プロローグ
本日13時より話を差し替えていきます。
クリス関係が不評な為、クリスに関する内容が大きく変更となります。
お手数をおかけいたしますがどうぞ宜しくお願い致しますm(_ _)m
「無謀なる挑戦者よ、我が裁きの雷を受け地べたに這いつくばるといい! ケラウノス――」
世界の四柱たる冒険者ギルド、ゼウスファミリアのギルドマスター、ゼウス・ゴッデスがその手を広げ、地面に叩きつけるように腕を振り下ろす。
視界に捉えた青年に向けて、膨大な魔力の込められし破壊的な金色の雷が降り注いだ。
かくもこの世の終わりか? と思わんばかりの轟音、そしてこの世界を飲み込むかのごとく雷光が辺りを包み込んでいく。
都市の二つ三つ滅ぼすほどの大規模破壊魔法であっても防ぎきれる魔法障壁、それが何重にも施された魔導闘技場。
世紀の一戦とも称されるこの戦いを執り行うにはこれほどぴったりなところはない。そう判断された格好の舞台、の筈であったが、しかし、にも関わらずゼウスの放ったこの魔法により障壁の99%が粉々に砕け散り、残り一枚も風前の灯と言った様相。
あまりの出来事に急遽控えの魔導師が集まり、とにかく障壁を復旧しようとやっきになるが――
「ふん、もう必要が無いわ。わしとしたことが少々やりすぎてしもうたな。これではもう死体すら残っていまい。惜しい男をなくしたものだ。生死問わずの試合とはいえ――」
「もう必要が無いというのには同意いたしますが、勝手に殺されるのは勘弁願いたいね」
「なにッ!?」
顎に指を添え、威厳のある声で言い放つゼウスであったが、その後ろにはいつの間にか彼に挑戦せしギルドマスター、ローランの姿があった。
そして――
「……な、が、ば、馬鹿、な――」
ゼウスが咄嗟に振り返った直後には、勝敗は既に決していた。
その視界には挑戦者の姿はもはやない。なぜなら高速の動きで振り返ったその直後に、ローランはゼウスの横を駆け抜け、膨大な数の斬撃を叩き込んでいたからである。
「雷のセンスに恵まれていたようだけど、それじゃあ僕のセンスには勝てなかったみたいだね」
そして倒れる彼を振り返りにっこりと無邪気な笑みを零した。だが、その声は既にゼウスの耳には届いていないことだろう――
『号外ー! 号外ー! 世界の四柱、ギルドランキング同列1位を保ち続けた一柱が彗星の如く現れたギルドによって決壊! 新たな――』
この日、冒険者の歴史にまた一つ新たな伝説が刻み込まれた。
そう、長きに続きその形を変え続けた冒険者という概念に――
かつて冒険者ギルドは一つの大きな組織であった。冒険者ギルドの影響力は強く、その発言権も権限も次第に強まっていったが――しかしある日を境に冒険者ギルドの自由化の声が大きくなり、そしてついに各国の調印もあり冒険者ギルドの自由化が認められた。
時は冒険者時代。そして冒険者ギルドの時代。冒険者ギルドは金になる、栄光と権力が手に入る、腕さえあればいくらでものし上がれる――とある商会のマスターは鞍替えし冒険者ギルドを設立した、ある小国の王は自ら退位し、冒険者ギルドのマスターとなった――貴族も平民も巻き込んで加速するギルドの設立。増える冒険者。
国は本格的に冒険者の育成に乗り出し、学苑において冒険者科さえも設立――そしてここカーチェス王国一を誇る名門学苑、そこに一人の天才が現れた。
幼年学校を卒業後アカデミー入りし、その才能をもって学園記録を次々と塗り替え、総合判定、戦闘判定、魔導判定、学力判定、処理判定とその全ての項目においてSランクを叩き出し、アカデミー初の完全Sランク卒業生となった少年。
勿論全ての生徒に圧倒的な実力差を見せつけ首席で卒業。奇跡の天才児アヴァン・スターツ十六歳、卒業後の彼の将来はもはや約束されたも同然であった――
◇◆◇
「へへっ、中々の上玉じゃねぇか」
「それによ、スタイルといい、格好といい、何かこうそそるものがあるぜ」
「おっぱいもでけーしよ、こりゃ色々楽しめそうだな」
道中そんな如何にも下衆といった風貌の三人に囲まれ、銀髪の少女はため息を付いた。
「これ皇都に向かう街道ですよね? それなのに、あんた達みたいなのが出てくるなんて」
「へへっ、そりゃ嬢ちゃん勉強不足だぜ」
「今は皇都もアカデミーの卒業式の真っ最中、だから皇都内は警備が厳しくても外は甘くなるのさ」
「そうそう、だからこそ普通はそれが始まる前に皇都入りするか、護衛付きの馬車にのって移動するもんさ。なのにお嬢ちゃんみたいな可愛こちゃんが一人旅なんて」
「襲ってくれと言っているようなもんだろ、なあ?」
「だな! 本当は期待していたんじゃないか?」
そこまで口にしあい、ゲラゲラと下品な笑い声を上げる。その姿に、やはり少女はため息をついた。
「私もそれがあるから、先を急いでるのだけど、面倒事は嫌いなのです。今ならまだ見逃してあげてもいいですよ。大人しく道をあけるきはないですか?」
「は? え? 何? 俺の耳が悪くなったかな? 今見逃してあげるって聞こえたけど~?」
「むしろ嬢ちゃんが観念しな。な~に、大人しくしとけば優しくしておいてやるよ」
「ま、そのかわりやることやったら裏で売りさばくけどな!」
そしてまた笑い声を上げる。その様子に少女は目を細めた。
「そこまで下衆ならこっちも容赦する必要ないですね」
「は? おい! てめぇいい加減にしておけよ!」
「言っておくが俺達やこの辺りじゃ名のしれた盗賊団所属!」
「あまり舐めた口聞いていると――」
「いい加減ウザイ――」
少女の目の前には全身が焦げたようになっている男と、なぜか陸の上で溺れている男、そして尻を突き出した状態で土の中に埋まっている男がいた。
「全く、今の私でもあんた達みたいな三下ぐらいはなんとでもなるのよ」
そう口にするが、おそらく男たちの耳には届いていないであろう。死んでこそいないが確実に意識は失っているからだ。
「ま、後で衛兵にでも伝えて置けばいいか。どうせ暫く動けないだろうし」
そして少女はそう言い残した後、再び街道を歩きだす。
『ほ、本当に宜しいのですか? そんな大事なことを任せてしまって――』
ふと、少女の脳裏に、敬愛すべき彼女の姿が想起される。
少女にとってこれは大事な賭けだ。だからこそ絶対に失敗は出来ない――何せ彼女たちには……。
そんなことを考えつつも、少女は皇都への道を急ぎ始める。自らの目的を達成するために――