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第二話 ドラゴンランス

「流石世界の四柱とも名高い【ドラゴンランス(竜を貫きし豪槍)】様は、ギルドの本部も大きくて立派ですね」


 一口コーヒーを口にした後、アヴァンが感想を述べる。汚れ一つない光沢のあるテーブルを挟んだ向こう側には、サクラ並木で声を掛けてきた少女の姿。


 彼女は自らをクリス・タニアと名乗った。そんな彼女を改めて眺めながら、やはり世界に名高いギルドはスカウトの質も違うななどと考える。


 同時に、やっとか、という思いもあった。彼が求めていたのはまさにこのギルドのようなスペシャリテ。


 冒険者ギルドランキング、これは冒険者管理委員会が公示している情報で最も有名なものだ。

 

 冒険者管理委員会とは主要な国々によって共同で設立された公の機関である。

 今や自由化によって毎年のように消えてはまた興される冒険者ギルド。

 しかしいくら自由化だからといって好き勝手にさせていてはルールもばらばらになり余計なトラブルさえ起こりかねない。


 それを防ぐため、そして冒険者ギルドがギルドであるための基本的なルールを構築し、更に世界中に存在する冒険者ギルドを把握し記録、さらに個々の冒険者にランクを定め管理する組織、それが冒険者管理委員会である。


 そして同時に格付けという意味合いも込めて、冒険者ギルドランキングを定めているのもこの委員会だ。


 ちなみにランキングを評価する為の材料としては請け負った依頼と達成した依頼の差異、達成した依頼の質、資本、魔物の討伐数、年に一度開催されるギルド同士の対抗戦など――様々な要因が重なって決定づけられる。


 そしてこのギルドランキングには不動の四柱とされる冒険者ギルドが存在する。


 この四つのギルドは、ギルドランキングのなかで常に同列1位を保ち続けているギルドであり――その中の一つこそが今アヴァンにスカウトしにきているクリスが身を置く組織ドラゴンランスなのである。


「ふふっ、ですがこのようなところまでご足労させてしまって申し訳ありませんわ」

「いやいやそんな。精々魔導バスで四十分程度の距離です。大したことじゃありませんよ」


 アヴァンの通っていた学苑はここカーチェス皇国に存在する皇立の由緒正しき名門である。それ故に学苑のある場所は大皇(国のトップ)のお膝元、つまり皇都の一画に存在した。


 皇都は広大な敷地を誇る皇国最大の都市だ。そのために一般の街では中々お目にかかれない魔導バスが運行されているし、当然魔導車が走れるような道路も整備されている。


 魔導バスも魔導車も馬車の上位機関にあたり、魔導機関を取り入れた乗り物である。

 将来的にはこういった魔導機関は人々の暮らしになくてはならないものとして浸透していくだろうと期待されているが、現状はまだまだ研究段階の代物でもある。

 

 特に単純構造のものは魔道具として人々の暮らしの役に立っているものの、魔導車や魔導バスのような複雑なものは、どうしても外部からの関与が必要不可欠となる。


 これはつまり魔法の使い手、魔導師と称される者たちがいなければ動かないという事でもある。

 しかしこういった魔法の使い手は当然そこまで多くはない。


 その為一部の資本力のある有力貴族や商人を除けばまだまだ浸透しているとは言えず、現在でも一般の町や村では馬車が主要移動手段である。


 ただ、この皇都のように多くの人々が暮らす都市では、専属の魔導操者を雇うことでこの魔導バスが活用されている。


 つまりこの皇都はそれほどまでに広大であるということだ。総人口二五八〇万人が暮らす都市は伊達ではない。魔導バスは馬力で言えば五百馬力、つまり馬五百頭分に匹敵するパワーを有し、最大時速百五十km、都市を回る平均速度は四十km程度だが、それでも都市を一周するには太陽が昇ってから完全に落ちるまで掛かるほどだ。


 そんな皇都の一画に存在したのが――ここ冒険者ギルド、ドラゴンランス本部。


 本部というのはこういった巨大なギルドの多くは支部を抱えている場合が殆どであるからだ。このドラゴンランスとて世界中に設置された支部数は軽く三桁を超えているともされる。


 そんなギルドだけに本部の佇まいは荘厳たるものである。

 このダイニング(食堂)一つとっても、ちょっとした冒険者ギルドが優に収まるほど広く、購入できる食事の種類も豊富だ。噂によると味も抜群らしく、下手な料理店が舌を巻くほどだとか。


 その上階数も八階建て。各フロアごとにしっかり役割分担がされており、依頼を請け負うフロアから依頼者のためのお客様相談室、素材の加工専門とする作業所に集めた素材を保管しておける倉庫、冒険者の教育を目的とした講習室に練習所、トレーニングルームにプールや大浴場まで完備されている。


