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「……味方、でいいのかしら?」
「昔ドラゴンの世話をしたとか、ないのヘルミオネ? 恩返しに来た、ってありがちな物語じゃないかな?」
「随分と律儀なドラゴンね。――でも残念、動物は飼ったことないわ。馬だったら父さんのがいるけど」
「馬が変身してああなった、とかは?」
ヘルミオネは眉間に皺を寄せてこちらを見ている。さすがに冗談が過ぎたか。
倒された白竜の方では、徐々に神殿騎士達が集まっている。あのまま放置しておけば明らかに邪魔だし、運び出す算段を立てているんだろう。
「さて」
新しい力に手応えを得ながら、歓声に背を向ける。
なかなか騒がしかったが、ひとまず一日のスタートだ。
「ああっ、待ちなさいよユキテル君!」
「? ヘルミオネ、俺に用でもあるの?」
「当然よ。他にもう一つ用はあったけど、終わってるし」
「――じゃあまず、ここから移動しない? 話し合いをするんだったら静かな場所の方が集中できるし」
「分かったわ」
しかし行政区へ戻る道すがら、感謝する人々は金魚の糞みたいに追い掛けてきた。鬱陶しくて仕方ないが、辛抱すれば時間が解決してくれる。一般の人々が住む市街地と行政区は、柵で区切られているからだ。
途中から神殿騎士の人達も割り込んで、民衆の声は順調に離れていった。
「ねえユキテル君。さっき、何したの? アタシには何が何だかよく分かんなかったんだけど……」
「加護の一つを使ったんだよ。どうも時間の動きを遅くするみたいで――あ」
「な、何? あのドラゴンについて分かったことでも?」
「いや全然。たださ、この時間停滞の加護を使えば、昼休みとか長く出来るんじゃないかな、って」
「――」
ヘルミオネは露骨な批判を込めて、深い深い溜め息を作る。何でだ。
「あのねえ、サボってないできちんと勉強しなさいよ。少なくとも表面上は、普通に学生やりなさい」
「授業中はよく寝てます」
「あ、アンタねえ……」
まずいのは分かってる。テストだって近いんだし。
神殿に近付いていくと、駆け足で市街地に向かう騎士達が多数。小耳に挟める会話からは、ドラゴンの出現と処理についてだ。大迷宮の変化を危険視する声も多い。
ケルベロスには放課後すぐに会いに行こう。出来れば学園が始める前に済ませたいが、授業時間だって無視できない。
まあどうせ寝るんだし、学園を抜けて会いに行くのも良さそうだが。
「で、話って?」
「昨日生徒会で話した、新入生との対面式についてよ。一般市民も巻き込む大規模なイベントだから、改めて説明しておこうかなって」
「見世物ってこと?」
「言っちゃえばね。行政区に入れない市民は、神子の能力とか見る機会がないから。年に何度か場を設けて、威厳を見せつけようってわけ」
「へえ……」
「参加者は大抵、気合を入れて臨んでくるわ。生徒会以外の学生ギルドって、他国が後ろ盾になってるしね。下手な成績出したら散々よ」
「俺達も出るんでしょ?」
ヘルミオネは二つ返事。不敵に微笑んで、勝利への自信を匂わせている。
在学中の神級神子は俺一人だと聞くし、そりゃあ勝ちを確信するもんだろう。こっちも生徒会の仕事とあれば、断る気は毛頭ない。――周囲がうるさくなるのは、正直抑えたいところだが。




