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異世界生活は全能神の加護で!  作者: 軌跡
第七章 愚者の始末
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2

「女神よ、私の話をお聞きください! そもそもこの神子が原因なのです! こやつが番犬の兄弟を排除していれば! 私がオルトロスを攫う必要もなかった!」


「……」


「どうかお考え直しください! この小僧を神殿に留めたとしても、利益など何一つない! オンファロスの民に悲劇を運ぶだけ――」


「控えよ」


 叫び声も出せない、刹那の出来事。

 リュステウスの片腕が、空中に舞い上がった。


「あ、あ? あああぁぁぁぁあああ!?」


 鮮血が神域に飛び散っていく。

 アテナの手にあるのは、ドレスと同じ色の槍だった。少女の身体で振り回すには大きすぎるぐらいだが、不思議と違和感はない。彼女自身も、軽々と振り回している。


「おいおい、何をやってるんだ。私の聖域が貴様の血で汚れたぞ」


「な、何を、小娘が何のつもりで……!?」


「私はコレでも、貴様の数百倍は歳をくっているんだがね。あと、女に年齢の話はしないことだ。嫌われるぞ?」


「がっ!?」


 喋りながら、アテナはうずくまるリュステウスを打ち上げた。

 飛ばされた彼の動きに沿って、またもや血が飛び散っていく。が、その原因となった神は、自分にも責任があるなど微塵も思っていない模様。


「おい道化、出血ぐらいさっさと塞げ。貴様のような物が、我らの領域に血を零して良いわけがあるまい?」


「っ、あ、ああああ……!」


「幸運にも口は使えるんだ、傷口を塞いだらどうなんだ? うん?」


 平然と無茶を要求するアテナだが、リュステウスにそんな余力はない。彼の身体はこの瞬間にも、命を繋ぎとめることに必死だ。


 もう一撃加えようとする処女神。が、奇跡的に道化は立ち上がった。弱りきった手足を引きずって、死に物狂いで外を目指す。


「よし消えたな。ああ、掃除を忘れずに済ませなければ」


 パチンと指を鳴らすと、呼応した聖域が脈を打つ。表面が薄い光で覆われ、一瞬にして不純物を消したのだ。

 どんな仕組みかも分からない魔法。やはりネクタル石の応用だろうか?


 考えている内に、アテナは自身の特等席へと戻っていく。


「っと、すまんな。驚かせたか?」


「ああいえ、大丈夫ですよ。アテナ様だったらやるって、少し思ってましたから」


「良く分からん褒め方だな……シビュラは大丈夫か?」


「――はい、一応」


 彼女の顔色はどう見積もっても悪い。実の父が痛めつけられたこともだが、目前で流血沙汰を見るのも初めてだったんだろう。


 シビュラの細い指は、俺が来ているブレザーの裾を掴んでいる。微かな震えも無視は出来ない。


「……アテナ様、次回からは周囲の状況を踏まえてから行ってください。貴方の趣味趣向に文句は言いませんから」


「もし私が、人前で人間を切り刻むのが好きだとしても?」


「おっと、仮定の話は別の機会にしてください」


 今は議論をしてる場合じゃない。暴走したとされるオルトロスを、どう対処するかが先だ。

 発起人であるアテナから、当然ながら異論は出ない。得物を持ったまま腰を降ろし、こちらに手招きをしてくる。


 物騒な絵図ではあるが、彼女を疑うわけでもなし。足取りが覚束ないシビュラに合わせて、マイペースで女神の前に向かっていく。


「では改めて本題に入ろう。……昼頃、ピュリッサから連絡があった。町の中に突然、巨大な双方の魔獣が出現したとな。私達は直に赴いて正体を突き止め、君に念話を飛ばした次第だ」


「他のギルドに協力は?」


「おいおい、こんな美味しい仕事を外野にみすみす渡せるか? オンファロス神殿、及び生徒会ギルドの知名度上昇のため、きちんと利用するぞ」


「……まさか、討伐を?」


 昨日の一件があるだけに、もし当たりだったら引き受けられない。

 しかし問われたアテナは頷きも、首を横に振るわけでもなかった。

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