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「ど、どうしたのよガッカリして。ほら、ユキテル君も着替えてきたら?」
「俺はいいよ、この格好でも。はあ……」
「??」
二度も期待を裏切られて、今度はこっちが意気消沈だ。
ヘルミオネは原因を尋ねてくるが、いくらなんでも正直にはなれない。女性の着替えを覗くなんて、原則的には批難されるべき行為。彼女の宣言通り、顔面が大変な結末を迎えてしまう。
「……変なこと考えてるわよね、ユキテル君」
「そんな失礼な。いたって健全な、みんなにあって当然の葛藤を抱いているよ。――男性限定だけど」
「殴ってもいいわね?」
ごめんなさい。
一瞬で引き下がってみると、ヘルミオネは頭痛を堪えるような仕草をしている。さすがに情けないと取られたか。
「少し強引でも別に……」
「――」
独り言のつもりなんだろうけど、バッチリ聞こえてますお嬢様。
やはりアプロディテの矢は絶大な効果を及ぼしてるらしい。当時のことはよく覚えていないと本人の談だが、今の台詞を聞いたんじゃ力の名残を信じたくなる。
「……ヘルミオネ、一つ聞きたいんだけど」
「な、なによ、いきなり」
「いやさ、君は強い男が好きだって聞いたんだ。それが精神的な理由か、肉体的な理由か知りたくて」
「こ、好みの話ってこと!?」
唐突な質問への、至極当然な慌てよう。俺の方は真面目に聞いているつもりなので、頭の中は冷え切っているが。
視線を左右に泳がせた後、ヘルミオネは短い前置きを作る。
「どっちもよ。ほら、昨日話したでしょ? お母さんの受け売りで」
「やっぱり? ――じゃあ、頑張ってみうかな」
「え……」
最低限の回答をしたあと、歩きから駆け足へとペースを変える。ああ恥ずかしい。こういうのはもっと、雰囲気が整ってる時の勢いで口にするもんだ。
後を追い掛けるヘルミオネから意味を問われるが、適当に反してお茶を濁すしかない。周りに生徒の姿も増えてきたし。
「そうだ、ユキテル君ってもう一つ答えてないことあるわよ!」
「え、何かあったっけ?」
「ほらこの前! ……ふ、複数の女性を娶ることに対して、どうして肯定的なのかって! はぐらかされてそのままじゃない!」
「よ、よりにもよってここで聞くの!?」
「いいでしょ別に! さっさと教えなさいよ!」
ズンズンと大股で接近する彼女は、自棄になって胸倉を掴んでくる。でも苦しくないし、迫力なんてコレっぽちもなし。パニック状態になって可愛らしいもんだ。
両手を上げて降参を示しつつ、一息。
「そりゃあ、女の子が好きだからだよ」
「ええ……」
軽蔑の眼を、向けられましたとさ。




