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第三話 契約書

ここからクリスに変更があります。

「まあ、でも逆に言えばラッキーですよ。私だって、声もかけてこないようなギルドに身を置くつもりはありませんでしたから。もし貴方が声を掛けてくれなければ所属しようなんて考えもしなかったでしょう」


 なのであえて自分から自信を覗かせる発言を行う。勿論これには自らを売り込む意図もあり、ここからどう展開していこうかと、脳をフル回転させているわけだが――


「それではこの契約書をお読みください」

「それに、って、ふぁ!? 契約書?」


 だが、不意をつく用にテーブルに置かれた契約書。思わずアヴァンは口に含んだコーヒーを吹き出しそうになったが、なんとか飲み込む。


「目を通して頂き、問題なければ契約書にサインをお願い致します」

「ちょ、ちょ、ちょっと待て! いくらなんでも話が唐突過ぎるだろ!」


 そしてカップをテーブルに叩きつけるように置いた後、声を張り上げた。相手の要求があまりに唐突過ぎたからだ。


「ですが、今所属すると申されましたよね?」

「そういう気持ちがあるといっただけだ! 別に俺、いや、私はここと決めたわけでは――」


 思わず地が出そうになったアヴァンであるが、すぐに発言を改める。

 だが――


「そうですか、それではここではご縁がなかったということで」

「はぁああぁああぁあ!?」


 契約書をその手に戻し、席を立った後踵を返すクリス。その姿に思わずアヴァンが素っ頓狂な声を上げた。


「何か?」

「いや! 何かじゃねぇよ! なんだよそれ、なんでそんな話になるんだよ!」

「大分地が出てきましたね」

「は、あ、いや、これは――」

  

 思わず口を両手で塞ぐ。その姿にクリスが意地悪な笑みを浮かべた。


「別にいいのですよ。私もそのような堅苦しい喋り方は鬱陶しいだけです」

「う、鬱陶しい!?」


 突然の毒舌に驚くアヴァンである。


「おっと失礼つい若干本音が……」


 ニコリとクリスが微笑む。見た目は本当にいいが、中々油断ならない相手かもしれないとアヴァンは思った。


「ですが、そのままでどうぞご遠慮無く。そういった部分も踏まえて私には知る義務がありますので」

「くっ、わ、判った。ただ、この契約というのはいくらなんでもはやす――」

「いいからとっとと目を通しなさいグズ。こっちだって暇じゃないんだから」

 

 ニコリと微笑みながら再びこの発言である。アヴァンは思わず呆けてしまった。


「は? え? な、何その口調? え?」

「あっと、またまた本音が。ごめんなさい、でも、遠慮なしといった手前、私もある程度地でいければと思ってしまいまして。気に障ったかしら?」

「べ、別にそんなこともないけどよ」


 高低差の激しすぎるその変化に、頭がついていけない思いのアヴァンである。いくらなんでも本音が出すぎだろとも思う。


「ならさっさとその契約書に目を通せよ。あ、失礼、契約書に目を通して頂けますか? こっちだって別に貴方じゃなくても他に登録したいって志望者はごまんといるんだから、ああ、また本音が、とにかく見て頂けますか?」


 本音と建前が入り混じっているらしいその様子に顔を歪めるアヴァンである。ただ、だからといってこれだけのギルドを今更無下にも出来ない。


「……わ、わかったよ。だがとりあえず目を通すだけだぞ。べ、べつに所属すると決めたわけじゃないんだからな!」


 なので改めて席に座り、クリスから契約書を受け取るアヴァンである。そしてクリスも席に座り、それを認めた後、早速契約書に目を通し始めるわけだが。


「……まだかしら? と、失礼つい本音が、え~と、まだかしら?」

「かわってねぇ! いや、てかふざけるな! まだ数行読んだだけだぞ!」


 正に契約書を目にして数秒足らずでそんな声が飛んできた。本音と建前もあったものじゃない。とにかく、いくらなんでもと、アヴァンの声も尖る。だが、彼の反応にクリスが目を白黒させ言った。


