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夕食には、色とりどりの食材が持ち込まれた。調理を担当したシビュラいわく、ご馳走だとのこと。
ギリシャ神話モチーフになっている異世界なだけ、内容は地中海料料理に近い。肉類が少なめなのが残念だけど、健康を意識する上では最適だった。
もちろん、故郷ではお目にかかる機会が少ないジャンル。基本的には写真でしか見たことがなかったものだ。
「はあ、食べた食べた」
食器が片付けられていくのを見送りながら、椅子によりかかって腹を擦る。
食事に同席したのはアテナ一人。シビュラぐらいは一緒なのかと思っていたけど、預言官たちは別口で済ませるのが通例だという。……それでも、かなり世話はしてくれたけど。
ああ、思い出すだけで恥ずかしい。いくらなんでもアテナの前でやることはなかったろうに。
「口に合ったようで何よりだ。――にしても、シビュラに食べさせてもらうとはな。見てるこっちは砂糖吐きそうになったぞ」
「食後なんですから言葉選びましょうよ!」
「神はそんな、細々としたことは気にせんのだ。ところで学園の方はどうだった? 自分の存在をきちんとアピールできたか?」
「どうでしょう、学園の方ではあんまり……放課後に向かった、大迷宮の方が動きがありましたかね」
「聞いたぞ。リュステウスのヤツを言い負かしたとか」
「そんな大したことしてませんって。……えっと、リュステウスさんって、シビュラの?」
「ああ、父親だよ」
アテナは嘆息を零しながら、退屈そうに頬杖を突く。
「まあ許してやってくれ。根っ子からのクズなんだ」
「逆に許しちゃいけないような……?」
「おいおい、アイツには厚生なんて期待できないんだぞ。根本的にそういう性質なんだから、批難のしようがないじゃないか」
「だから許せと?」
「そうだ、向こうにとっては自然体だからな。許すも裁くもなく、単に相容れない存在なんだよ。なんで、目障りだったら消してくれて構わん。君さえいれば、ヤツがどんな非業の死を遂げようと問題にはならない」
「さすがですね……」
言われて、アテナは首を傾げている。リュステウスの扱いについて、当然のことだと疑いもしない。
お陰で、どうしてそんな男が子を儲けたのか分からなくなる。シビュラの母親についても、詳しい話は出ていないし。
「リュステウスさんって、シビュラの母親とは恋愛結婚なんですか?」
「ああ、そう聞いてる。だがリュステウスのヤツ、分厚い仮面をつけてたみたいでなあ。シビュラの母――先代シビュラがよく言ってたよ。騙された、とな」
「うわあ……」
本来、子を得る資格がある人物では無かったんだろう。
騙された母親にも問題はあると思うが、シビュラのことを考えると容易に決められない。彼女は列記とした被害者なんだから。
「引導を渡す気があるなら、さっさと渡してくれ。あの男を生かしているのは、預言を告知する上で必要なパイプとしてだからな」
「影響力がある、ってことですか?」
「ああ。もともと奴は、英雄級として有名な神子の家系でね。加護もきちんと持ってるんだが、まあ増長に増長を重ねてな。本来家督を継ぐ筈だった兄を追放したり、やりたい放題だったのさ」
「……早急に対処すべきでは?」
「だろうな。まあこの件については君にゆだねるよ。向こうも今回の件で、君を敵視しているだろうから」
「人殺しなんて、したことないですよ」
「なら、人だと思わなければいい。簡単じゃないか」
「……」
澄ました顔で、彼女は残酷なことを言う。




