第二十三話 アーマゲドンの本性
「な!? 馬鹿な、これを、狩ってきただと?」
「ああ、まあちょっと割れてしまったけどな」
アーマゲドンのギルドに戻るなり、アヴァンはカウンターでベルに支部長のウィスを読んでもらい、討伐証明であり素材にもなる魔核を並べてやった。
唯一欠点となったのは、勢い余って魔核割れてしまった事であるが、何せ流石に割れてしまうと魔力の漏出が激しくなる。それでも数時間は持つだろうが、素材としての価値が下がるのは間違いがなかった。
とは言え、これはユニークオーガの有していた魔核である。なので、それがここにあることに十分な意味がある。
「ま、割れたとは言え、相手はあのユニーク種のオーガだ。それはそっちの鑑定士にみてもらえればわかることだろ。素材としてはともかく、討伐代金は弾んでもらわないとな」
そして、にやりと意地の悪い笑みを浮かべウィスにいい放つ。
いつもの胡散臭い笑みすら消し、支部長が、むぐぐ、とうなる。
だが――
「は、はは、いやいや、これは認められませんな」
突然そんな事を言いだした。それを聞いたクリスが抗議の声を上げる。
「どうしてよ! こうやってしっかり魔核も持ってきたじゃない! 依頼にあったようにオーガの魔核もしっかりあるわよ!」
以前みたときよりもかなり感情を露わにしていた。やはり納得出来ないものは納得出来ないのだろう。
「冗談じゃない。お忘れですか? 私達が依頼したのはあくまでオーガの討伐依頼だ。ユニーク種の討伐依頼ではない。むしろこれは問題ですよ? 普通に考えればユニーク種なんてものを見つけたらオーガの依頼だって諦めて報告に来るべき案件です。それを勝手な判断で無謀な賭けにでたのですから、何がどう転がったか運良く仕留められたからいいようなものを」
「う、運なんかじゃありません! アヴァンの実力があってこそです!」
「この小僧の? とても信じられませんな。第一その男はどこのギルドにも所属していないではありませんか」
「ああ、そのことだけど、俺改めてドラゴンダンスに所属することになったから宜しく」
「な!?」
驚愕の表情を見せ、わなわなと肩を震わせるウィス。それにニヤニヤした笑みを浮かべるアヴァンである。ざまぁみろという思いも強いのだろう。
「ふ、ふん! そんな気はしたが、愚かな選択だな。だが、どっちにしろ結果は変わらんぞ! 所属したばかりなら貴様とて所詮は仮登録の身でしかない! それなのにユニーク種のオーガを相手するなど許されることじゃないぞ! 賠償金だ! お前たちにそれ相応の賠償金を求める権利がこちらにはある! 冒険者としてやるべき義務を果たさなかったのだからな! 報酬だと? そんなもの渡せるわけがないだろう! ふざけるな! 数千万の賠償金が発生することも覚悟するんだな!」
「ヒッ、す、数千万――」
「ああ! ホワイティ様! お気を確かに!」
指を突きつけ述べられた賠償金の額に、ホワイティが卒倒する。それを介抱するクリスだが、金額を聞いただけでどれだけだと目を細めるアヴァンでもある。
「なるほどな、いやはや、これでようやく本性を見せてくれたってわけだ」
だが、とりあえずホワイティの事はクリスに任せ、アヴァンがウィスへ言い放つ。
「は? ほ、本性だと?」
「ああそうだ。お前のその薄っぺらな笑顔の下に隠れてた本性が、ようやく見られるってわけだ」
「……い、言っている意味がさっぱりわからないがな」
「そうか? じゃあ、この依頼書はどう説明する?」
アヴァンは事前にクリスから受け取っていた依頼書をウィスの目の前でヒラヒラさせるが。
「? それがどうかしたのか? そこにしっかり書いているではないか、オーガの討伐の依頼だと」
「問題はそこじゃないんだな。重要なのは、この、概要だ」
「え? 概要? ど、どういうことですかアヴァン?」
とりあえず落ち着きを取り戻したホワイティと立ち上がり、クリスが声を上げる。
だが、支部長であるウィスの顔色は明らかに悪い。
「どうやらお前も気がついてなかったようだな。この用紙の正体に――」
「よ! 寄越せ!」
「おっと!」
伸ばされた手をヒラリをかわし、にやりと笑みを浮かべる。
「その様子だとやっぱ図星だな。おかしいと思ったんだよ。このふたりだけならどう考えても達成できない依頼をなぜ丸投げしたか。だが、それもこれで判る、この部分にある一定の魔力を流すと――」
そう言ってアヴァンが概要の部分を指でなぞった。すると、何もなかったはずのその欄に、少しずつ文字が浮かび上がっていく。
「これが、その仕掛けってわけだ。あれれ~? なんだこれ? さっきまでなかった違約金の項目が追加されてるぞ?」
アヴァンがそう言うと、ウィスの顔に汗が滲み出し、明らかに不都合がありそうな顔を見せた。
「嘘! ちょ、見せて!」
そしてすぐさまクリスがその内容に飛びつく。
「な、何よこれ! オーガの討伐に失敗した場合、違約金として百万ジュエルって! こんなの聞いてないし!」
「だろうな、ここには隠されていたおかげでもともと表記されてなかったわけだし、狙いはふたりが任務に失敗して戻ってきた時にこれを見せて違約金を請求することだからな」
「そ、そんな酷い……」
わなわなとホワイティが肩を震わせた。そしてクリスとホワイティがキッとウィスを睨めつける。
「い、いや、そうだ! これは何かの間違いだ。手違いで、うちのものが間違った用紙を用意したのだろう」
