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伊能忠敬邸 離れの間 方針(体制) <C135>

絶対間に合わないと思ってましたが、ギリギリ出来上がりました。


■ 文化十四年、6月22日(1817年8月4日)午前、深川黒江町


 俺が意識を取り戻したとき、すでに皆座敷に揃って雑談をしている時だった。

「八兵衛さん、今意識がやっとはっきりしたのだけど、もう翌日になったのかな」

『はい、なかなかお返事がないので、ちょっと驚いています。

 昨日はかなり思い出すことをされたので、お疲れだったのですね。

 もう、朝ご飯も終わっています。

 今朝も一汁二菜と豪華でした。

 まあ、昨夜の里芋の煮物がそのまま出たという感じでしたがね』

「こちらの朝食を、ちょっと見たい気もしたので、残念だったなぁ。

 昨日の夜は、あの後どんな話が出たのかな」

『いろいろと聞きたいところをどう絞るのか、という点を話していました。

 やはり、西洋との交渉を含めた政策について、幕府はどうすればよかったのか、を知りたいとのことでした。

 今朝も、朝食前にそういったところを聞きたいということで盛り上がっていましたが、肝心の健一様が目覚めていなく、お返事がないので心配していました』

「もうスッキリとしたので、大丈夫ですよ」


「皆様、今妙見菩薩様から目が覚めたとのお声掛かりがありました。

 お疲れになると、しばらく連絡がとれない状況になるようです。

 幸い、今はスッキリとしていると仰っているので、またお話が出来るようです。

 前に、谷田部で憑依のし直しを実験した時も、精神集中した後にしばらく連絡がとれない状況になりました。

 多分、精神的に大きな負荷を掛けると、それに応じて意識が飛ぶようです。

 あまり負担がかからないようにお願いします」


「では、健一様、よろしくお願いします。

 昨日、大変興味深く今後の歴史をお教え頂きましたが、その中で幕府の失政と言われる所をもう少しお聞かせ頂きたく、またもしこうすればよかったと思われているところがありましたならお教えください」

 今朝は正面に座る高橋さんが主導して声を上げた。


 俺は正面に座る高橋さんについて、昨日隠していることがあった。

 しかし、もう歴史を変える覚悟を決めたのだから、まずはここから救う必要があるだろう。

「高橋さん、その話を始める前にお話しておかねばならないことがあります。

 まだ来日していないと思いますが、長崎の出島にあるオランダ商館にドイツ人医師としてシーボルトが着任します。

 このシーボルトが随行して江戸に来た時に、天文方の方と交流します。

 その時、西洋の書籍とここで書き起こしている地図を好意で交換します。

 この地図は、幕府の方針で国外持ち出しを禁止されていました。

 1828年にシーボルトが帰国する際、台風で船が座礁し、この地図が見つかったことから、関係した人が何十人も投獄されます。

 高橋さんも投獄され、その年の内に獄死しています。

 1828年ということであれば、あと11年しかありません」

 俺の話しを聞いて、皆真っ青な顔になった。


「幕府が国外持ち出しを禁止した地図がシーボルトに渡ったことを責められて投獄されるのですが、これ自体は国禁を犯したということで、法に照らせば仕方ないことです。

 しかし、幕府がなぜ国外持ち出しを禁止したのか、という点からなんとかする方法があると考えます。

 西洋諸国は、石炭や薪を燃やして得た蒸気の力で自在に大海を動ける軍艦を持っています。

 この軍艦の力を持ってすれば、日本の沿岸を測量して回ることは難事ではありません。

 従い、今作成している地図を外国から隠匿することの意味は小さいこと。

 むしろこの情報で西洋諸国との関係を上手く制御することを考えるほうが良いこと。

 こういったことを、幕府自身で意識してもらえれば、国外持ち出しの禁制は制定されず、シーボルトの手に渡っても咎められなくなると考えます。

 この地図作り自体は、幕府は調査の許可を与えただけで、実際の費用は伊能さんの自費と聞いています。

 ならば、献上の機会に製作者側からの上申も可能ではないかと考えられます」

 仲間が国禁を犯して獄死するという予言に思考停止に陥っていた皆は、八兵衛さんの口から語られる俺の言葉で思考を取り戻した。


 まだ出来上がっていない地図の取り扱いに法は及ぶ訳もなく、地図が出来上がったときに定められるであろう法に干渉すればよいのだ。

 すると、いつどういう意図を持って西洋諸国が来るのかが判っているこの状況を整理し、日本・幕府としてどういう未来を持ちたいのかに照らして対応を考えれば良いのだ。

「断片的な情報しか提供できませんが、まずこの日本が、幕府が世界の中でどういった位置にあればいいのか、日本に住む領民が幸福であるようにするためにはどうすればいいのかを考え、仮でも良いので将来像を決めませんか」


 ずっと記録を書き殴っていた間宮さんが筆を留め、三方の方に軽く頭を下げ口を開いた。

「妙見菩薩様、言われることはもっともでよく判りますが、ここにいる人ではそのような大きな方針は決められませんし、例え決めたとしてもその方向に寄り添うにはちょっと荷が重すぎると考えます。

 この場で得られた情報を整理して、将来の方向性を決めることに長けた人の所へ流して考えて頂き、その結果をまた見て頂く形にするのが良いと考えます。

 いずれにせよ、八兵衛さんという貴重な人材を擦り潰されてしまわないよう、危ない所は我々の手で保護していくことが肝心と考えます。

 その意味でも、健一様が妙見菩薩様に憑依したという形は非常に重要で、皆もその形を尊重して頂く必要性があります。

 また、口寄せも八兵衛さんだけができるという事実を巧妙に隠匿しなくてはなりません。

 この点については、良い案を思いつきませんが、どなたか考えつきますでしょうか」

 俺は、間宮さんの考えを良いと思ったが、どういった人を引き込むのかが心配だった。


「核心を知っているのは我々だけとして、この場にももう2~3人事情を察して口の堅い人を作業する人として取り込む必要がありますな。

 間宮さんの記録した半紙を整理して見れるようにする作業だけでも、どなたかにお願いしないと、間宮さんが潰れてしまいます」

 日下さんは、可能なら若い弟子の一人を連れてきたいという希望を述べた。


「では、ここの伊能家からと日下さんからそれぞれ1名追加し、食事を給仕する女中についても昨日と今朝の女性を、我々のしていることを口外しないという約束で、ある程度見聞き可能とすることで宜しいですかな」

 伊能さんがこの会の体制についての方針に関する判断を下した。

 それ以外に、幕府内でどういった人が政策の立案や施行といった仕組みに詳しいのか、例えば勘定方といったエリート集団からこれという人を高橋さんが一本釣りし、この方を連絡係りとして仲間に取り込む方向で進めようとなった。


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