1
「で? 探さなきゃなんないのはどういう人?」
下層はしらみつぶしに探したとのこと。俺達は変わらず、大迷宮の最上階にいる。
ときおり魔獣の姿を確認するが、ケルベロスを見るなり慌てて逃げるのが通例だった。……彼が言った通り、人狼やゴーレムは逃げた先で敵と出会ったんだろう。
ちょっと申し訳ない。まあ倒してしまったものは倒してしまったんで、後悔もほどほどに。
「人じゃないだろ、犬だよ」
「頭が沢山ありそうな?」
「……ケルベロスの身内ってなれば、そうなるんじゃないかな?」
実際、彼の弟は二頭の頭を持つ犬だった筈だ。
真相を知っているケルベロスに目をやると、三つある首のうち一つが反応する。
『我が探しているのは弟のオルトロスでな。二つ頭を持っている。まだ幼い子供ゆえ、巣から出てしまうことが多くてな……』
「何日も見つかってないんですか?」
『かれこれ三日も家に戻っていない。我と同じく上位の魔獣だからな、のたれ死んだりはせぬだろうが……』
「心配になってくるわね。貴方みたいな巨体だったら、直ぐ見つかるでしょうし――」
『いや、弟は小さいぞ。お主たち人間が飼っている仔犬と変わらぬ』
頭が二つある仔犬……可愛いのか?
ヘルミオネも反応に困っている様子。エサ代膨らむのかなあ、と俺はどうでもいいことを考えていた。
「……でも、そうなると地上に出ちゃってる可能性もあるのね。あるいは誰かに連れ去られたとか」
「迷宮通りの露店で引き取られたかもしれない、ってこと?」
「ゼロではないでしょうね。珍しい取引が行われたら、こっちの耳にも入ってきそうな気はするけど」
今のところはねー、とヘルミオネは腕を組みながらぼやく。
反面、最悪の事態には達していないということ。この第一層さえ見張っていれば、それを防ぐことも出来る。
こうなると人海戦術は試したい。もちろん、ケルベロス本人の同意は必要だろうけど。
「あの、他の人にも協力してもらうのはどうですか?」
『ならぬ。我らは基本、人間や神子に対して好感を持っておらぬ。そなたについては我が主の兄弟、ゼウスの加護を持っている例外と考えてもらいたい』
「じゃあヘルミオネは、彼女がゼウスの孫だから同行を?」
『? お主の妻ではないのか?』
ボン、と音を立てそうな勢いでヘルミオネが赤面する。そうも印象的な反応をすると、本当のようにしか思えませんよ?
「だ、だだだだ誰がコイツの嫁なのよ!? 知り合って半日も経ってないんですけど!?」
『む、違うのか。これは失礼をした。行動を共にしているものだから、そうなのかと……』
「基準が緩すぎるでしょ……だ、だいだいユキテル君には、もっとお似合いの子がいますからっ。アタシのことなんて、その、別にどうでもいいわよね?」
「えっ」
そこで振ってくるのか。勝手に勘違いしそうになるんだが。
捨てられた仔犬か仔猫に近い、縋るような眼差しをヘルミオネは向けてくる。彼女とシビュラの関係を踏まえると、あの子を第一にしてね? との催促だと感じなくもない。
でも男ってのは美少女に迫られると弱いんです。欲張りになってしまうのです。




