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三日目の午後 <C114>

いよいよ伊賀七さんのカラクリ人形、茶運び人形にご対面です。

 ここ谷田部から俺が事故にあった場所まで丁度南西方向で百里あるとすれば、時差で17分と算出できることを説明した。

 そして、その計算を行うために俺が乱雑にゴチョゴチョと計算し書き留めた半紙を集めた伊賀七さんは、顔色も朱に染めながら、ウンウンと唸りながら注釈を入れている。

 まあA高校レベルの地学・数学の知識なのだから、それほどのこともないのだろうが、和算とは違うやり方に面食らっているには違いない。


 俺をほったらかしにしていたことに気づいたのか、伊賀七さんは手にした半紙から顔を上げ問いかけてきた。

「健一様、深川の三郎右衛門様・伊能忠敬様に距離を調べてもらうようにお願いしたいと考えます。

 ここ谷田部の場所は判っているのですが、健一様が元いた場所・事故にあった場所について、手がかりはお持ちですか」


 俺は昨夜色々と頭の中を探索した結果を話すこととした。

「麻生というのが代表される地名です。

 この場所が今どのように呼ばれているかは判りませんが、そこへ行く目印を考えてみました。

 江戸の西側には多摩川が流れています。

 その多摩川の途中に登戸という地名があればそれが最初の手がかりです。

 そこから西に向っていくと、王禅寺・万福寺という寺があると思っています。

 俺がいた時代にその寺があるかどうかは不明ですが、少なくとも地名にはなっていました。

 そして、金程というのが決め手となる地名です」


「なるほど、多摩川西岸沿いの登戸を基点に、そこから西に向って麻生・王禅寺・万福寺という名前を追って、金程があればそこが元いた場所ということですね。

 これだけの材料があれば、特定することは難しくないと思います」


「ところで、そろそろ夕食にしませんか。

 夕食の後、私は深川の三郎右衛門様・伊能忠敬様に出す文を書きたいと考えています。

 なので、夕食の後は私がお構いできませんが、最近作成したカラクリ人形を見ていろいろとご助言頂ければと思います。

 八兵衛もかかわっている人形なので、分解して中を見てください」

 伊賀七さんは、女中のトメを呼ぶと夕食の準備をするように命じた。


「八兵衛、カラクリ人形と茶道具は座敷に出しておくので、そこで動かしなさい。

 しっかり説明して健一様から助言を頂くのだよ。

 頂いた言葉は、半紙に書いて残しておきなさい」


 書斎から座敷に移って夕食が始まった。

 箱膳の上が、一汁二菜と昨日までに比べ、華やかになっている。

 沢庵たくあん以外に、梅干がついている。

 主食も昨夕の雑穀米を炊いたものではなく、同じ雑穀米だが茶粥となっている。

 囲炉裏にかけられた大なべに茶粥が作られており、お代わりは横に座るトメさんの給仕である。


「トメ、これはどうしたのかい」

「はい、ご隠居様。

 何やら難しい課題を抱え、人払いを徹底して八兵衛さんんと篭っているという状況を、本宅の上女中ハナさんにお話したところ、口当たりの良い御粥が良いとの助言を頂きました。

 沢山造りましたので、存分にお召し上がりください」

 この茶粥と梅干の組み合わせは見た目にも美味しそうで、今まで意識して遮断していた味覚を開け、こちらの食事を五感から楽しむこととした。


「茶粥が美味い!