「は? 数行? え? 本気なの? 何、貴方本当に冒険者になるつもりありますか?」

「いや、なんで契約書を読んでるだけでそこまで言われないといけないだよ……てか、それ建前なのか」

「あ、ごめんなさい。若干疲れたので、え~と、本当に冒険者になるつもりはあるのですか?」


 首を傾げニッコリとした笑顔で言われるが、内容が全く変わっていない。そのことにため息のように気持ちを吐露するアヴァンである。確かに契約書ぐらいじっくり確認させろと言いたいところなのだろうが。


「本当判ってないわね呆れる。あっと失礼つい本音が、え~と、判ってませんね呆れてしまいます。冒険者にとって最も必要なことってなんだと思ってるの? いえ、なんだと思ってますか?」

「いや、もうそこまできたら本音だけでいいぞ……」

「え? そうですか、では少しだけ」

 

 唐突にそんな質問をされ、相変わらずの本音と建前の入り乱れ。しかも内容的には殆ど変化がないのでついそう言ってしまう。


 とは言えアヴァンは一旦契約書から彼女へ目を移し質問に答える。


「で、それに関しては、そりゃ強さとか、せ、誠実さとか?」

「本当、あんまりがっかりさせないでくださいね。いい? 最も大事なのは情報収集力ですよ」


 するとアヴァンの答えを聞いたクリスがビシッと指を突き出しながら断言する。それにアヴァンは目を丸くさせた。


「じょ、情報収集力?」

「そうよ、それがなければ下手な契約書で騙されたり、言葉巧みに騙されたり、見た目の良いスタイル抜群の女に騙されたりするのですよ」

「……なんか騙されてばかりだな」

「とにかく、そういうわけなんで。その程度の契約書なら数秒で目を通して理解してもらわないとうちではやってられませんよ? 言っておきますが、これもテストの内ですので」


 肩をすくませながら、そんなことを言い出すクリスに、アヴァンは思わず声を張り上げ文句を述べる。


「は? はあ~? んだよそれ! テストって聞いてねえし! ふざけるな!」

「そう、判ったわ。それでは今回はご縁がなかったということで」


 だが、彼の文句を耳にした瞬間、クリスが席を立ちまたもや立ち去ろうとた。アヴァンは大慌てて彼女を引き止める。


「ま、待て待て! 読んだ! もう読んだよ!」

「そう、じゃあ納得してくれましたね?」


 彼を振り返り、表情を一変させて小悪魔的な笑みを浮かべ問いかけてくるクリスにたじたじなアヴァンである。


「あ、ああ、問題ない。ただ、細かい条件とかは改めて聞きたいものだな」


 ただ、かといっていいようにやられっぱなしというわけにもいかない。言うべきところは言う、聞くべきところは聞く、そこをいい加減に済ませてしまうと後から自分の首を絞めかねない。


「……細かい条件?」

「ああ、何せ他のギルドは、専属の受付嬢をつけるとか、契約金を支払うとか、それはそれは様々な――」

「はぁああぁああぁああぁああ……」


 だが、彼が条件に着いて確認しようとすると、かなり大げさにため息を吐き出しながら、クリスが項垂れた。


「へ? な、なんだよそのため息は!」

「それはため息もつきたくなります。本当がっかりですね、うちも舐められたものです。まさかそんな物で釣るようなギルドだと思われていたなんて、心の底から落胆しました」

「な、なんだよそれ! だってお前、他のギルドは」

「他所は他所、うちはうちですよ、大体うちはそんな物で釣られるような安い相手求めていないのです。貴方も情けないと思わないのですか? ちょっと鼻先に人参ぶら下げられたからって、ほいほいついていくような真似して」

  

 またビシリと指を突きつけられて、なぜか説教のような物言いである。だが、その妙に自信有りげな様子に、アヴァンも思わず弱腰になってしまう。


「いや、別に俺はまだ……」

「だいいち、そんな物で釣られるような男が相手に信用されると本気で思ってますか? 物で釣られて契約結ぶ相手では、いつ裏切るかもわかったものじゃないですよね?」

「――ッ!?」


 しかも、アヴァンは彼女の話に強い衝撃さえ受けてしまった。確かに言われてみればそうかもしれないと、自分で自分が情けなくなるような、そんな気持ちにさえなってしまう。


「どうやらその顔は理解して頂けたようですね。そう、ギルドにとって大事なのは信頼。でも、それはお金や物で築くものじゃないの。なのに最初に求めるのがそれでは……本当がっかりです。今回の話は無かったことに――」