 正に至れり尽くせりな機能満載なギルドなのである。そして何より凄いのはこの施設の一部(・・)一般開放(・・・・)もされているということだろう。


「それにしても驚きました。ギルドランキング不動の1位、登録冒険者数5588名、資本255兆8786億9800万ジュエルという強大なギルド様がこうして声を掛けてくださるのですから」


 アヴァンはそういったことを踏まえつつも、にこやかに語り、言葉の上では絶賛の声を上げる。


 だが、目の前に座るクリスは、ふふっ、と不敵な笑みをこぼした。


「そんなことを言いながら、凄く余裕が感じられますね。全く気後れしている風に見えませんよ?」

「ははっ、流石はギルドランキング1位を誇るドラゴンランスのスカウト様だ、よく判っている」

「…………」


 クリスはあえてそのことに関しては反応を示さない様子。それにアヴァンは試されている気がしつつも更に続けた。


「正直言うと遅すぎるなと思ったぐらいでしてね。全く、他の有名所はあらかた名刺を渡してくれましたが御ギルドは知っての通り一番遅かったですし、それに未だに名刺を見せてもくれない」

「――ふふっ、名刺? 貴方はそのような紙切れ一つでギルドを判断するのですか? 正直そのことのほうが私には驚きです」


 嘲るような笑みをクリスが浮かべる。確かにギルドであれば必ず名刺を持たないといけないというわけではない。

 

 むしろ本来でいえば冒険者などは荒くれ者が多く、ギルドに務めるものも似たようなものだった。それが自由化の波におされ、ギルドも外聞を気にするようになり、名刺などを用意するようになったわけで、これも元はと言えばどこかの商人上がりの冒険者ギルドが始めたことだと言われている。


 どちらにせよ確かに名刺そのものが必須というわけではない。

 むしろ冒険者の素質を見極めるという意味ではあえて名刺を配らず、相手の出方を見るというのも有効なのだろう。


 弱小ギルドであれば資金的に余裕がなく、名刺も作れないということはよくあるが、四柱と称されるような巨大ギルドがあえて名刺を作らないのはこだわりと捉えられ逆に貫禄が生まれるというものだ。


「……は、はは。いやはや流石は四柱とも称されるギルドは違いますね。いや、勿論私だってこのようなものでギルドを判断しようとは思ってませんけどね。ただ、他の三柱などもしっかり用意されてましたゆえ」


 なので、ここでアヴァンは少し見栄を張った。実際は当然四柱の中で声をかけてきたのはドラゴンランスが初めてである。


「それは嘘ですね」

「は? いや、なんだってそれが嘘だと判るのですか?」

 

 アヴァンは一瞬焦った。名刺ホルダーを密かにチェックされたのかと思ったからだ。ただ、よく考えれば彼女が見ていたのはホルダーのごくごく一部だけだ、バレる筈がない。


「簡単なことですよ。例えば残りの三柱の内、ワードナズフォレスト(賢人の大森林)は魔導師とも称される魔法の担い手が多く登録しようと思っても最低限要求される魔法ですらかなり高度です。アカデミーの冒険者科にも魔導判定はありますが、どれほど成績が良くても卒業しただけの相手を勧誘したりはしません。それであれば魔導科で優秀な論文を仕上げた人物に声を掛けるでしょう」


 眼鏡の奥に光る眼光。口調は淡々としたものだがその意見は十分に説得力のあるものだ。


「そして残りの二柱、例えばグリモアラビリンス(迷宮を食い尽くせ)は、迷宮探索に特化したギルドです。その為ここは迷宮未経験のものをわざわざ勧誘したりはしません。だからアカデミーの卒業者など眼中にないのです。最後の一柱はパーフェクトファイブ(完璧な五人)ですが、ここはその名の通り所属冒険者数がギルドとして認められる最低限の五人(・・・・・・)だけで突然成り上がってきたギルドです。このギルドが今更六人目を求めるとは思いません。つまり、貴方に声をかけてきた四柱など皆無であることが判ります」


 彼女の考察に舌を巻く思いのアヴァンである。同時に図星をつかれたことで妙に気恥ずかしくなったわけだが。


 尤もアヴァンからしてみればその内のふたつは話がこなくて当然であり、来ていたとしても受ける気持ちはさらさらなかったりもするのだが――


「な、なるほど、貴方はとんだ美人名探偵だったと、そういうわけですね」


 しかし表情は変えないように、あくまで余裕の体は崩さずコーヒーで喉を潤すアヴァンである。


「褒め言葉と捉えておきましょう」

「ふふっ、食えない御方だ。ですが確かにその中では声をかけてきたのはあなた達ドラゴンランスだけです。それは認めますよ」


 もはや誤魔化しても仕方がないので、アヴァンはあっさりとそれを認めた。かといって足元をみられても困るので侮られないよう細心の注意を払う。


「…………」


 だが、それに対する答えはない。ただ、アヴァンを値踏みするように見てくるだけだ――

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