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Guiding Star  作者: 綾野雅
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第二章:図書館(1)



次の日、勇希は一人でお気に入りの灯台に行くことにした。その灯台はおよそ100年ほど前に建てられたもので、以来、この街のシンボルになっていた。今ではもう使われていない。

いつもなにかしら問題を抱えると、勇希はいつもこの灯台に来て、広く青い海とその上に果てしなく広がる青い空をただ眺めるのだった。


灯台のてっぺんで前の晩に母親から手渡された鍵を手にじっと長い間座っていた。そうすれば、その鍵について、なにか答えを見出せるかもしれないと思ったのだ。


だが、やはりなにも思い出すことはできなかった。それも無理はない、なぜなら彼女はただ自分の前世の記憶を探っていたのではないのだから。ほんの少しでも前世の記憶を持っているという人のほうがめずらしいのだ。


もし、あの占い師の言葉が真実だとすれば、勇希は古代において、重要な人物の一人だったということになる。だが、もしそうだとしても、それがこの鍵となんのかかわりがあるというのか、自分がどのような人生を前世で歩んできたかということだけでなく、生まれ変わった時に手にしていたという鍵の謎をとかなければ意味がない。


この鍵が自分にとって大切なものだということも、そしてそれが何を意味するのかを思い出さなければ何か大変なことが起こる、ということも勇希にはわかっていた。だが、漠然とした勘以外はなんの手がかりさえ見つけられない。


暖かなオレンジ色の夕陽が海面に照り輝いて、まるで金色の絨毯のように見える。


勇希はジーンズのポケットからチェーンを取り出すと、鍵の飾りがついた部分に通し、首にネックレスのようにかけると、失われた記憶を探すのを半ばあきらめ、灯台を出ようと立ち上がった。


その時、鋭い叫び声が灯台の建物にこだました。勇希はあたりを見回したが、誰もいる様子がない。


「錯覚、かしら?」


不思議に思いながらも出口へとまた足を向けた時、助けを求める声が聞こえてきた。勇希はキッと真剣な表情になると誰もいない空間に呼びかけた。


「誰なの?怪我してるの?どこにいるのか返事して!」


だが、海の漣の音以外はなにも聞こえてこない。さっきまで聞こえていたうめき声はまったく聞こえなくなっていた。


「疲れてるのかな」


勇希は苦笑いするとできるだけその場を早く立ち去ろうと出口へ急ごうとしたその時、勇希の胸の上に提げられていた鍵が突然金色に輝き出すと、まるで目に見えない誰かが引っ張っているかのように、ひとりでに宙へと浮かび上がったのだ。


「なっ!」


思わず勇希は息を呑む。


そのセピア色の瞳はまるでお化けでも見たかのように大きく見開かれている。鍵の先端が指している方向を見やると、地下へと下りる、錆びた鉄製の階段が見えた。


「な、あんな階段、今まで見たこともないわ…なんなのいったい」


もう幾度となくこの灯台に足を運んでいる勇希は、この灯台のことを隅から隅まで知っていたハズだった。もし、そこに階段があったのなら、必ず今までに気付いているはず。


知らないうちに、勇希の足はその階段へと向かって歩いていた。階段を降りきると、奥のほうに大きく、古い銅製の扉が見える。その扉は外から吹き込んでくる潮風のおかげですっかり錆付いて変色していた。


そばに近づいてよく見ると、扉の中央には大きな翼を背にかかげたライオンの紋章が描かれ、その下には古代文字のようなものが見受けられる。錆ついてはいたものの、勇希はその文字をなんとか読むことができた。


「偉大なる戦士の鍵を持つ者のみこの扉を開くことができるであろう」


勇希はこの文章をどこかで読んだような気がしてならなかった。扉を少し調べてみると、埃で隠れてはいたが左側に小さな鍵穴をみつけた。


「そうか、鍵よ!」


勇希は自分の首にさげていた鍵をはずすと、埃まみれの鍵穴の中に突っ込んだ。深呼吸を一つすると、ゆっくりとその鍵を回す。一度カチッと錠が外れる音がすると、その大きな扉がおおきな軋んだ音をたてながらゆっくりと開き、その背後に隠されていた部屋が現れた。そこは、大きな書庫のような部屋だった。


「うそ…」


勇希は自分の目を確かめるように部屋を見渡した。


部屋の3つの壁という壁が床から天井までびっしりと古そうな本で埋め尽くされている。目の前にある壁の上部には小さな窓がついていて、そこからやわらかな夕暮れの光がこの大きな部屋へと差し込んでいた。目の前に大きな机と椅子があるのが目に入った。


机の上には2冊の本が、まるで見つけられるのを待っていたかのようにたたずんでいた。一つはとても大きな本で古びた皮の表紙がついていた。勇希が手でそっと本の上に積もった大量のほこりを払うと、「紅劉国之歴史」というタイトルが浮かびあがる。


「紅劉国ですって?!」


勇希は思わず叫び声をあげた。


この本は勇希が長い間捜し求めていたその本に違いなかった。あの失われた帝国について書き記した者は誰もいない、少なくともそう考古学者の間では信じられていた。


勇希は7年もの間、この帝国について調べてきたが、なんの書物も見つけることはできなかった。それが今、彼女の目の前に静かに横たわっている。


その本を見ようと表紙に触れた瞬間、後ろで扉が無造作に閉められた音を聞いた。


「ちょっと!」


勇希は驚いて扉のほうへ駆け寄った。扉を開けようと引っ張ってみたが、鍵がかかっているのか、びくともしない。


「君が探しているのはこの鍵かい?」


子供の声が分厚い銅製の扉の向こうから聞こえてきた。勇希はこの部屋に驚いて、鍵を扉の鍵穴につけっぱなしにしていたのだ。


「ちょっと、ここを開けなさいよ!」


叫ぶ勇希にうれしそうに笑う男の子の声が聞こえる。


「ごめんね、お姫様。でも、僕は君をここから出すわけにはいかないんだ。ダコス様がこの鍵をご所望なんだよ。そして、君がここで死んでしまうことをね」


「何ですって?ダコス様?あなた、いったい何言ってるのよ?あなたは誰なの?」


だが、その声は彼女の問いには何一つ答えない。かわりに勇希は足音がどんどん遠くなっていくのを聞いていた。


「ちょっと!待ってよ!」


勇希は悲鳴にちかい声をあげた。


「ダコス様に感謝しな、お姫さん。ダコス様は君をかわいそうに思ってるんだ。だから死んじゃう前に君がずっと知りたがっていたことを教えてあげようって。ま、せいぜい楽しむことだな」


邪悪な笑い声が図書館にこだまし、勇希は静寂の中に取り残された。


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