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手伝いと称して向かったのは、まず神殿だった。
そこから二日酔いの治っていないアテナと対面。彼女が管理している聖域を利用し、他の聖域へ転移することで目的地へのショートカットを図る。
結果、
「森?」
召喚当日と似たような、鬱蒼とした樹海の中に飛ばされていた。
前後左右がすべて木であり、当時の混乱と恐怖感を思い出す。オンファロスに帰っていいと許可を出されたら、真っ先に帰りたくなるぐらい嫌な場所だ。
一方、一緒に来た相棒は頼もしい程に冷静である。
……別に同じ場所、同じ状況というわけでもなし、頭を切り替えよう。あの時みたいに人狼が襲ってきても、今なら撃退は容易だ。怖がるなんて、逆に相手の思う壺である。
「奥に湖があるから、そこの水を汲んでくるの。エーテルが入ってる特別な水でね、式の優勝者が飲む伝統になってるわけ」
「こんな薄暗い森なのに……」
「文句言わない。去年はアタシ一人でも取りに行けたんだから。二人がかりだし、今回はずっと楽よ」
「じゃ、じゃあヘルミオネだけで行ったって――」
「だ、だって、怖いし」
「……あー、ごめん、よく聞こえなかったなー。もう一回」
口端を吊り上げ、小馬鹿にした態度で聞き返す。
彼女は歯をむき出しにして、苛立ちを込めながら反撃した。
「この森、薄暗いから怖いのよ! どこに誰が潜んでるかも分かんないし、不快な感じになって当然でしょ!?」
「はは、同意するよ。あとこの勢いで答えて欲しいんだけど、ヘルミオネって幽霊は苦手?」
「大の苦手よ! 精霊とかならともかく、姿形がハッキリしてないものは全部苦手よっ! これで満足!?」
「うん、満足。いやはや、可愛いところがあるもんだね」
「っ」
唾ごと吐きつける勢いだった彼女は、最後の一言で轟沈した。
なんだか日に日に防壁が薄くなってる気がするけど、好都合なので良しとしよう。少し空気も弛緩してくれたし、いつも通りの心持ちで挑めそうだ。
「じゃあ進もうか。長々とじゃれ合ってる暇はないんだしね」
「ぐぐ、納得できない……毎度毎度、遊ばれてる気分よ!」
「ならもっと冷静にならないとね。ほら、本来のヘルミオネはクールなんでしょ?」
「あ、上げ足まで取ってくるの!? ひどくない!?」
そりゃあせっかくの自爆、付け込まないと。
本気で怒りそうな彼女に対し、俺の方は完全に余裕を取り戻している。シビュラといる時はなかなか優位に立てないので、今の勢力図は案外と貴重だ。
「――っていうかシビュラって、食物連鎖の頂点に立ってる……?」
「? ど、どうしたのよいきなり」
「いやさ、俺もヘルミオネも、シビュラの勢いに振り回されること多いでしょ? 実は彼女が一番手ごわいんじゃないかと……」
「あー、かもしれないわね。大袈裟な反応するアタシ達も悪いんでしょうけど」
でも内心、それを楽しく思っている自分がいて。
敵う敵わないの話ではなく、もっとも居心地のいい構図なんだろう。――自分が将来も異世界で生活するなら、この構図だけは変わらない気がしてくる。
しかし、たったの一週間。
これが一か月、一年になったら、どうなるんだろうか? もっと楽しくて、もっと変え難い関係になってくるんだろうか?
「……これからも一緒にからかわれようね、ヘルミオネ」
「ええ、よろしく――って、何まとめようとしてんのよ! アタシには反撃する機会もないわけ!?」
「じゃあほら、湖につくまで頑張って」
「ぐっ、やってやろうじゃない! アンタの化けの皮を剥がして――」
「ヘルミオネ、静かに」
三人目の、話し声。
彼女も勘付いたらしく、短い悲鳴を上げて硬直する。




