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「俺は別に、君達が邪魔だと一言も口にしないでしょ? にも関わらず被害者妄想するなんて、これから迷惑をかけるって暴露としてるのと同じじゃないかな?」
「……」
「その通りだぞオレステス。彼は害を与えると宣言しているわけでもない。事実をでっち上げ、名誉に傷を与えるなど戦士のすることではない」
「ですが……! この会長は僕を侮辱したではありませんか!」
「貴様の妄想だろうに。――もういい、黙っていろ。連れてきた俺が馬鹿だった」
「な――」
余計に口を挟みたさそうなオレステスだが、マルスの視線一つで沈黙した。悔しそうに歯ぎしりまでして、あとひと押しで喚き散らしそうな気配。
なので無視する方針で、ギルドの話が進んでいく。
「俺も生徒会とは親しくしておきたい。オンファロスや学園の中立性を守り続ける上で、学生ギルドの役割は非常に重要だからな。本国を黙らせる上でも――」
「な、何を仰っているんですか、支部長!」
少し堪えたと思ったけど。
感情の防壁は、いとも容易く決壊した。
「僕らレオニダスは、学園の中立性を揺さぶるために設立された! 本国の意向に従い、生徒会との協同は認められるべきではない!」
「うるさいぞ」
「くそっ、やっぱりアンタが支部長になったのは間違いなんだ! 僕みたいな無銘級じゃなきゃ、暴走するに決まって――」
「うるさいぞ!!」
怒号。
そう称して構わない轟音で、マルスはオレステスを非難した。彼にとっては思わぬカウンターだったそうで、腰を抜かして倒れ込んでいる。
……なんだか、哀れなぐらいの小物っぷりだ。同情なんて退屈なのでしないけど。
「くそっ!」
彼は立ち上がると、振り返りもせずに生徒会室から逃げていく。
緊迫した空気感が尾を引いていたが、短い時間のうちに消え去った。マルスが姿勢を正し、すまん、とテーブルに頭をつけているのもある。
「正式に排除する理由もなく、今日まで野放しにしてしまった。俺の責任だ」
「い、いいですよ、そんな。マルスさんだって大変なんでしょうし」
「……心が広いな、君は。ヤツに爪の垢でも煎じて飲ませたいぐらいだぞ」
「飲む前に吐き出すんじゃないですか? オレステス君」
その瞬間を連想したんだろう。見ているこっちも気分がよくなるぐらい、マルスははっきりと破顔した。
「さて、交渉を再会しようか。といっても、俺は君と協力関係を構築できれば、シード権の一つや二つは喜んで差し出そうと考えている」
「え、いいんですか? さっきの話からすると国に――」
「構わん。俺はもともと、連中が嫌いでね。ある程度は距離を置いておきたいのさ。――まあオレステスのやつは、出来るだけ恩を売りたいようだが」
「無銘級、ってことも関係してるんですか?」
「恐らくな。ヤツが何かしらの権益を得るには、他に方法がない。……次に迷惑をかけたのなら直ぐに言ってくれ。問答無用で席を外させる」
「あはは、次がない方がベストですけどね」
「まったくだ」
俺達は互いに笑みを投げた後、改めて権利の譲渡を約束した。レオニダスの後ろ盾――都市国家ラダイモンが介入してきた場合は、何かしらの便宜を図るという方向で。
さて、これで一つ問題を突破した。オレステスが少々気になるが、マルスは厳しい対処を誓ってくれている。こちらから起こすべき行動は今のところない。
もしあるとすれば、一つだけ。
授業の開始が近付いてきたら、大人しく教室に戻ることだ。




