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異世界生活は全能神の加護で!  作者: 軌跡
第九章 生徒会ギルド
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11

「ほらユキテル様、肝心のケルベロスさんは食べてますよ? 我慢できないほど、彼はお腹が空いているということです!」


「いや君が誘惑してるからだよね!?」


「そうですけど、屈する方にも問題はあるんじゃないですか? ほら、昨日のユキテル様なんてまさにソレでしたし。本心を隠すのは健康によくありません!」


「誘惑されることも健康によくないと思う」


 それでもシビュラは従わず、餌付けを続行していた。

 ……しばらくは諦めた方がいいかもしれない。ケルベロスの方には自覚があるようだし、どんな根回しをしたって最終的には本人の意志で決まるんだから。


「ああそうだ、ケルベロスさんに一つ聞きたいことが」


『? 何かね?』


「赤いドラゴンって、知ってますか?」


『うむ』


 与えられたクッキーを口の中で何度も噛みながら、三つの頭が頷いた。

 視線を向けてくれるのは、そのうちの一つだけ。他二つはシビュラが投げてくるご馳走に釘付けとなっている。


『先ほど地上に出ていったドラゴンであろう? 赤い鱗の竜はかなり稀少だからな、見間違えることなどない』


「名前とか、あります?」


『……確か、メラネオスと名乗っていたな』


「――」


 もう、誤魔化しようがない。


 メラネオス。ギリシャ神話に登場する英雄の一人であり、ヘルミオネの父親だ。あまり目立った存在ではないが、理知的で冷静な人物であると描写されていることがある。


 もちろん、それは神話上の話。似て非なるこの異世界でヘルミオネの父親は別人だ。あの赤いドラゴンと、本人達が自覚する関連性は持っていないだろう。


 だから余計にスッキリしない。あのドラゴン――メラネオスは、ヘルミオネを娘として認識している可能性がある。故に二度の邂逅で、彼は好意を示してきたのだ。


「……あの、他には何か?」


『我が知っているのは名前程度だ。親族でもなければ、魔獣同士での交流は滅多にない。因縁のある相手なのか?』


「昨日初めて会ったばっかりですよ。だから少し、気になって」


 だがその問題も、一段階先に進んだ。

 根本的な解決へ至るには、大迷宮や魔獣の正体を解明させる必要があるんだろう。――あるいは、この異世界が誕生した瞬間。ギリシャ神話の登場人物が出てくる理由。


 アテナを始めとした神々に助言を乞いたいが、以前彼女は言っていた。この世界を発見した時には、自分達がよく知る世界になっていたと。


 なら真実はもっと奥に。神々が登場する以前の歴史に隠れている。


「……じゃあケルベロスさん、今日はこの辺で。頑張って肉食に戻ってください」


『う、うむ、任された』


 眉間に寄っている皺が、自信の無さを語っていた。


 シビュラは最後にクッキーを投げて、すぐに俺の隣へ並ぶ。定期的に背後へ向き、ケルベロスに手を振りながら。


「――ところでユキテル様、メラネオスって名前が気になるんですか?」


「え? ああ、多少だけどね」


 ヘルミオネの父親なんだ――と、答えるわけにはいかない。


 異世界の人々は基本、ギリシャ神話のギの字すら知らないからだ。神々については神話と同一人物に思われるが、アテナ一人しか知らないので確証は持てない。


 神殿に帰り次第、その辺りも確認しよう。二日酔いが治っていることを祈るばかりだ。


 地上への出口まで、あと少し。

 普通の学園生活へ戻りつつある事実に、何だか気分は退屈だった。

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