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異世界生活は全能神の加護で!  作者: 軌跡
第七章 愚者の始末
60/99

5

「必ずオルトロスは連れて帰るから。信じて欲しい」


「……疑うだなんて、絶対にありません。ユキテル様の無事を、ただここで祈っています」


「祈るだなんて、ある意味疑われてるような……」


「もうっ、こんな時に茶化さないで下さいよ。ほら、オルトロスが待ってますよ?」


 四つの瞳が睨んでくる。兄には目も向けず、俺だけを凝視している。


 直後だった。

 オルトロスが、全速力で突撃してきたのは。


「っ!?」


 ケルベロスとヘルミオネの横を抜け、ゴーレムごと蹴散らして突貫する巨体。

 シビュラを抱きかかえ、俺は急ぎその場を離れる。入れ違う形で神殿の正面が粉砕され、支えの柱も何本かが崩れ去った。


「なんだ今の……」


「恐らく、オルトロスの能力です。強力な魔獣は、加護と似たような固有の力を持つと聞いたことがあります」


「面倒な……」


 神殿から少し離れた場所に着地し、シビュラを一旦地面に下ろす。

 やはりオルトロスはこちらを見ていた。近くに兄がいるというのに、その隙を狙おうともしない。……最初から、俺だけを狙っているんだ。


 早急に案を出さなければならない。あの弾丸じみた突進を、どうやって回避するか。どうやって反撃の一撃を叩き込むか。


 記憶にあるオルトロスの情報を引っ張り出す。名前の意味は、速い、あるいは真っ直ぐ。性格はせっかちで冷静さに欠けていた筈だ。

 先の突進力はその名から来た能力だろう。攻略に活かせるとしたら、性格の方か。


「シビュラ、昨日のクッキーある?」


「いくら何でも持ってきてませんよ……あの子の注意を引きたいんですか?」


「うん、慌てんぼさんみたいだからね。姿が変わっても、餌で釣れるかと――」


 話をしていようと、敵は待ってくれない。

 エーテルの光だろうか。全身の毛から淡い光を放出し、加速に備えて身体を低くしている。


 来た。


「シビュラ!」


「は、はいっ……!」


 さっきと同じように抱き上げて、番犬の一撃を回避する。


 対策が浮かぶまでは逃げ回るしかない。シビュラを安全な場所に置きたいが、距離が離せていない現状では危険だ。そもそも、実は彼女を狙っている、なんて可能性も否定できない。


 走る、走る、走る。

 背後からは絶望的な轟音が途切れずに聞こえてきた。突進の間隔も徐々に短くなっている。時間切れはもう直ぐだ。


「――そうだ、オルトロスの最後って……」


 ギリシャ神話において、彼は牛の番をしていた。それを奪いに来た英雄の匂いを嗅ぎ付け、迷うことなく挑んだ結果敗北してしまう。

 この戦場において誰が英雄で、誰が牛なのか。


 通用するかどうかも分からないのに、逃げながら思案を重ねていく。……どうせ、このままでは二人とも地獄行きだ。ならちょっとぐらい、賭けに出る必要もあるんじゃないか。


「シビュラ、ここで待ってて!」


「え、えええぇぇぇえええ!?」


 問答無用。絶句する彼女を降ろし、そのままオルトロスの反対方向へ離脱する。

 大気を震わせて走る双頭犬。


「っ――」


 彼は、目を瞑るシビュラを襲わなかった。

 ケルベロスの言を思い出す。オルトロスが人間に懐くのは、珍しい出来事なのだと。


 シビュラは接点があったが、俺の方は彼に触れてすらいない。唸られたりはしなかったが、まあ今の実験で嫌われているのが明らかになった。


「ともあれ……」


 あんなに細い身体で申し訳ないが、シビュラが牛ということらしい。

 後は迎撃するだけだ。

 百腕巨神を構え、猛追する巨体を正面から睨む。

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