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異世界生活は全能神の加護で!  作者: 軌跡
第七章 愚者の始末
63/99

8

「っ!?」


 人質を確保したまま、リュステウスは背後の三頭犬へと向きを変えた。が、止まらない。ケルベロスは大きく口を開け、親子を喰い千切ろうとしている。

 シビュラはあえなく巻き込まれ――


「な……」


 てはいなかった。

 噛みつく直前、ケルベロスの大きさが変わる。前回の大型犬を下回り、暴走前のオルトロスと変わらない大きさにまで。一撃で人間をかみ殺せるサイズではない。


 リュステウスの隙を作るには、十分だった。


百腕巨神ヘカトンケイル!」


「が、ぁ!?」


 巨大な腕は、指先だけでリュステウスの自由を奪う。ナイフを持っていた右手を捻り、シビュラが脱出する機会を作る。


 無事、彼女は父親の手から解放された。


「ユキテル様っ!」


「っと」


 半泣きの状態で、彼女は抱きついてきた。

 見上げてくる視線は、何だか非難がましい。きっと置き去りにしたこと、そこまで人質として考慮しなかったことを怒っているんだろう。御免なさい。


 元の大きさに戻っていくケルベロスの向こうからは、ヘルミオネもやってくる。

 詰みだ。


「さてリュステウスさん、どうしますか? このまま抵抗する気なら、俺達で相手になりますけど」


「く、くく……」


「?」


 鳴る地響き。

 神殿前に群がっていたであろうゴーレムが、その器ごとリュステウスの頭上に吸い込まれていく。


「私は勝者となるべき資格がある。これまでどれだけのモノを捨て、裏切ってきたと思う? その負債に比例するだけの力を、私は手に入れる資格がある!」


「――」


「悪いのは貴様だ小僧! 私が積み重ねてきた労力を否定し、神殿の長になるだと!? ふざけるな! 私は――」


「これで全部決まってたんですか?」


「なに……!?」


「これから先、貴方が長になる可能性だってあったかもしれないのに。こんなことをしたら、可能性が完全に潰れますよ? 良かったんですか?」


「っ――」


 怒りの咆哮が全員に届いた、その直後。

 リュステウスの背後に、五十メートルはある上半身だけのゴーレムが出現した。


「殺してやるっ! 貴様も娘も、犬もガキも、殺してやる……!」


「そうですか」


 自分の声から、感情が消えていくのを自覚する。

 危機感を覚えたのか、後ろにいるシビュラは一歩ずつ離れ始めた。ヘルミオネは幼馴染の傍に近付き、その手を強く握っている。


『支援は必要かね? 少年』


「いえ、俺一人でやります。向こうも――」


 石と石の摩擦音を出しながら、ゆっくりと上がっていく岩の拳。巨神の拳よりも大きいが、そんなものは勝敗を左右しない。


 必要なのは、


「屈辱でしょうからね」


 落ちてくる岩の塊を、逃げることなく打ち砕く。


 直後に始まる再生。しかし見向きもせず、超ド級のゴーレムの身体を駆け上がる。途中、表面からは大迷宮で遭遇したのと同サイズの個体が出現するが、足止めの役も果たせない。


「っ……!」


 ショートカットも兼ねて跳躍した正面、頭部が見えた。


 破裂する。

 百腕巨神の総攻撃を受けて、ゴーレムの頭部は風船よろしく破裂した。持ち前の再生力も間に合わない、文字通りの木端微塵。


 残念ながら核の姿はなく、俺は攻撃を続行する。

 もっとも敵の動きは止まったままだ。一方的な展開が待ち受けているに過ぎない。


 削る、削る、削る。

 巨神の連打でひたすら削り飛ばしていく。再生など許さない。圧倒的な力の差を見せつけて、抵抗する意志を根こそぎ奪ってやる。


「ふ――!」


 ようやく顔を見せる、人間の頭部ほどはあろう球体。

 刹那のうちに、砕け散る。


 核を失ったゴーレムは、途端に崩れ始めていた。巨体の真下にいたリュステウスは、絶望の声を上げながら逃げ回るだけ。次の一手はないらしい。

 地面に両足をついて、ホッと胸を撫で下ろす。


 リュステウスは全速力で離れていくが、その後ろを元に戻ったケルベロスが追っていく。

 十秒も立たない間に、逃亡者は巨大な前足で抑えつけられた。


「がっ!?」


『動くな、人間。加減を間違えれば潰してしまうかもしれんぞ』


「ひっ……」


 身動きが取れないリュステウス。ケルベロスはたっぷり悪意を込めて、口の端を釣り上げていた。


 半壊気味の神殿からは人の声が聞こえてくる。アテナが送り込んだ神殿騎士だろう。……特別と言っていたが、今日はバーゲンセールか何からしい。


 加護の一つである千里眼を用いた予測は大当たり。しばらくすると、甲冑に身を包んだ男達がやってきていた。


「ご苦労様です、神子様。この男はこちらで預かろうと思いますが……宜しいですか?」


「俺は構いませんよ。ケルベロスさんは?」


『右に同じだ』


 騎士に包囲されてから、リュステウスは解放された。といっても、数秒後には同じ扱いしか待っていないが。


 彼が連れられていく、その直前。負けを認めていない双眸が俺を射抜く。本当、負け犬の遠吠えとしか思えなかった。

 呆れてものが言えないとは、こういうのを言うんだろう。

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