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江戸出立前 <C128>

やっと江戸行準備というペースですが、1週間もしない間に決まる、というのは今の時代でも結構速い部類だと思います。

<伊賀七>

 急ぎ別宅へ戻ると、丁度これから夕食といった所でした。

 まず女中トメさんへ、私の分も追加するようお願いします。

 そして、膳の準備ができたら、八兵衛・吉之助と一緒に食べはじめました。

 食べながら、話すことではないのでしょうが、もう意識の中では明日の朝です。


「藩庁からのお沙汰もあり、明日早朝より、八兵衛と江戸へ行くことになった」

「トメさんには、道中の昼餉ひるげを準備してほしい」

「以前から依頼されているカラクリ人形二体を持って最初藩邸に行く。

 その翌日から伊能忠敬様のお屋敷に逗留する。

 どの位逗留するかは、定かではない」


「今朝指示した天灯の実験については、検討した内容でよいので、吉之助の手で進めるようにする。

 工房の庄蔵には、吉之助をいつもの作業から外すように指示しておく。

 まあ、私がいないし、八兵衛・吉之助の2人外れることになる。

 今工房でしている作業を4人でなく2人でするしかないので、期限は1か月位は延ばすしかないか」

 もう、指示だか一人言だか判らない状態で夕食を終えました。

 夕食の後は、本宅・工房へ赴き、江戸出立へのこと、留守のことを頼みました。



<健一>

 少し遅めの夕食時に伊賀七さんは別宅へ戻ってきた。

「明日早朝より、八兵衛と江戸へ行くことになった。

 八兵衛と吉之助は、そのまま一緒に夕食を取ろう。

 まあ、食べながら状況を説明する」


 伊賀七さんは、食事の間もひっきりなしに話を続ける。

 ある程度全体の枠組みが見えている俺は、今後の展開見込みを織り交ぜて話す伊賀七さんの意図が判る。

 八兵衛さんも当事者なのだから、見当くらいは付いているだろうが、吉之助は今朝からやっと事情説明の一部を聞きかじった程度なので、混乱しているに違いない。

 今夜にでも、時間があれば八兵衛さんから当面の身の処し方を伝えておいたほうがよさそうだ。


 いずれにせよ、先が開けたという思いで嬉しさが込み上げてくる。

『やっと江戸行きになった。

 江戸では伊能忠敬先生の家で逗留することになるのか。

 まずは明日、江戸まで16里を一気に歩いて、江戸屋敷に行く。

 その夜はそのまま藩邸に泊まって、翌日深川であの歴史的大人物の伊能忠敬先生と会う。

 生の江戸体験、偉人との直接コンタクト、もう大興奮だ。

 楽しみだ。

 いろんな所を見てみよう』



<八兵衛>

 健一様の「思うがまま世の中を動かしてみたい」という思いを知ってから、先を見て今何をするべきなのかを考える、という風に頭を切り替えようとしていた。

 健一様もこの考え方で良いとされたのか、ワシのすることに細かい口出しは見事な位何も言ってこない。

 また、ご隠居様がワシに対する態度も少し変わってきている。

 ワシの中に健一様がおられるという事情もあるのだろうが、何かと意見・同意を求めてくるようになった。

 その居心地の悪さから、妙見菩薩様を拠代と見立てる献策をし、ワシに対する口調はやっと元の調子に戻ってきたものの、意見を出すように促す扱いは以降も変わらなかった。


 例えば、今朝のご隠居様の指図による実験計画の検討だが、今までこのような指示はなかったことだ。

 ご隠居様は「これをいつまでにやれ」の指示はよく下されたが「どのようにするのかをまとめろ」は初めてなのだ。

 まあ、ワシはこの変化を歓迎する。


 夕食時になって藩庁から戻られたご隠居様は、開口一番明日朝に江戸へ出立する旨、指示なされた。

 ワシも同行するとのことだ。

 健一様も江戸には行きたいご様子だったので、この指図には満足だと思う。

 ただ、ここに残る吉之助については、心配だ。



<吉之助>

 八兵衛さんの指導で、なんと天灯の実験にかかわれるようになった。

 八兵衛さんと二人だけで話をするということは、実の所今までそんなにあった訳ではない。

 しかし、今日見た八兵衛さんは、数日前と随分違う印象を受けた。

 まるでご隠居様のように、先を読んで仕切るのだ。

 前はちょっと早く奉公を始めた同僚という感じだったのに、今は先生のようだ。


 三方に鎮座した妙見菩薩様を最上座に据え、この菩薩様に健一様とおっしゃる方が付き、今までにない知恵を授けてくれる、とのことだ。

 『天灯・天篭にかかわる実験や開発は、吉之助に任せたらどうか』と妙見菩薩さまがおっしゃって、この件は自分が入ることになったという経緯を教えてくれた。

 また、今迄はご隠居様からの具体的な指示通りにすればよかったが、天灯・天篭については、人を浮かせるという目的のため何をすればよいかを検討せよとの異例の指示になっている。

『天灯・天篭の特性を測る』がこのための手段となる。

 これを目標として、手段を考案・積み上げるという作業をするのだ。


 八兵衛さんと、時に妙見菩薩様からの意見を頂き、なにをどう測っていくのかについて、まとめあげる事ができた。

 これをご隠居様に説明・報告することを考えるとワクワクしてしまう。

 カラクリが思いのほか良い仕上がりになった時に早く見てもらいたいのと同じ心境なのだ。


 さて、夕食時にご隠居様が戻ってこられたが「明日から八兵衛さんと江戸へ行く」とのことだが、検討した『天灯・天篭の特性を測る』という課題については、今工房でしている自分の作業分も含めて棚上げして取り組むことを指示された。

 兄貴分の庄蔵さんから仕事の指図を受けず、自分の課題だけ取り組めばよいという状況は初めてだが、これはいい機会かも知れない。

 今夜、工房に戻ってから、庄蔵さんにもご隠居様の指示を確認しておこう。



<トメ>

 いつも通りの平穏な奉公の日々で無くなっていたここ数日に止めを刺されました。

 明日から私がご奉公する先のご隠居様が江戸へ行かれるのです。

 ご出立の準備はきちんとさせて頂きますが「どれくらいの逗留になるかは判らない」とのことです。

「八兵衛さんも同行する」とのことですが、本当は「八兵衛さんを江戸に連れて行く」という事なのだと私には判ります。

 なぜだか、もう八兵衛さんはこの里に戻ってこない気がしました。


 いろいろ考えても仕方ありません。

 明日から別宅は掃除だけとなり、工房を手伝うことになります。

 多分、工房担当の先輩女中二名の内、お一方が本宅のお手伝いになるのだと思います。

 どちらの方が移るのかで、短期なのか長期なのかが解りそうです。


毎日投稿を目標に頑張ってきましたが、ちょっとギブアップです。


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