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『ふむ、少年は色男のようだな。誇れることだ』
「……ゼウス様の加護的に?」
『無論。あのお方も、大層な女好きであったと記憶している。それに負けないほどの女を虜にしたのなら、君は神にも並ぶということだ。それとも、抵抗感でもあるかね?』
「まあ多少は……」
一人の女性を徹底的に愛して、幸せな家庭を作る。
恋愛観について、俺が持っているのは至極一般的なものだ。ギリシャの神々は好色な者が多いが、彼らと肩を並べる気はほとんどない。
うん、ほとんどですけどね?
『雄は支配するものだぞ、少年』
「はい?」
『自らの意志を貫き、人を魅了することが出来るなら、それは君の栄光だ。女を手に入れることがあれば、存分に愛で、子を身籠らせるがいい』
「ええ……」
『何を拒む? これは男女における天分の話だ。――女における最大の才能は、子を産み、育てることではないかね? 男は女を孕ませ、子を導くことではないかね?』
「雑すぎませんかね、その意見。ヘルミオネもさ、そう――」
思うでしょ? と訪ねたかったが、時既に遅し。ケルベロスの言葉で彼女は凍りついている。随分と赤い氷だ。
中々に初心なようだ。シビュラだったら余裕で喰い付きそうな気がするが。
『くく、少し野性的すぎたか?』
「少しどころじゃなくてかなり。まあ天分については、同意できるところもありますけど……」
『なら問題あるまい。一人であろうと複数であろうと、君のやるべきことは同じだ。前者と後者の境目は……そうだな、少年の社会的な地位によるだろう』
「――」
アテナの言を思い出す。完全に駄目じゃないか。
爆音と勘違いしそうな大声で、ケルベロスは笑っている。とはいえ弟・オルトロスのことも忘れておらず、三つの頭で役割を分担させていた。
「……ところでケルベロスさん、ハーデス様はどうなってるんですか?」
『ぬ? 我が主が、かね?』
「はい。どうも、長く会っていないように聞こえたもので」
冥府の王・ハーデス。
ゼウスの兄であり、死者達を管理する地下の神だ。神話での登場回数は少ないが、ゲームや漫画だと敵キャラに抜擢されることも多い。少なくとも善人のイメージは持たれていないだろう。
ところがどっこい、ハーデスは人格者として知られている。彼が娘を誘拐したと聞いたある女神は、あのハーデスがそんなことをするわけがない、と頑なに否定したらしい。
きっと愛犬ケルベロスとの仲も良いんだろう。長々と放置するなんて考え難いが……。
『うむ、我にも分からぬ』
「は?」




