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異世界生活は全能神の加護で!  作者: 軌跡
第十章 誤射の成果と交渉成功
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4

「うっ」


 途端、彼女は鈍い悲鳴を吐き出していた。

 胡乱だった目は徐々に正気を取り戻していき、残念な結果を作り出す。


「え、ええええ!? な、何!? アタシ何やってんの!?」


「へ、ヘルミオネ、音量下げて。いま授業中だし、何だか誤解されそうだよ」


「た、確かにそうね。副会長と会長なんだし、評判が下がるような真似は避けないと。……やっぱりユキテル君、真面目なのね」


「面倒くさい展開を避けるために、装ってるようなもんだけどね」


 言っている最中、彼女は一人で深呼吸をしていた。女性らしい胸が上下して、いつも通りに視線が動く。気付かれないことを祈るばかりだ。


 悲鳴は授業に影響を及ぼさなかったのか、誰かが医務室に来る気配はない。

 もう少し二人きりの時間を得ることになったわけだ。……アプロディテの効果は切れてしまったようだから、美味しい出来事を期待するのは難しいけど。


 多分もう一つの、鉛の矢を打ち込んだのだろう。こちらを嫌悪するような素振りが無い辺り、差し引きゼロになったと考えられる。


「御免なさい、理由も分からず倒れるなんて。疲労が溜まってるのかしらね?」


「今はどうなの?」


「少しだけど、まだ頭の中がスッキリしないわね。な、なんだか、緊張してるような感じもするし」


「――そっか」


 ヘルミオネは胸に手を当てて思案している。ときおり俺の方をチラチラと見るのは、多少の自覚がある証明だろうか?


「って、こうしちゃいられないわ。授業もあるし、他のギルドとの折衝もあるし、急がないと」


「ついでだから休んだら? 本当に疲れから来てるんなら、せめて今の授業が終わるまでは、さ」


「それはアタシがまた倒れた時、君が面倒くさいから?」


「うん」


 隠したって仕方ない。

 不満だとばかりに、ヘルミオネは眉根を寄せる。が、それも数秒のこと。胸に得たものを一息で吐き出して、大人しく身体を横にしていく。


「アタシだって、君やシビュラに迷惑かけたくないし? ここは素直に従うとしますか」


「助かるよ。あ、他ギルドとの交渉って、どうなってるの?」


「今のところ、一つ応じてくれたギルドがあるわ。って言っても、無条件で譲る気はないって。昼休みにでも急いで話をしたいらしいけど」


「お、有り難いね。関係者はどこに?」


「まとめ役の神子なら三年生の教室にいるわ。でも生徒会室に来てください、って予め言っといたから。こっちは待機するだけで大丈夫よ」


「分かった。俺とシビュラでどうにかしとくから、ヘルミオネは休んでて」


「い、いいわよそこまで。まだ数時間あるんだし、その間に――」


 起き上がろうとする彼女を、俺は片手で押し留めた。


「そういうのは他の人に言うべきじゃないかな。先生とか」


「……まったくだわ。アタシも君も、専門知識は持ってないものね。――じゃあ許可が出てたら、アタシは休むの止めるからね?」


「さすがに文句はないよ」


 と、噂をすれば何とやら。すれ違ったばかりの潔癖教師は、最後に見た時と同じ表情で戻ってきた。


 後は彼の領分だろうし、こちらは大人しく教室に戻ろう。……本音を言えばもう少し付き添ってやりたいが、こっちだって教室に戻らなければならない理由がある。テスト的な。

 まあどうせ寝るんだろうけど、追試を避けるぐらいの成績は取っておきたい。


「居眠りは禁止よ?」


「頑張るよ……」


 眠気との格闘なんて、想像するだけでも憂鬱な気分。


 そうだ、限界に達しそうだったらさっきの光景を思い浮かべよう。ヘルミオネは凄く大人っぽくて色気があったし、興奮して目が覚めるかもしれない。


 これだ、なんて合理的な攻略法なんだ。

 さっそく目蓋を擦りながら、俺は医務室を後にした。

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