 梅干もなかなかだが、沢庵も合う。

 多少塩辛くて出汁が効いていないと思った味噌汁さえも、この茶粥を引き立てている。

 こりゃ美味い」

 俺は、体の主である八兵衛さんに伝えた。

『本当に美味いですね。

 これで、いくらでもお代わりできるなんて、ワシには贅沢過ぎますよ。

 こんなにいい待遇なんて、今までにはなかったことです』

「トメさん。ご飯が、茶粥がとても美味しいよぉ。

 ありがとう」

 お腹一杯になるまで、もう食べられなくなるという感じになるまで詰め込みました。


 満足のいく夕食が終わり、あと片付けが終わった。

 伊賀七さんは書斎に戻り、座敷にはカラクリ人形と茶道具、半紙と筆、それにポツリと八兵衛一人が残った。

 女中のトメさんは手早く床掃除を済ませると、人払いを徹底するため本宅と工房へ連絡をし、別宅の周囲の警戒に入った。

 書斎にご隠居様、座敷に八兵衛という違和感のある人払いされた別宅だが、主人の命ならしょうがないのだろう。


 南西向きの縁側に面した戸を一杯に開き、座敷をできるだけ明るくした。

 出してくれたのは、茶運び人形だ。

 一連の動作は次の通りだ。


 人形にお茶の入った茶碗をどこまで進むのかを設定しておく。

 人形の茶托ちゃたくにお茶が入った茶碗を乗せる。

 茶碗を乗せたまま、正面側に人形が進む。

 指定された距離を進むか、茶碗が茶托から取り上げられると、進むのを停止する。

 停止した状態で、茶托に茶碗が戻されると、向きを180度変えて、動いてきた距離を戻る。


 大きさはだいたい40センチくらい、重さは500グラムくらいか。

 木製で大きさの割りには軽い印象だ。

 衣装を剥ぎ、動作を見る。

 動力は「クジラのヒゲ」で、鋼のゼンマイと同じように巻いたものが元へ戻る力を使っている。

 歯車とカム、棒てんぷで動力が随所に伝えられ、それらしい動作を行っている。

 移動する距離は歯車で測っている。

 このおもちゃを手にして、ひと通り遊んでみた。


 俺が見るところ、動力とのバランスがあり、かなり制限があるようだ。

 全体が木でできているが、これも軽量化を意識しているのだろう。

 その分、歯車が磨耗しやすく、沢山使ううちに壊れてきやすいと見た。

 また、乗せる茶碗の重さに制限があると睨んで八兵衛さんに問うと、その通りとの答えだった。


 俺はこういった点を八兵衛さんに伝えた。

「木で作ると加工はしやすいし、軽いことはわかるのだけど、磨耗しやすいし重量にも耐えられないという欠点がある」

 八兵衛さんは、これを半紙に書き付ける。

「対策としては、鉄を非常に薄くした板を使えばよい。

 鉄を板として使うと曲げに弱いので、蜂のハニカム構造を取ると良い」

『ハニカム構造、蜂の巣構造とはどのようなものでしょうか』

「2枚の薄い板の間に六角形の筒を沢山立てたような構造だ。

 一体化すると、板としてみたときに隙間が多いので、硬さと軽さの両立ができる」

 八兵衛さんは、これをまた半紙に書き付ける。


 このようなやりとりを繰り返すうちに、日が傾き部屋が薄暗くなってきた。

 伊賀七さんはどうやら文を書き終えたようだ。

 座敷で片付けに入った八兵衛さんに声をかけた。

「健一様のお相手で手間をかけた。

 ことがややこしいので、文では説明が尽くせない。

 場合によっては一緒に江戸に行ってもらうことになるかも知れない。

 ああ、この半紙が、健一様からの助言か。

 ご苦労様だった。

 片付けが終わったら、今日はもう就寝してもよいぞ。

 また明日もお願いする」


 八兵衛さんの中に俺がいるという状況は、ちょっとややこしいので、伊賀七さんも戸惑っているようだ。

 今回は、伊賀七さんを見かけて最初に対応・声を出したのが八兵衛さんだったので、伊賀七さんは八兵衛さんとの応対する調子になったものと考えた。

 こうして、その日を終えたのだ。


八兵衛さんと話しをしながらカラクリ人形の点検をしていますが、結局は「ひとり」遊びしている感になってしまい、もう一つ面白みにかける執筆内容になってしまいました。

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