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「ここ数年は出場すら出来なかったけど、今年は楽勝ね! なんだったらユキテル君一人でも勝てるんじゃない?」
「それは駄目でしょ。こっちも本気で戦うのが礼儀じゃない?」
「……一方的な展開になるとしか思えないんだけど」
「だから、いいんじゃない?」
加減されて負けたりしたら、相手だってプライドが傷つく。
一方的に負けたら更に凹むんだろうけど、それは向こうの課題ってことで一つ。対戦相手の弱さにまでこっちが責任を持つ必要はない。
「嫌な予感しかしないわ……命に関わるようなこと、やっちゃ駄目だからね?」
「しないって。――神子ってドラゴンより頑丈だよね?」
「言った傍からそれ!? ……最下層の魔獣より高い防御力持ってる神子なんて、そうそういないわよ? 英雄級でも稀、無銘級は言わずもがなね」
「じゃあ加減の仕方を覚えないとな……」
自分の宣言を覆すようで、面白い気分にはなれなかった。
一方で気掛かりがある。ヘルミオネの指摘を真に受けるなら、対面式での戦闘は――
「死者とか、出てたりする?」
「出ない出ない。参加者には学園から、防御用の特別な加護が与えられるの。普通の神子じゃ、突破することは出来ないわね。普通の神子じゃ、ね」
「なるほど、普通の」
神級が規格外だとは、散々言われた事実だ。
こうなったら本気で加減する方法を探さないと。自分の信条は自己解決するとして、問題は百腕巨神。これまで全力でぶち込んで来た以上、頭の痛い課題である。
詳しいのはアテナとか、ヘルミオネの父親・アキレウスだろうか。
自分でも試行錯誤するとして、助っ人の目星はもう少し立てておこう。誤って死者を出したりすれば、神殿だってどこまで擁護してくれるか。
「ああ、面倒くさい……いっそ出場を取り止めたいぐらいだね」
「お願いだからそれは勘弁して! アタシ一人じゃ出場できないのよ!」
「じょ、冗談だよ冗談。あ、シード権とかないの? トーナメント方式なのかリーグ方式なのかは知らないけどさ」
「あるわよ、シード権。って言っても、去年の優秀な学生ギルドにしか与えられないのよね。枠が減ったりすれば、アタシ達にもチャンスはあるでしょうけど……」
「じゃあ交渉とかどうかな? こっちもある程度、うま味は出すとしてさ」
「なるほどねえ。――じゃあそのうま味、アタシが探しておきましょうか?」
「ごめん、助かる」
自分より彼女の方が遥かに、生徒会、学園の情勢には詳しいのだ。本人からの提案でもある、斥ける理由は一つもない。
「――だったら代わりに、大迷宮の方には俺が行っておくよ。ケルベロスさんだって俺がいれば十分だろうしさ」
「で、でもアタシは副会長よ? 一緒に……」
「いいって、調べる時間に割いてくれた方が助かるし。大迷宮には何度も言ってるんだから、平気だよ」
「……分かったわ」
渋々ではあるが、ヘルミオネは確かに頷いた。
前方にはもう、神殿前の広場が。法衣を着たままのシビュラもおり、誰かを心配しているのが一目で分かる。
試しに呼びかけてみると、飛ぶように立ち上がった。
「じゃあ俺、これから食事だから。また学校で」
「遅刻には気をつけなさいよ。――あ、そうだ、もう一つ聞きたいことあったんだけど」
「なに?」
「昨日、シビュラと何かあった?」
大した質問じゃなかろうと思っていただけに、俺は固まってしまった。
肯定するしかない問いだけど、更に一歩踏み込まれたら困る。朝っぱらからする話ではないような――でもちょっと胸を張りたいような。
隣に並んだシビュラは、直ぐに空気を察知して、
「私とユキテル様は昨夜、ついに結ばれたのです!」
広場の隅々に響く大声で、言ってくれやがるのだった。




