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「ほらー、ユキテルひゃま、どうぞ?」
「そ、それはまだ早いような――」
「……あのですね」
咥えたまま話すのは大変なんだろう。シビュラは艶やかな唇を震わせつつ、イチゴを手の方に移していった。
「今さら過ぎますよ? 添い寝したり私のオッパイ鷲掴みにしたり、一緒にお風呂入ったりして、どこが早いっていうんですか? これでもなお拒むのは、責任逃れですからあります!」
「うっ」
「私はすべてに合意した上で行っているんですから、罪は重いと言えるでしょう! もう舌突っ込んでキスしててもおかしくないぐらいでは!?」
「いやでも、段階というものを――」
「ユキテル様っ!」
勢い付いたシビュラは、再びイチゴを咥えて前へ。朱色の上った頬で、目を瞑って待機している。
何を催促されているのか、もはや問うまでもない。……まあ確かに、こっちもこの一週間は我慢の連続だった。彼女、何の考慮もせず風呂入ってくるし。
「んっ」
暴れる心臓を抑えつけながら、シビュラの肩に手を乗せる。
あとは着実に近付いていくだけだ。自分の意志で、彼女の強引な攻めも関係なく、本格的にシビュラという少女を手に入れる。
目と鼻の先に甘そうなイチゴと、彼女の可愛らしい唇が見えた。
「はははっ、じれったいぞ!」
「!?」
ロマンチックな雰囲気をぶち壊して、アテナが俺の背中を突き飛ばした。
案外と力が強かったせいか、シビュラを巻き込んで転倒する。座っていた椅子もまとめて倒れ、自然と彼女を押し倒す形になった。
もちろん、イチゴはしっかり入手している。
唇の感触と人肌の温もりも、きちんと身体に残っていた。
「……シビュラ、怪我してない?」
「ふふ、大丈夫ですよ。――半分は事故なのが納得できませんけど」
「まあ酔っぱらってるわけだからね。気にしない方が――」
いい、と断じる直前、シビュラの方から口を塞ぎにきた。
触れ合うだけの幼稚なものではなく、互いを貪る貪欲な接吻。抵抗しようにも首の後ろへ手を回されているため、身動きが出来ていない。いや、出来るだけの余裕がない。
溶けていく。シビュラにされるがまま、与えられる温もりと快感に溶けていく。
「っ、はぁ……」
解放された頃、どれぐらいの時間が経ったかも分からなかった。
理解できるのは大人の階段を一つ上ったことと、正面に極上の美少女がいることだけ。濡れそぼった瞳は挑発的で、神子という立場を抜きにした全能感を与えてくれる。
一人の女性をものにした達成感、征服感。燃え滾るような自信が、身体の奥から湧いてくる。
「歯がぶつかったりしましたけど……どうでした? 私のキス、気持ち良かったですか?」
「なんか、色々考えられなくなったよ」
「あら、答えになってませんよ、ユキテル様。――私ともっと繋がりたいのかどうか、それだけ教えてくださいな?」
首を横に振るなんて有り得なかった。
一度だけ、しかし明確に頷いた俺を見て、シビュラはとても満足気。少女とは思えない艶然とした笑みが向けられる。
「でもユキテル様、焦りは禁物ですよ……? デザート、まだ全部食べ終わってないんですから」
「……シビュラ用意してくれたんだから、残すのは厳禁だね」
「はい。――でも二人で一緒に食べれば、直ぐにお皿を空っぽに出来ます。だから、一緒に食べましょう?」
「い、一緒?」
言葉の意味が分からず首を傾げると、シビュラはテーブルの上に手を伸ばした。さっきのイチゴを使って、また何かやるつもりらしい。
「ん……」
また咥えて、こっちを見ている。
なるほど、確かに一緒に食べる、だ。
「じゃ、じゃあシビュラ」
「ふぁい」
「――いただきます」
何を、かまではよく分からなかったけど。
その日は、これまでで一番濃密な夜になった。




