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女神アプロディテの傍にいた俺も、被害からは逃れられない。大きく弧を描いて、十メートルぐらいは吹っ飛ばされた。痛みについてはこれっぽっちもないけど。
アテナの一撃は小さなクレーターを作り、二柱の女神もそこで睨み合っている。
「この駄女神がっ! 私の身内に手を出すんじゃない!」
「あらあら、頭の堅い女がやってきたわねえ。そんなんだから恋人の一人も出来ないのよ?」
「私はそういう女神だぞっ! 恋愛脳の貴様とは違うわ!」
「何を言ってるの? 私は愛と美の女神なんだから、当たり前のことでしょうに。あーあ、これだから野蛮なことしか考えていない女神は嫌なのよ」
「昔みたいにぶちのめされたいのか貴様ぁ!?」
「ふん、いいわよ、やれるもんならやってみなさいよ。貴方の身内になった彼は、きっと私のことを守ってくれるわ。――ね?」
無茶言わんでくさい。
内心で拒みつつ、俺は睨み合う女神たちを観察していた。ヘカトンケイルを使えば止められるのかもしれないけど、関わらないのが最善に違いない。
アテナとアプロディテの険悪な関係は、その正反対な属性からも明らかだ。
前者は女性の貞操を守り、後者は異性との繋がりを推奨する女神である。恋愛をしない女を見ると、アプロディテが苛立つエピソードまでギリシャ神話にはあるほど。
「貴様のような煩悩まみれの女神に、ユキテルが靡く筈なかろう。彼はゼウスの加護を持つ、勇敢な男だ」
「……」
ものすごく耳が痛いので、口は閉ざす。
その後も女神たちは言い争いを続けていった。キャットファイト、と呼んでいいのか分からないが、取っ組み合いにも発展していく。
止めようとする者も、近付く者も誰もいない。またかよ、と生温かい目を向けているパターンがほとんどだ。
「大丈夫だった? ユキテル君」
「ああ、ヘルミオネ。そっちの方こそ怪我してない?」
「直前で気付いたから大丈夫。――しっかし、また壊れちゃったわね。女神様のやることだから口は挟めないけど、いい加減にして欲しいわ」
「何度もったの? こういうこと」
「それはもちろん。運が悪いと週に一度は建物が壊されるわね。ここ半年は無かったんだけど……ま、作り直せばいいでしょ」
「根本的な問題を解決するべきじゃ……」
「無理よ無理。何百年も続いてるんだもの」
耐え続けてきたオンファロスの人達を称賛したい。
でも、合点のいったことが一つある。この辺り、壊された物以外には建物がほぼない。あったとしても大きく間隔を置いており、女神たちのトラブルを回避しようとする努力が窺える。
「アプロディテ様、大の男好きだからね……大迷宮に潜ってるような人は体格の良い人が多いから、しょっちゅう漁りに来るのよ。たまに女の子も連れてくけど」
「そうなんだ……」
「じゃあ別の受付に行きましょうか。加護の詳細はきちんと書き留めてあるから、心配はいらないわよ」
「確認してもいい?」
もちろん、と頷きを確認して、彼女が持っている紙を受け取る。




