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「ユキテル様は、やはりお父様と?」
「まあ仲良く出来そうにはないね。もう今の段階で敵意を抱かれてるんじゃないかな」
「……だとしても、私はユキテル様の味方です。たった今、決めましたから」
肩に頭を乗せている状態から一転、シビュラはこちらの手を取った。
「これから一緒に頑張りましょうね! 私の幸せも、神殿の行く末も、全部ユキテル様にかかってるんですから!」
「シビュラも手伝うんだよ?」
「もちろんですっ!」
本心からの回答は、彼女に日常的な雰囲気を取り戻させている。
一通り堪能した後で、シビュラは惜しむように手を離す。ただ甘えるのだけは止めないようで、またこちらの傍に擦り寄ってきた。
そんな時。
風呂場のドアが、陽気な声と共にぶち開けられた。
「ああ、素敵だわ! 二人とも恋愛をしているのね! アプロディテお姉さんも、まーぜーてっ!」
「くたばれクソ女神があああぁぁぁあああ!!」
申し合わせたように、壁を粉砕して現れる処女神・アテナ。
見苦しい罵倒合戦を行うまでもなく、二柱の女神は空の彼方へ吹っ飛んで行った。アテナがフルスイングでアプロディテを打ち上げ、それを追い掛けるという形で。
甘ったるい空気感だった俺達は、突然の出来事に口を開けるだけだ。ていうかアプロディテ様、バスタオル一枚だったような。夜空の下で寒くないのか?
「……エネルギッシュですね、ウチの神様は」
「正直、加減は覚えて欲しいけど」
「ですねえ」
広い浴場の中に、二人きり。
時間を忘れてしまいそうな静寂が、ここにあるすべてだった。
―――――――――
翌朝。
シビュラは宣言した通り、一緒の布団に潜り込んでいる。手を繋ぎながら寝ましょう! と提案してきたが、添い寝の時点で眠れなさそうなので却下した。頷きたいのは山々だったけど。
しかし身体の方は疲れていたんだろう。ふとした瞬間に意識は途切れていて、無事に朝を迎えていた。……うん、何もせずに迎えた筈。
「んう、神子様……」
「――」
こっちは目を覚ましたけれど、彼女は幸せそうな夢の世界。
起こすのも忍びないので、なるべく刺激を与えずに布団から抜け出す。部屋の外では既に大勢の預言官が働いているらしく、忙しそうに声を飛ばしあっている。
何か手伝えることはないだろうか――シビュラが寝ているのを再確認して、急ぎ制服に着替えていく。上着はまだ羽織らなくていいだろう。
「ああっ、神子様! おはようございます!」
部屋から出た途端、目の前を通過しようとした預言官がお辞儀をした。
しかし焦っているのは変わりなく、何故か俺の部屋を覗き込もうとしている。
「あの、シビュラ様はまだ?」
「あ、はい、寝てますよ。起こした方がいいですか?」
「お願いします。朝の預言がそろそろ始まりますので……ああ、それが終わり次第、居間の方にいらしてください。アテナ様がお待ちです」
「分かりました。じゃあ――」
「ね、寝坊しましたぁっ!」
寝癖が爆発したまま、慌てて飛び出してくる美少女一名。
シビュラは俺の相手をしていた預言官に平身低頭した後、走って神殿のどこかへと去っていく。他の人達が正装を着ている中、ネグリジェで駆けていく姿がおかしかった。




