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地響きと風を起こしながら着地する彼の頭には、弟のオルトロスが乗っている。以前戦った暴走状態とは異なり、よく見た仔犬の状態だ。
『おお、ユキテル殿! 待っていたぞ!』
「? 何か問題でも――」
『腹が減った!』
立派な頭は、三つ揃って。
涎を垂らしながら、空腹を訴えたのだった。
「いや、俺達にどうしろと……」
『簡単だ、あの娘を連れて来てくれ! 菓子をくれたあの娘だ! クッキーとやらを喰って以降、魔獣の肉が不味くて敵わんのだ!』
「――」
ふと思う。生態系の乱れって、ケルベロスが普通の食事をしなくなった所為でもあるんじゃないかと。
餌付けをしたシビュラの責任を問いたいところだが、あいにく彼女はこの場にいない。ましてや手製のクッキーなど、こっちは一つも持ち込んでいなかった。
「だ、駄目ですよ。普通に食べてください。肉を、普通に」
『な、なにィ!? 貴公は我らに恨みでもあるのか!? 確かに以前、弟の暴走により迷惑をかけたが――』
「それ関係ないです。自然の摂理を守ってください」
『な!?』
こちらの返答を聞き、ケルベロスは愕然としている。
にしても、以前話した時と比べてやけに饒舌だ。これも空腹が起こす技なんだろう。
『む、惨すぎる……! 我はともかく、このままでは弟が飢え死にしてしまうのだ! どうか、オルトロスだけでも――!』
「じゃあ条件として、ケルベロスさんは一生クッキー抜きでいいですか?」
『アアアァァァアアア!!』
吠えるというより、悲鳴に近い反応だった。――冗談のつもりが本気に聞こえたらしい。
一方、当の弟は喜んでこちらに近づいてくる。愕然とする兄・ケルベロス。あまりのショックで身体が少し小さくなっているようにも見えた。……オルトロスのように普通の犬へと化ければ、解決できるという魂胆だろうか?
「じゃあケルベロスさん、数日は我慢していつもの食生活を送ってください。そうしたら持ってきますから」
『真かっ!? し、しかし数日などと――次に一度でも肉を食せば、腹が壊れてしまうかもしれんのだぞ!』
「でもこっちにだって事情があるんです。どうしても、って言うんなら妥協案を見つけないと」
『ぬう……』
いくら空腹だろうと正気は保っているようで、ケルベロスは思案で首を捻っている。
こちらとしては、彼に褒美を出すのもやぶさかではない。が、大迷宮で起こっている問題も解決する必要がある。二つとも取りたければ、口にした通り妥協するしかない。
『そもそも何故、我に通常の生活を送れと? お主ら人間にどのような関わりがある?』
「地上の方に何体か魔獣が出てきて、困ってるんですよ。道になってるらしい穴は発見し次第塞いでるんですが、どうも防ぎきれなくて」
『では第一層にて、我が見張りを行うというのはどうだ? さすれば地上への被害は食い止められ、我も直ぐに褒美を得ることが出来る』
「……いい? ヘルミオネ」
「うん? アタシは問題ないけど?」
まるで興味が無さそうな彼女だが、原因は単純だった。オルトロスと遊んでやがる。
真面目な副会長さんも、人並みの好みはあるということか。
「――神殿の方で相談してからでいいですか? もともと、ケルベロスさんから逃げてきた人狼達が、地上に出てきたわけですし」
『ぬ、ぬう……分かった、それで手を打とう。ただしオルトロスはどうか、連れて行ってやってくれ……!』
「はいはい」
弟に先を越される悔しさがあるらしく、ケルベロスは大粒の涙を流していた。
一方のヘルミオネは完全にオルトロスを気に入っており、頬ずりまでしていたりする。……どうやら、モノにつられたのはこっちも同じらしい。
『頼むから明日には了承を得てくれ……空腹で死にそうだ』
「いや、まだ許可が出るかどうか決まったわけじゃないんですけど……まあ、最大限努力はします」
『うむ、期待しているぞ!』
一層全体に声を響かせてから、ケルベロスは背中を向ける。