「間違って、こんな手の込んだ物を用意するかね?」
「だ、だから、そういうことも全くないとは言えないだろう! 大体そんな事してうちになんの特がある! オーガ程度なら成功率の方が高い! こんなことしたって何の意味もないだろう!」
「だ・か・ら、知ってたんだろう最初から? あそこにはユニーク種のオーガがいるって」
「な!?」
ギクリとした表情を見せるウィス。どうやら一つ粗を見つけるとずるずると墓穴を掘る性格なようだ。
メッキが剥がれたな、とアヴァンはため息を吐き出す。
「馬鹿な、そんなのは言いがかりだ!」
「大体おかしいと思ったんだ」
「な、なに?」
「だから、この依頼だよ。正直オーガ討伐だけならお前らのギルドにとっては美味しい依頼だろ? Bランクもあれば倒せるし、魔法にも弱い。オーガなら討伐報酬と素材とで三十万ジュエルは固いしな。そんな依頼を、どうしてわざわざ別のギルドに回す? 変だろ? あの薬草採取だって面倒なものを渡していたしな。それにこのギルドは非常に堅実な運営をしている。そう考えるとやはりおかしい」
「いや、それは――」
「だが、あらわれたのがユニーク種のオーガなら納得だ。何せユニーク種のオーガは討伐できる冒険者のランクもA級にまで跳ね上がる難敵だ。普通に考えれば比較的平和な支部で対応できる案件でもない。恐らくだがこの支部にはA級の冒険者だって数えるほどしかいないはずだしな」
「……う、ぐむぅ」
「つまりだ、このギルドのやり方を考えれば、絶対に自分たちの判断では動かない。ほぼ間違いなく本部の指示を仰ぐはずだ。だが、本部からの派遣を待つ場合、それなりに時間が掛かる。だから、あんたはこう考えた、それなら本部が来る前に、ドラゴンダンスの連中に依頼と称してこれをやらせようと。何せユニーク種だ、しかもお前たちは多分あのオーガのセンスも知っていたな? だから、このふたりじゃ依頼は絶対にこなせない。どうせ何も出来ずおめおめと逃げ帰るだけしか出来ないと、そう踏んでいたのだろう?」
「ち、違う! 妄言だそんなもの!」
「そうか? でも、ユニーク種が倒されたと知って随分と慌ててたじゃないか? 何でか教えてやろうか? 既に本部に派遣依頼を出しているのに、まさか俺達が倒すとは思わなかったから、このままじゃ、本部に派遣依頼を出しておきながら、別のギルドにも討伐依頼を回していたことがバレる。それはお前たちにとって非常にまずい。だが、そもそもが契約違反ってことにし、俺達に責任を擦り付ければとりあえず言い訳も立つ。それで今思いついた賠償金を持ち出したんだろ?」
「う、ぐぐ、そこまで言うからには証拠があるんだろうな! 私達が、本当はユニーク種があると知っていながら、お前らにオーガの依頼と偽ってそれを回したという証拠が――」
「あります! ここに本来の依頼内容の書かれた依頼書が!」
「な、なにいぃいいぃいいい!」
ウィスが目玉がとびだばかりに驚き、声を上げた。
それもそのはず、なぜなら、その依頼書を持ち出したのはウィスが思いもよらなかった人物――受付嬢のベルなのだから。
「な、なんでお前がソレを! 貴様! 自分で何をしているのかわかっているのかぁああああ!」
「判ってます、ですが、不正はやっぱり見逃せません。アヴァンさん!」
「おう!」
ベルが依頼書を投げつける。くるくるくると回転しながら、紙製の依頼書がアヴァンの手元に吸い込まれていく。
「サンキュー! さあ、これが証拠だな。ここにしっかり書かれてるぜ? 討伐相手がユニーク種のオーガだとな!」
依頼書を掲げ、ビシリと言い渡す。ウィスの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
「でも、信じられない、ここまでするなんて」
「そ、そこまでして私達からお金を巻き上げたかったのですか!」
クリスが軽蔑の眼差しをウィスに向け、ホワイティが抗議の声を上げる。
だが、アヴァンは目を細め少しばかし呆れた表情。ふたりが何も判っていないからだ。尤もそれとてアヴァンが前にギルドを訪れた際に、この支部長と受付がコソコソ話していたのを聞いていたから判ったことだが。
ようはこの男はふたりに借金を負わせた後で、払えないのならと仕事を斡旋するつもりだったのだ。勿論それも、普通の仕事ではなく、ふたりの長所をいかした、ようは身体を使った仕事を――その上で自分もご相伴に預かろうと、そんなゲスな考えでいたのだろう。
「くそ! お前ら何をしている! この連中は我らのギルドを馬鹿にして因縁をつけ、私達を馬鹿にしているのだぞ! 喧嘩を売られているんだ! そんな連中を野放しに出来るか? 出来ないだろう! だからさっさとそいつらにこのアーマゲドンの力を見せつけてやれ! そしてその依頼書を奪い取れ!」
いよいよ本性を表したウィスが、ギルド内にいる冒険者に呼びかける。
どう考えても悪いのはこのアーマゲドン側なのだが――
「チッ、仕方ねぇな」
「ま、最弱の乞食ギルドに舐められたままじゃ、アーマゲドンの名がすたるわな」
「なあ? 女の方は好きにしていいのか?」
「も、勿論だ! 支部長のウィス様がこう言っているのだ! 女にも礼儀を教えてやれ!」
やれやれとアヴァンが肩を竦める。
だが、直後にやりと口角を吊り上げ。
「ま、この方がわかりやすくていいわな――」




