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「どうー?」
老婆の小屋で世話になることが決まって、俺は自分の言葉通り甘えることとなった。
今は夕食も終わって就寝前。二人ぐらいは一緒に入れそうな浴室で、俺はしっかり寛がせてもらっている。
「うん、いい湯加減だよ。なんか一人で入ってるのが勿体ないぐらい」
「あ、アタシと一緒に入りたいって言ってんの!? せっかくなんだから、一人で楽しみなさいよ、もう……あ」
「? どうしたの?」
ヘルミオネはうんともすんとも言わず、黙ったまま。怪しさは増していく一方で、詳しい理由を尋ねずにはいられなくなる。
「もしもしー?」
「え、あ、ああ、ごめんなさい。その、ちょっとネクタル石が切れちゃったみたいで」
「……このお湯って、エーテル関係で湧かしてるんだっけ?」
「そうよ。石に呪文を刻んで、中のエーテルに干渉して効果を発揮、お湯を沸かしてるの。――で、今それが尽きちゃったわけ。直ぐ冷めるかもしれないから、注意しなさいよ」
「え、じゃあもう上がるよ。大体、ヘルミオネは入ってないじゃないか」
「アタシはいいわよ。ユキテル君だって今入ったばっかりでしょ? ちゃんと温まらないと風邪引くわよ」
「でもヘルミオネは女の子じゃないか。ちゃんと身体、綺麗にした方がいいでしょ」
「っ、べ、別に……」
しかし明日だって学校がある。――女性という生き物に無知な俺が言えた口じゃないけれど、入った方が絶対にいい筈だ。疲れも取れるだろうし。
まあ抵抗感があるのは当然だ。本人が嫌がるなら、無理強いするのは控えよう。
「わ、分かった」
「へ、入るの?」
「そっちから提案したんでしょ……? 時間はないから、そのまま入るからね。背中向けとくように」
「は、はい」
浴室の向こうで妙な音がし始めた直後、俺は指示に従った。
必然的に緊張は抑えられないので、何となく天井を見上げてみる。――神殿とは異なる木製。どこか和風な浴室に思えて、故郷のことが脳裏を過った。
そういえば今ごろ、シビュラは何をしてるんだろう。聖水の報告ついでに話した時は、羨ましそうな顔をしていたが。
と、件の少女が入ってくる。
「ちゃ、ちゃんと壁、向いているわよね?」
「う、うん。大丈夫だよ」
「そ……一応タオルは巻いてるけど、覗こうとしたらぶん殴るわよ」
「胆に命じときます」
慎重な足取りで、ヘルミオネは風呂桶へと入ってくる。しっかり湧いたお湯は、二人目の体積で外へと零れてしまった。
「……」
「――」
これと言った会話は出てこない。
というかシビュラと混浴した時以上に緊張する。お互いの姿が見えていないのもあるんだろうか? 背中越しに伝わってくる感触がすべてで、勝手に意識も集中してしまう。
それこそ、彼女の僅かな身動ぎでも感じられるぐらいに。




