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「解せませんね。貴方は俺に仕えるよう、教えられてきたんじゃないんですか?」
「建前だよそんなものは。私は支配者として、あまねく強者となるべく生きてきた。故に貴様の持つ加護は、本質的に私が持つべきなのだよ」
「その理由は? 根拠は?」
「私が許された人間だからだ。……ついでだから少し説教をしてやる。この世界にはね、許された人間がいる。傲慢であることを、欲望のままに振る舞う権利を得た者が。私はソレなのだよ」
「――もう一度聞きます。理由は何ですか?」
「君には耳がついているのかね? 私が権利を持って生まれた。それだけの話だ」
「……」
自然と笑いが込み上げてくる。少なくとも自分には、彼が大人物に見えてこない。声高らかに、是を叫んでいない。
だってリュステウスは、力欲しさに外へと干渉している。
それは実行した段階で、人間の品位を落とすものだ。
「権利を持って生まれたと仰いましたね。――なら、どうして力を他人から求めるんです? 持って生まれたものなら、求める必要は最初からない筈ですが?」
「――」
リュステウスの顔から感情が消えていく。怒りや憎悪を通り越した、純粋な殺意へと変貌していく。
握っているナイフにも力が籠るが、俺は構わず話を続けた。
「そもそも、理由なんて貴方自身が得たものじゃない。貴方は奴隷だ。与えられた法則に心の底まで染まっている、空っぽの人形です」
「小僧……私の手に何があるのか、分かっているんだろうな?」
「当然でしょう。貴方と違って、都合のいい目はしてませんから」
シビュラにこれ以上の害を加えるなら、容赦はしない。
決意を自覚するだけで、頭は徐々に冷えていく。心なしかシビュラまで怖がっていた。……それなら元に戻りたいけれど、敵の存在を無視するのは難しい。
「……世間知らずのガキが。いいかね、世界には安定が必要なのだ。私のように由緒正しき者が、力を手にして世界を運営しなければならない。凡俗は我々の指示に従って生きていればいい」
「怖いんですか?」
「なに?」
「新しい価値観が出現して、自分達を駆逐するのが怖いんですか? だからせめて、自分が分かるもので周りを固めて、事なかれ主義で人生を送ると?」
「――貴様に何が分かる? 家の期待に答えるため、どれだけのものを犠牲にしてきたか……貴様に分かるのか!?」
「いいえ、ちっとも」
あっけからんと、同情を求めた彼を拒絶する。
「それはリュステウスさんの問題ですから、俺からは何も言いません。勝手に苦しんでくれて結構ですし、勝手に救われても結構です」
「……なら何故、貴様は私に問答を挑んだ? 理解し、交渉するためではなかったのか?」
「違いますよ。俺が貴方と話したかった理由は――」
一息。
「時間稼ぎのためです」
リュステウスの背後。
限界まで口を開いて、飛び掛かるケルベロスがいる。




