6
「でもユキテル様、もともと堂々としてますよね」
「そう?」
「はい。比較対象が悪いですけど、父とは大違いです。あの人は何というか、ネズミみたいに周囲に怯えているというか」
「とことん上役に向いてない人だなあ……」
でもそれを成してしまうのが、血筋の力というものか。
……なんだか、シビュラの存在が奇跡に思えてくる。小さい頃から神殿で生活していたことが、本当に上手く働いてくれた。
「余計なお世話だったかしらね、君には」
「いやいや、有り難いお世話だったよ。自覚するんじゃやっぱり違うからさ」
「――そ。まあアタシ達に迷惑をかけない程度に自信を持ってね? 極端なのは何にせよ危ないから」
「肝に銘じておきます」
ヘルミオネは頷くと、ペースを上げて弁当を掻き込む。父親譲りとしか思えない豪快な食べ方に、俺達どころか観衆までもが仰天していた。
遅れたペースを取り戻そうと、彼女は全力でスプーンを動かしていく。
「じゃ、放課後は新入生への勧誘でもしましょうか。ピュリッサに向かう準備が整うまで、時間はあるでしょうし」
「ど、どんな風にやるの? やっぱり地道に声掛け?」
「それは勿論だけど、やっぱり配るものは配らないとね。少しでも多く情報を与えないと」
「つまり、金を配って買収を?」
「配るもん間違ってんでしょ! アタシが言ってるのは宣伝用のチラシよ! 確か生徒会室に昔の余りがあるから、ちょっと複製してくるわ」
「へ? 複製って――」
手際よく弁当を片付けて、ヘルミオネは校舎へと戻っていく。
見送る俺もシビュラも、後を追いかけようとはしなかった。協力したい気持ちはあるけど、やっぱり飯が終わってないわけで。
「……複製って、どういうこと?」
「ネクタル石を使用して、元あった物質を複製するんですよ。かなり高い石を使いますから、あんまり乱用は出来ないんですけどね」
「そっか、いろいろ用途があるんだっけ」
「はい。ネクタル石の表面に文字――呪文を刻んで、中のエーテルに干渉するんです。そうすると火を起こせたり、便利なんですよ。まあ文字を入れるのは職人じゃないと駄目ですけどね」
「複製のネクタル石は、それが難しいと?」
「ですね。神殿の方には、いくつか備蓄がありますけど」
使う機会が無いんです。
そう答えながら、シビュラは新しいサンドイッチを手に取った。




