか判っていません。

 なので、設計図をポンと出せるわけではないのです。

 里では、足し算を桁ごとにハンドルを回すイメージで説明しましたが、桁上げタイミングを考えて桁数分の空送り機構を設けることで1回の回転で全桁の加算を終わらせることができます。

 引き算では、ハンドルを逆方向に回すことで実現できます。

 ただ、計算結果が0を跨ぐ状態になった場合は、ベル音を1回鳴らすような機構を設けてください」

 俺は概念を何枚もの図を書いて説明をした。


「掛け算と割り算は、設置した値のブロックを1桁づつ左右にずらしながら実行させます。

 掛け算では、下の桁から数分の加算を行います。

 割り算は、上の桁から順番に引き算をして、0を跨ぐベル音が鳴ると、1回足し算をし、0を跨ぐベル音をもう一回鳴らして次の桁の計算に移るという操作をします」

 ここで、多分理解が追いついていかない所と考え、しばらく間を置いた。


「上のブロックを左右に1桁動かすという動作が必要になります。

 かなり大きなものが、1桁動き、また計算動作を行うという状況になるため、かなり精密なかみ合わせを作り込む必要があります」

「こういった刻みを必要とする動作が多ので、歯車同士がずれないための機構で、かつ必要な場合はスムーズに動くという機構を考えねばなりません。

 例えば、歯車の横に1刻み毎に勝手に動かないように溝を軽く押さえる仕組みを付けるとか、歯車の位置を固定したり開放したりする仕組みが必要です。

 また、歯車の位置を初期の場所に速やかに戻す仕組みも必要です」

 モタモタとした説明になってしまったが、これ以上の説明はできない。

 あとは、一緒に考えていくしかない。


「健一様、大体の所の原理は判りました。

 多分、動く部分が軽く動き、留まるべき所できちっと止める仕組みの工夫が鍵ですね。

 回転させる軸をきちんと止めて、かつ軽く動かせるようにするには、穴に軸を通すだけでは難しいですね。

 何か良い解決策をお持ちですか」

 伊賀七さんは、なかなか良いところに目を付けている。

「軸を支えるところにコロを入れるという案がありますよ」

 俺は軸受けにベアリングを使うことを提案し、コロを持つ軸受けの図を描いた。

 本来は鋼のボールベアリングを使う所だが、同じ大きさの真球のボールを作るより、円筒を作り、これをスライスしたものを並べるほうが良いのではないかと考えた。

 精度がある程度あがれば、磨耗が少ないブレが起き難い軸を作ることができるハズだ。


「なるほど、この構造の部品なら作れそうです。

 コロ同士がぶつからないように、ガイドの円環型の板でコロの位置を固定するのが良いかも知れません。

 これだけの資料があれば、まずは里で検討できる感じです。

 ありがとうございました」

 一応の説明が終わったあと、伊賀七さんと一緒に俺=八兵衛は座敷へ戻った。

 もう夕食の時間となっていた。


 戻り次第夕食という段取りになっていたのか、女中さんが箱膳を並べ始める。

 主食は、白米ではなく、麦を混ぜた雑穀米となっていた。

 早速にも脚気対策を試すようだ。

 残念なことに「うなぎ」は無かったが、味噌汁には豆腐が入っていた。

 単に主食の改善だけでなく、三菜のところも若干青物の量が増えているようだ。

 小さなところからの変化だが、これで忠誨さんが丈夫になればシメたものだ。

 なにせ、ここにおられるご老体の方々は、明治を見ることはないからだ。

 ご飯を食べながら、明治に思いを馳せていた。


 そして明治になる前の幕府の権威が下がった要因を考えていた時だ。

 俺は突然幕末に発生した大地震と疫病のことを思いだした。

『確か、和親条約を結んだ直後に大地震が立て続けに起きて、またコレラなんかの流行はやり病が発生したんだよな。

 これを、異人が神国に足を踏み入れるようになったからだ、という噂が横行して、こういった天変地異も幕府の権威を下げる背景になったのだ。

 コレラは、これは確かに異人が持ち込んだのだよな。

 異人の居留地については、検疫をきちんとするしかないだろう』


「皆様、食事中ですが妙見菩薩様が天災のことを思い出したのでお伝えしたいとのことです。

 丁度、和親条約を結んだ時期なので、1854年の頃になるが、大きな地震がかなり広い範囲で何度も起きること、大きな津波で東海道・南海道全体で海岸に近いところは壊滅的な被害を受ける、と仰られています。

 これは人が関与できない天災なので、対抗策はなく、ただただ高い場所へ避難するしかない、とのことです」

「また、異人との接触が頻繁になってから、異人経由で疫病が日本へ入ってくるそうです。

 こちらについては、異国人との接触を限定できるよう、居留地を設け検疫を徹底して行うなどの対策が有効だそうです」


 こう述べた八兵衛さんに、伊能翁は応えた。

「貴重なご示唆を頂きありがとうございます。

 幕府天文方の予言という形で、寺社奉行を通じて各地に伝えることが可能と考えます。

 あと37年も後の話しですが、今からこの時期が危ないと具体的に伝えれば、被害は軽減されるものと思います。

 異国人の居留地というと、出島のようなものかと思われますが、こちらも重用な留意事項として伝わるようにいたしますぞ。

 他にも思い出されたことがあれば、いつでも結構です。

 大小を問わずお教えくだされ」

 こう言って、妙見菩薩様の置かれているところに向かい平伏した。


 俺はここで八兵衛さんから意識を落とした。

タイガーの機械式計算機は、今でもファンがおります。Webで検索すると、そういった方々のブログなどを閲覧でき、大変参考にさせて頂きました。

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