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翌朝。
目を覚ますと、最初に視界へ入ってきたのはシビュラだった。
彼女はこちらの胸元に顔を埋めて、可愛らしい寝息を立てている。下手に動くと起こしてしまいそうなんだけど、登校の準備をする以上は動くしかない。
そもそも本来、シビュラは俺と同じ時間に起きてはならない筈だ。彼女が担当する重要な預言は、毎朝一番に行うんだから。
「シビュラ、シビュラ」
未だ動く気配のない頬を、何度も優しく叩いてみる。
十回目に差し掛かろうとしたところで、重い目蓋はようやく動いた。とはいえ寝惚けている状況には違いなく、怪訝そうな顔でこちらを見ている。
「あれ、もう朝ですか……?」
「うん、そうだよ。寝足りない?」
「そりゃそうですよー。私、ユキテル様より朝に弱いんですからー。……ええっと、まずは何をすればいいんですたっけ? 朝ごはんの準備ですか? それともお着替えですか?」
「えっと、着替えて預言の準備して、預言を受け取らなきゃいけないんじゃない?」
「預言――預言?」
途端。見る見るうちに少女の瞳は覚醒していく。
「あああぁぁぁあああ!! そうですよ、預言っ! 私がやらないと駄目じゃないですか!」
「そうだね、代わりはいないね。だから早く急がないと」
「ええ、急ぎますとも! こんなこともあろうかと、昨晩のうちに法衣を持ち込んでおきましたし!」
「俺の前で着替えるってこと!?」
「えっ、駄目なんですか?」
メリハリはつけなさい。
しかし止める暇もなく、シビュラは寝間着を脱いで着替え始めていた。――なるほど、彼女は下着をつけないで寝てるらしい。夜中の感触はすべてダイレクトだったわけだ。
呼びに来た女性を蹴散らす勢いで、神殿一の預言官は廊下を駆け抜ける。朝はただでさえ慌ただしい雰囲気なのに、二割増しの騒々しさだ。
「しっかし、よく寝たな……」
シビュラの所為で普段なら悶々としているんだが、今日は清々しい気分。……昨日、部屋に戻ってから色々あったって意味ではない。
単純に睡眠時間が確保できたというか。これまでの夜に比べて、三倍ぐらいは長く寝た気がする。
昨日から、時間に関する違和感はあった。
これがゼウスの加護によるものであれば、一つだけ心当たりがある。周囲に危害はないだろうし、どうせだから試してみよう。
「――」
深呼吸して、意識を集中させる。
直後だった。
「み、神子様っ!」
神殿に努めている預言官の一人。残念ながら俺の好みではない美人が、息を切らせて扉を開けた。
「どうしたんですか? そんなに慌てて」
「外の市街地にドラゴンが出現したんです! 神殿騎士ではとても抑えつけることが出来ず――!」
「分かりました、行きます」
なんてグットタイミング。
新しい力を試すのに、これ以上ない相手じゃないか。




