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「こいつを風呂に入れてやってくれ。準備はもう出来てるんだろう?」
「はい。しかし宜しいのですか? 先をお譲りしても――」
「構わんさ。私はあとでゆっくり浸かる」
頷いて、再び女性預言官は去っていく。
俺の方は内心、驚きと喜びがあった。まさかこの世界にも風呂があったなんて。古代ローマの時代には共同浴場があったし、それと似たような場所なんだろうか?
多分、一人で入ることになるんだろう。今日は大半で誰かと一緒にいたから、懐かしい気分にもなってくる。
が、
「じゃユキテル様、ご一緒しますね」
「え」
アテナばりの自然体で。
入浴の準備を終えたらしいシビュラが、部屋に前に立っていた。
―――――――――
風呂場は神殿の一画、神子や神が専用で使うものとして作られたらしい。
中は自分が知っている共同浴場と大差なかった。巨大な風呂桶があって、その手前に身体を洗う場所がある。石鹸らしき物も置かれていた。
「お背中流しますから、ユキテル様はそっち向いてください」
「ちゃ、ちゃんと洗ってよ? おかしなことするのは無し」
「ほう、ボディタオルをご所望ですか? 仕方ありませんね、ユキテル様のために一肌――」
「ええぇぇええ!?」
だがさすがに冗談らしく、普通にタオルの感触が来る。
とはいえ緊張感が薄れるわけではない。お互い、今は身体にバスタオルを巻いただけの状態だ。少しでも後ろを向けば、肌の大部分を露出させているシビュラがいる。
目のやり場に困るとはこのことか。アプロディテにも劣らない、女性らしい肉付きが目に入る。
……ずっと正面を向けば意識せずに済むんだろうけど、思春期の本能は拒否していた。手が届く範囲にこんな美人がいるんだから、有り難く鑑賞しろと叫んでいる。
「――」
シビュラの身体はもう、芸術作品にすら見えてきた。身体の線も布一枚では隠せていない。何かの拍子で触れることがあるとすれば、倫理観を簡単に消し飛ばす魔性の肉体だ。
「し、シビュラ、もういいって。あとは自分で洗うから」
「そうですか? ……でもせっかくですし、洗いっこしません? もちろん、ユキテル様が良ければ、ですけど」
「あ、洗いっこ!?」
「はい。だってユキテル様、言ってたじゃないですか。対等なんだったら、普通に接して欲しいって。私が背中を洗ったんですから、神子様もしてくれるのが礼儀ですよね?」
「――」
数時間前の自分を殴ってやりたい。墓穴を掘った挙句、上から土まで被せちゃったよ。
断ればいいんだろうが、シビュラの提案は理に適っている――気がする。いやどうなんだ? 女性の肌へ気軽に手を出していいとは思えないし。




