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異世界生活は全能神の加護で!  作者: 軌跡
第九章 生徒会ギルド
78/99

5

 預言官に連れられて、俺は寝間着のまま廊下を走っていく。途中、何人もの預言官が見送りに来ていた。アテナの姿も見えるものの、二日酔いだそうで足元が覚束ない。まさに駄女神。


 ドラゴンの体躯は相当なもので、離れている筈の神殿からも確認できる。


「――昨日の個体とは違うか」


 それよりも一回り大きいぐらい。鱗の色は白で、生物の脅威というよりも神々しさを感じさせる。


 だがオンファロスにとって脅威なのは間違いない。こうしている今も、巨木のような両腕で建物を蹴散らしている。


 百腕巨神ヘカトンケイルを展開し、俺はドラゴンの足元へと駆けていった。

 彼が反応できない程の、一瞬で。


『っ!?』


「ふ――!」


 突然現れた敵に対し、白竜の反応は遅れている。

 彼に百腕巨神の一撃を躱すことは出来なかった。ガラ空きの胴に轟音が響き、鉄よりも堅い鱗が宙に舞う。


『アァ……!』


 反撃は刹那のうちに。攻撃の直後で足が止まっている俺へ、口から火球を発射される。

 だがそれも、当たらなかった。


『!?』


 ドラゴンが驚愕した直後、衝撃は彼の背後から突っ走った。

 特別な理由はない。人間の身体機能を遥かに凌駕する速度で動き、攻撃をぶち込んだだけのことだ。


 圧倒的不利を理解しないドラゴンは、懲りずに腕を使って反撃する。

 瞬間、


「――」


 俺の視界に映るドラゴンは、動きが鈍くなる。

 変化は彼に起こったわけじゃない。この世界、流れている時間が、三分の一ほどに速度を落としているだけのこと。


 ――神話の中で、ゼウスはこれと似たようなことを行っている。該当するシーンは一度だが、彼は夜の時間を三倍に伸ばした経験があった。

 故に、加護の力が可能にしてくれる。


「っ!」


 攻撃が命中するのと同時に、時間停滞を解除した。

 どうも疲労感がある。加護の活動にはエーテルを消費するとのことだし、それが影響しているんだろう。星の時間を操作するなんて、文字通り神の御業。多少のリスクは出てしまう。


 もちろん、このドラゴン相手ならお釣りが来るぐらいだった。


 百腕巨神の攻撃は、彼の目にどう映ったのか――恐らく、攻撃の起こりさえ見えていまい。数倍の速度で動くこちらの姿はもちろん、何か衝撃を打ち込まれた、ぐらいだろう。


 ドラゴンは防ぐ手立てもなく仰け反っている。


 トドメはもちろん、停滞した時間の中で行われた。


『ガ――!?』


 完封。

 駆けつける前に起こった被害を覗けば、そう称して構わない顛末だった。……倒れるドラゴンの下敷きになった建物については、まあ神殿の方から保証を出すとして。


「上手くいったかな、っと」


 エーテルの消耗から息を整えながら、俺は仰臥した白竜を見下ろす。

 歓声が聞こえたのは間もなくのことだった。被害に巻き込まれて負傷した市民の姿もあるが、一見する限り死傷者の姿はない。


「ゆ、ユキテル君!? 大丈夫なの!?」


「ああ、おはようヘルミオネ」


「おはよう――って、無事なのかどうかを答えなさいよ! 怪我とか――」


「してないって。ほら」


 寝間着姿の――そうだ、人前に出る格好じゃなかった。急いで帰って着替えよう。学園だってあるんだし。

 ヘルミオネだって制服姿になっている。荷物は一切持っておらず、通学途中には見えなかったが。


「? っていうかヘルミオネ、ここ学園はちが――」


「ユキテル君っ!」


 彼女の飛び掛けと、人々の悲鳴が再発するのは同時。

 撃破した筈の脅威が、息を吹き返したのだ。


「まったく――」


 しかし、こちらが手を下すまでもなかった。


 背後から突っ込んできたもう一頭が、再起したばかりのドラゴンを吹き飛ばす。――町の被害は更に拡大してしまったが、好き勝手暴れられるよりはマシだろう。


「き、昨日の……」


 大迷宮で挨拶だけしてくれた、謎のドラゴン。


 彼か彼女かも分からない真紅の鱗は、またもや俺達に向かって一礼した。動かない白竜を下に置いているため、迷惑をかけてすまない、と謝罪しているように見えなくもない。


 留まることはせず、赤いドラゴンは大空へと去っていく。


 俺もヘルミオネも大勢の人々も、ただ唖然として見上げていた。

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