「ま、待ってくれ! 悪かった、俺が悪かった! ちょっと調子にのってしまってたんだ。勿論条件なんてなくていい!」

 

 彼女が席を立つのはこれで三度目だが、今度は腰を上げたぐらいの段階でアヴァンが止めに入る。そして結局クリス側の条件だけ呑む形で納得してしまった。


「……そう、それじゃあ、この契約書にサインして、ちゃんとうちに(・・・)所属してくれますね?」

「あ、ああわかった。どこに記入すればいい?」

「ここです。ペンはこれを使っていいので、フルネームでね」


 クリスは契約書を捲り、彼がサインすべき箇所だけ指で示す。微妙に腕で隠れてる部分があるが、アヴァンにそれを気にしている様子は感じられない。そしてペンを渡しすぐにサインさせた。


「これでいいか?」

「はい、じゃあ後はこの契約魔印を押してね」


 そういってクリスは小さな板をテーブルの上に置いた。これは魔印用の魔導具である。

 重要な契約では最近当たり前に使用されるようになってきたもので、この魔導具に人差し指を置くことで魔脈(・・)を読み取り、指紋を契約の証として紙の上に定着させる。


 この行為を魔印を押すという。


 この魔印はその人の持つ魔力を利用して押されている為、この場合契約書が存在する限り決して消滅しない。この契約書は甲乙で一部ずつ持ち保管するのが当たり前だ。


 そして魔力や指紋は個々によって微妙に違いがあるため、魔印を押した契約書などはそれ自体に問題がないかぎりは法的根拠に基づいて効力が保証される。


「はい、確かに。これで貴方は晴れて私達のギルド所属の冒険者になりました」

「ああ、そうだな。それで仕事はいつからだ? 通常の登録なら仮登録でも依頼はこなせるよな? だけどこれは契約書だから基本情報の記入がまだだが……」


 通常の登録とは、今回のアヴァンのような、勧誘を受けての登録ではなく、窓口での登録のことだ。その場合でもこういった契約書や誓約書、それに基本情報の記入と言った書面でのやりとりがある。そしてそれが終わった後は一旦仮登録となるのが通例である。


 何故仮登録かというと、冒険者のランクを判定するのは冒険者管理委員会である為、ギルドで新しく登録された冒険者は委員会に新規冒険者として申請し登録してもらわないと行けないためだ。そしてこの際に記入された基本情報(経歴など)を元にして冒険者のランクが決定される。


 ただ、正式にランクが確定するまでは大体二~三営業日程は掛かってしまう。

 さらに言えばギルド側も一々登録者一人ずつ申請するわけにもいかないので、一定の時間で締め、まとめて委員会のある施設に持ち込む場合が殆どだ。


 大体それが委員会の営業時間である定時ギリギリであることがほとんどなので、結果的に更に一日追加される(つまり実質正式登録まで三~四営業日)事となるわけである。


 しかしその間仕事もせず待っているのは嫌だと考える冒険者も多いため(特に日銭を少しでも早く稼ぐ必要のある者は)、正式にランクが決定される前でも仮登録としてEランク程度の依頼であれば請け負えるようになっているわけだ。


「それに関しては、貴方の活動拠点となる町まで移動してからの話となりますね。基本情報もそこで記入して貰います」

「はい? え? 活動拠点って、俺ここで仕事するわけじゃないのか?」

「当たり前ですよ? いくらアカデミーの成績が良かったからって、いきなりこんな皇家のお膝元で活動できるわけないではありませんか。少しは身の程をわきまえなさい、あっと失礼つい本音が、え~と、身の程はわきまえた方がいいかと思いますよ」

「だから言い換えても内容一緒だろ!」


 一瞬呆れた表情を見せるクリス、言い換えはしたが内容的には中々辛辣であり、思わず呻くアヴァンである。


「とにかく、そうと決まればすぐ移動しましょう。ついてきてください」


 結局、アヴァンは渋々ながらもクリスの尻を追いかけるように皇都を出た。

 そして、彼女と活動拠点となる町を目指すことになるわけだが――

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