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異世界生活は全能神の加護で!  作者: 軌跡
第十一章 樹海デートタイム
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1

 一日の学園生活が終われば、生達は残りの時間を好き勝手に過ごしていく。


 それは地球の光景とも同じだ。友人と出かける者、部活動に励む者――といってもアリストテレス学園において、部活動とはギルドの活動を示す。普通のスポーツや文化活動に打ち込む者はまずいない。


 それに学園は、数日後にテストを控えている。ギルドの活動を自粛する生徒は多い。テストを最初から捨てている、あるいは余裕がある者以外、学生寮や自宅に帰るのが大勢だ。


 しかし、


「歴史を調べたいって……また突然ね。テスト範囲に関すること?」


「いや、個人な趣味で調べたい。オンファロスに来て日が浅いから、町のことをもっと知ろうと思ってさ」


 このように。試練の日が近いにも関わらず、無頓着な人間もいる。


 すっかり体調が回復したらしいヘルミオネは、理解できないとばかりに肩を竦めた。生徒会室にて、お互いに教科書とノートを広げながらの会話である。


「そういう気持ちは大切でしょうけど……日を改めたら? 補修、受けたくないんでしょ?」


「受けたくないけど、自分の好奇心を閉じ込めておくのも嫌だよ。だからさ、お願いできないかな?」


「アタシだって念のため勉強はしたいし、今日は勘弁よ。そこまで成績がいいわけじゃないし」


「あれ、そうなの?」


「もともと座学はねえ。シビュラは得意みたいだけど――」


 ふと、シビュラが使っている座席に目を向ける。

 持ち主は用事で出ているため、荷物が置かれているだけの空席だった。


「あの子も張り切ってるわねえ。対面式の前に自分の加護を使えるようにする、だなんて」


「あと二日で、ってこと? 無理なんじゃ……」


「本人の努力次第でどうにかなるんじゃない? 勉強も疎かにしない方がいいと思うんだけどね」


 喋りながら、ヘルミオネは教科書とノートを閉じていく。お、これはもしかして交渉成立か?

 勝利の予感を表に出さないようにしつつ、俺は雑談を続けていく。


「……何気に大変だよね。式とテストが同時進行だなんてさ」


「でもテストは休み期間中、ボケてないかどうかの確認よ? 正解して当然ではあるんだから、文句言うのはおかしくない?」


「休みの間ぐらい勉強から解放させようよ……先生達だって大変じゃないの?」


「それはご心配なく。対面式は一応、神殿騎士団が担当してるから。まあアタシたち生徒会も手伝わなきゃいけないんだけどね」


「なるほど。――うん?」


 ちょっと待て、手伝いだなんて聞いてない。

 しかもヘルミオネは、鞄の中からジャージを取り出している。こちらの方をジッと見つめているところも、最悪の予想を確定させるのに十分だった。


「――まさか、今から?」


「当たり前でしょ、あと二日よ? ……昨日シビュラから聞いたわよ、ね?」


「いんや」


 夜は色々あったので、対面式に関する話なんて一つもしていない。


 帰ったらお仕置きが必要みたいだ。くそ、オンファロスの歴史を調べに行けるって、期待で胸を膨らませていたのに。


「ほ、ほら、分かったら早く廊下に出なさいよ。着替えられないでしょ」


「じゃあ大人しく外で待機してるよ。……ちなみに、その、見たいって希望した場合はどうなりますか?」


「原型が分からないぐらいにぶん殴ってやるわ」


 蛮勇を発揮することもなく、生徒会室の外へ急ぐ。


 扉を閉めてしばらくすると、衣擦れの音が微かに聞こえてきた。思春期少年の妄想を刺激するには十分で、徐々に魔が差してくる。


 そうだ、千里眼を使ったらどうだろう? 直接見るわけじゃないから、彼女にも気付かれない。渦巻く不満も解消できるし、一石二鳥じゃないか。

 ならば有言実行。加護を発動させ、意識を生徒会の中に向けていく。


「お待たせ」


「な――!?」


 驚愕のスピードだった。

 とはいえ本人は普通に着替えてきたつもりのようで、キョトンした目で俺を見ている。……負けた、完全敗北だ。

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