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「あのさ、普通に答えてね? ヘルミオネのお母さんってどういう人?」
「とっても綺麗な方ですね。器量も良くて、私から見ると欠点が無いぐらいです。褒められることにも男性の扱いにも慣れてますから、今のヘルミオネさんとは正反対かもしれません」
「苦手そうだもんねえ、彼女」
未経験だから、と言えばそこまでだが、チャンスを寄せ付けなかったのも彼女である。
もし母親のようになりたい、超えたいと考えているなら、生徒たちへの当たり方ももう少し柔らかくて構わない気がするが……。
「ヘルミオネって一人っ子?」
「はい、ご兄弟はおられませんね。だから昔から言ってましたよ? 父さんも母さんも、アタシが超えてみせるー、って」
「なるほど」
だからヘルミオネは、学園で自分を卑下していたのか。
多分、心を許した相手に見せる弱味ではあるんだろう。他の生徒達に対しては気丈に振る舞っているのが、、何よりの証拠。――優越感を覚えるのは避けられない。
「でも意外と、上手くいってなかったりしそうだね」
「あ、分かります? 彼女、どっちもやり通すつもりらしくて……子供の頃なんか凄かったですよ? 自分に言い寄ってくる男を呼び出して、決闘なんかしたり」
「随分とやんちゃだな……」
「あとあと、皆と仲良くするのにも消極的でした。群れるなんて弱い生き物のすることだー、って声高らかに叫んで」
孤立するのも無理はあるまい。
でも何となく、ヘルミオネがこちらに良くしてくれる理由が分かった気がする。神級の神子だから、力量の観点で期待しているんだろう。
「ユキテル様、やっぱりヘルミオネさんのこと気になります?」
「……大声で言うのも変だろうけど、まあ気にはしてるよ。いい子だしね」
「はい、私も保証します。ですから大切にしてあげて――と、言いたいところなんですが」
「?」
食事の手を止めると、シビュラは急に身体を寄せてきた。これまでとは完全に違う、肌の柔らかさも伝わる密着。
食事中の食べさせ合いは慣れても、こっちはまだまだ緊張する。
「一つ、お願いがあります」
「な、何?」
「ちゃーんと私の相手もしてくれないと、拗ねちゃいますからね……?」
耳元で。
甘い息を被せながら、シビュラは誘惑に口調で言ってのけた。
全身にわっと汗が噴き出る。蛇に睨まれたカエルの気分だ。隙を見せれば一方的に料理されると、本能が白旗を上げてしまっている。
「う、うん、分かったからシビュラ。少し離れて……」
「嫌ですっ。ご飯も残りはデザートだけですし、あとはこうして仲良くしましょう? ユキテル様だって、すっかりその気になってるんじゃないですか? 例えば――」
「あ、アテナ様もいるから、ね?」
「むう……」
これ以上迫られないようにと、俺は彼女の肩を掴んで押し戻そうとする。
だが、手に帰ってきた感触はあまりにも柔らかかった。慌てていたから、と言い訳したくても、指先は明らかに埋まっているわけで。
「んっ……ふふ、強引ですね、ユキテル様は」
「じ、事故です、事故!」
「いいんですよー、それでも。――アテナ様は酔っぱらってこっちのことなんて見ませんし、せっかくですから、ね?」
「?」
言葉とは正反対に、彼女は身体を離していく。
真意を悟ったのは数秒後のことだった。食後にと用意されていたイチゴを啄み、シビュラはそのまま戻ってくる。
口移しする気だ、この娘。




