1
馬車に乗って向かったのは、オンファロスの郊外にある施設だった。
辺りは武装し男女で埋め尽くされている。ヘルミオネから聞いた通り、大人から学生まで年齢層は様々。髪の毛が真っ白になっている老人までいる。
「まずは受付に行きましょ。ギルドに所属してないから下層には入れないけど、第一層なら問題ないから」
「鎧とか、着るの?」
「まさか。――大きな声じゃ言えないけど、ああいうのを使うのは無銘系だけよ。英雄級とか神級の場合、加護を発動させる上で妨害にすらなるから」
「意外だな……聖なる剣とか鎧とか、装備するんだと思ってたけど」
「そういうのは全部、神子が持ってる加護で出現させるものよ。装備ってのは、ちょっとおかしな表現になるわね」
「ふむふむ」
ヘルミオネは真剣な面持ちで話す人々を掻き分け、奥にある平屋へと入っていく。
中には外と同じような空間が広がっていた。暑苦しさに関してはこちらの方が上なぐらい。大勢の神子がカウンターに押し掛け、何やら紙を受け取っている。
特攻隊長ヘルミオネは怯むことなく前へ。俺も彼女に引かれながら、どこかを目指して歩いていく。
抜けた先にあったのは、両手でやっと収まりそうな水晶玉だった。
「これに触って。加護の詳細について、確認しておかなきゃいけないから」
「一応、さっき実践はしてるけど……」
「駄目よ、規則なんだから。悪い情報は出ないでしょうし、心配しなくて結構よ? どれぐらいぶっ飛んでる化け物か分かるんだもの」
「不名誉な気もするんですが……」
そんな文句を述べつつ、机の上に置かれている水晶へ手を乗せる。
途端、五指が当たっているところから波紋が広がり始めた。半透明な水晶の中を伝っていき、徐々に文字を映し出していく。
……今さらだが、異世界の文字を読む上で不便はない。授業に使う教科書だってバッチリ読めた。ご存知の通り、内容は頭に入ってなかったけど。
これも加護とやらの力なんだろう。あるいはアテナの方で何か細工をしているのか。
「えっと」
「どれどれ?」
興味津々なヘルミオネは、横から俺を押し退ける。
後ろにいる人達もこっそりと一瞥を向けていた。こちらの詳細については、既に知れ渡っている後らしい。
警戒する目があり、ヘルミオネと同じ純粋な興味を向けてくる者もいる。集団が苦手な身としては、どっちだって似たようなもんだけど。
「うわ、さすがねえ。ほとんど測定不可能じゃない。最高ランクぶち抜いてるんですけど」
「具体的にはどんなのが――」
水晶の中を覗こうとした瞬間だった。
表面にヒビが入り、文字が読めなくなったのは。あれ? まずくないですかコレ?
「……壊れた?」
「加護の情報を処理しきれなくなったのね。ま、起こられたりはしないと思うわよ? 代替品をさがすのに協力を求められるかもしれないけど」
「つまり怒られると」
心の底から事故だと主張したい。
しかし集まっている人々からは、またかよ、という声が聞こえ始めている。どうやら水晶が壊れるのは、珍しい出来事でもないようだ。
「木っ端微塵になったわけじゃないし、計った情報は摘出できるでしょう。受付の人に渡してくるから、貴方はここで待ってて頂戴」
「分かった」
我ながら動物みたく頷いて、人の壁に消えていく彼女を見送る。




