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「……分かりました。とりあえず、名前だけでも出します」
「おお、助かるぜ。良かったなヘルミオネ」
「あ、あれ? アタシ、良いとこだけ持ってかれてる……?」
結果のみを注視していたわけではないようで、ヘルミオネはガックリと肩を落とす。
傍観に徹しているシビュラは嬉しそうだ。恐らく彼女の場合、こちらが生徒会――ギルドに所属すれば何でもいいんだろう。活躍できますねー、なんて他人事のように言っているし。
「ところで他のメンバーは?」
「ああ、ヘルミオネ一人だよ。生徒会ギルドって、他のギルドに比べると待遇が悪いからな。ここ数年、希望者はゼロが通例だぜ」
「――じゃあシビュラも加えてください」
「私っ!?」
せっかくだ、巻き込んでやろう。
一転して狼狽する彼女だが、それも数秒しか持たなかった。手を鳴らして、重大なことに気付いたと言わんばかり。
「これはつまり、ユキテル様の活躍を間近で見る絶好の機会……! その提案、私の方からもお願いします」
「……ねえユキテル君、アンタまた墓穴掘った?」
「か、かもね」
まあこれでヘルミオネも仕事をやりやすくなるだろう。すべての業務を一人でこなすなんて、いくらなんでも負担が重すぎる。
もちろん俺も協力せねばなるまい。……余計、会長の椅子を避けるのは難しくなった。
人助けだと思って前向きに行こう。博愛なんて大層な理念を掲げる気はないけど、顔見知りの人物が苦労しているのを見過ごすのは辛いし。
「んじゃあこれで、正式に生徒会発足だな。詳しい仕事の内容は、あとでヘルミオネから聞いてくれ」
「はい」
予鈴が響く。廊下の向こうから微かに聞こえていた喧騒が、一気に教室へと閉じ込められる。
「――これから宜しくね、会長さん」
「まだ名前だけだけどね」
いつも通りの調子で返答しつつ、堅い握手を交わす。
かやの外にいるシビュラは、羨ましそうに眺めていた。
―――――――――
昼食は昨日と同じ中庭で。が、人数は一人追加されている。
お陰で観衆の数も増えていた。シビュラとヘルミオネが、学園でも有名な美人だからだろう。生徒達は早々と、色恋沙汰に関する噂を始めている。
「ふふ……」
「――」
シビュラは注目を浴びることに馴れっこのようだが、ヘルミオネはそうもいかない。強い視線を感じては、その都度睨み返している。なので食事の方はちっとも進んじゃいなかったり。
「まったく、うるさい連中ね。アタシ達が何しようが関係ないじゃない」
「単に好奇心を刺激されてるんですよ。あるいは、ユキテル様が羨ましいとか」
「は? なんでよ」
「いやだって、美少女二人に挟まれてるんですよ? これ、男性としては最高の環境じゃないですか。しかも揃って手料理持参なんて」
「……それもそう、なのかしら?」
シビュラはもちろんだが、ヘルミオネも今日は弁当だった。
どうも自分で作ったらしい。アリストテレス学園の寮は設備が整っているそうで、定期的に料理の腕を磨いているんだとか。
鉄の容器で出来た無骨な弁当箱。そこには肉料理の他にサラダ、お米まで入っていた。
「……」
「? どうしたのよ、ユキテル君」
「いや、お米……」
「食べたいの?」
本心に近い部分を突かれ、つい慌ててかぶりを振る。




