伊能忠敬邸 離れの間 第一次世界大戦~2017年まで <C134>
少し短いですが、どうにか書き上げました。
「この辺で一息いれてはどうでしょうか」
夕闇が迫る頃、高橋さんが声をかけた。
もうそろそろ夕食時ということで、皆で一旦離れの間を片付けた。
間宮さんが記録係りだったが、座敷の真ん中に半紙が山のように積みあがっていたのだ。
これをめいめいが手に持ち隣の部屋へ移り、伊能さんが人払いの警護をしていた門下生へ声をかける。
「座敷へ夕飯の支度をお願いしますぞ」
バタバタと先ほどまで膝詰めで話しをしていた座敷に箱膳が運び込まれ、夕食の準備が行われた。
昼食を仕切っていた女中さんが、今回もお給仕をしてくれる。
箱膳の上は一汁三菜になっている。
八兵衛さんが『うわぁ~。ご馳走だぁ』と頭の中で喚いているところからすると、かなりのご馳走のようだ。
里芋の煮付けと、焼き魚、毎度の沢庵が乗っている。
ご飯は白米で、こちらはお代わりがどんどんできる。
「こちらでは、いつもこのような夕食なのですか」
伊賀七さんが聞くと、お給仕をしてくれている女中さんは「いつもと同じですよ」と返答している。
『これが毎日なんて、ここは天国だ』と八兵衛さんは脳内で叫んでいる。
「浮かれているんじゃないよ。
俺もそうだが、ここにいるお歴々に試されているんだぞ」
ちょっと注意すると、一瞬で正気に戻った。
皆のペースに併せてそそくさと食事を終わらせると、座敷に明かりが入れられた。
「では、続きをお願いしますぞ」
伊能さんが声をかける。
『この様子だと、誰かがぶっ倒れるまで続くのではないか』と、そんな心配をした。
だが、もう続けていくしかない。
「まず、1912年に中国で革命により清の皇帝が退位し、清王朝が無くなります。
この後の中国は、革命政権である中華民国が成立しますが、実態としては各地の軍閥がそれぞれの地を支配するような形となり、大陸を統一する政権がなくなります」
「次に1914年にヨーロッパで複数の国の巻き込んだ長い戦争が始まります。
これを第一次世界大戦と呼びます。
ドイツ・オーストリア・ハンガリー・トルコといった同盟国と、フランス・イギリスとの同盟国、および、ドイツを挟んで反対側のロシアとも戦争を始めます。
戦争は1918年にドイツが降伏して終わりました。
この時、日本は同盟関係のあったイギリスに組みしており、中国のドイツ租借地・膠州湾を攻略し、南太平洋のドイツ領南洋諸島を占領します。
第一次大戦後これらの南洋地域は信託統治領として日本が治めるようになります」
かなり大雑把で、国内事情は一切省略した。
しかし、この天変地異だけははずせない。
「海外との関係ではないのですが、1923年9月1日の丁度お昼に相模湾を震源とする大地震が関東を襲います。
江戸やその周辺に広がりつつあった都会が火災に飲み込まれ壊滅状態になり、おおよそ10万人がこの震災で亡くなりました。
実は200年の間には、これ以外にも多くの地震が起きていますが、日時と場所を覚えているのは被災者の多さから言ってこの地震だけです。
後は、2011年3月11日に常陸国を襲った地震と大津波で、特に大津波で2万人以上の人が亡くなりました。
少なくとも、年月日と場所が判っているこの2つの災害は、天災なので介入のしようもないので、広く後世に伝えていくべきと考えます」
「1929年、アメリカの経済を支えていた市場が大暴落して不況となります。
これを金融恐慌と呼びます。
この影響が全世界に伝播していき、主要な国は他国の影響を排除した経済体制=ブロック経済体制に走ります。
日本も例外でなく、朝鮮半島の北側に広がる中国東北部に1932年に満州国という傀儡政権の国を樹立します。
傀儡とは言え、1912年に退位した清の皇帝を満州国の皇帝に戴いた国で、ある意味清国の後継という位置づけに考えていました。
この国を含め、日本が主導して東アジアに強固な経済圏を構築して不況を乗り切ろうとしました。
1937年、中国と日本が小競り合いから、宣戦布告なしの戦争を開始します。
色々異論はあるかも知れませんが、俺はこの戦争の裏で糸を引いていたのは、満州という市場に参入を拒まれたアメリカではないかと疑っています」
「1939年、ドイツがフランスへ侵攻し第二次世界大戦が始まります。
この時の日本は、ドイツ寄りとなっており、以降ドイツと同盟を結んでいきます。
1941年、石油という戦略物資の輸入制限政策・厳しい経済制裁を行うアメリカ・イギリスに対し、日本は戦争を開始します。
しかし、1945年日本は攻め込まれ、降伏して戦争は終了しました。
それから1952年まで7年間、日本はアメリカに占領されました。
1945年から1952年までの間に、日本の統治体制は大きく変わりました。
1868年から1945年まで、天皇を中心とした政権でしたが、1945年以降は天皇は象徴として君臨するだけで、国民が主権者となって選出した議員による政党内閣が行政を行う体勢となりました。
以上が、大雑把な幕府が倒れた以降の歴史です」
「健一様、長々とありがとうございました。
皆様、色々な内容を含んでいるので、理解には時間がかかるかと思います。
間宮様が採られた記録を明日朝から整理するということで、今日はここまでにしましょう。
お休みになりたい方は、隣の部屋で寝具をお使いくだされ」
伊能さんから、今日は終了の宣言が出された。
頭を全力回転させていた俺はほっとした。
「八兵衛さん、もう我慢できないので、俺は寝ます。
後はよろしくです」
『健一様、実はワシもクタクタです。
しかし、伊賀七さんがこちらにいる以上、ワシが寝に行く訳にはいきません。
健一様はそのままお休みください』
「皆様、妙見菩薩様は『このまましばらくお休みしたいので、後は宜しく』とのことです」
大雑把ではあるが、これで一応歴史を語ることはできた。
この後、離れの間で巨頭同士での意見交換が行われるのであろうが、構うものか。
俺は開き直って、意識を落した。
流石に厳しい状況なので、もう連投は難しいです。