9
「……もしかして貴方も、ゼウス様の子供だったり?」
「――」
しまった、どう答えればいいんだ? アテナからは何も言われてないけど。
東の果てから来た、なんて設定がいつの間にか決まっていた以上、独断で回答するのは宜しくない。別の設定が既に広まっている可能性もある。
『私の弟になりたければ子供だと言え』
などと、天啓が訪れました。
「か、確証は取れてないけど、ゼウス様の子供らしいよ」
「ふうん、そうなの」
「そうなんですか!?」
しまった、こっちとの打ち合わせが必要だったか。
目を丸くするシビュラに、ヘルミオネは疑念を向けている模様。なんだか面倒な展開になりそうだが、これは全部アテナ様の所為なんです。
なんて思っている間に、これまでと同じ鐘の音が響く。
「詳しい話は、また放課後に聞かせてもらいましょうか。……ユキテル君、授業が終わったら付き合ってね」
「抜け駆けは駄目ですよ! 私も一緒に行きますから!」
「あ、アンタは駄目よ! これは……そう、ゼウスの血を引く者同士、交流を深めようってだけなんだから」
「ユキテル様に興味があるなら、率直に言ってくれればいいのに……」
「違うっつってんでしょ!」
仲睦まじい姉妹のように、二人はあーだこーだと言い争いを始めた。
しかしさすが生徒会役員。適当なところで切り上げて、足早に校舎へと戻っていく。中庭に設置されている時計が、昼休みの大半を使い果たしているのも理由だろう。
それに気付いたシビュラは、残りのサンドイッチを俺に喰わせようと全力だ。
「いい、ユキテル君!? 節度を持って接するのよ! あと、放課後に昇降口でね!」
「わ、分かった!」
シビュラの猛攻を捌きつつ、小さくなっていくヘルミオネの背中を見送る。
一体、どんな用事なんだろう……?
―――――――――
残り二時間ということもあり、授業はいつの間にか終わっていた。――もしくは昼寝で消えた。だって昼食後って一番眠い時間じゃないか。
内容の方はさっぱり記憶できなかったので、神殿に帰ったらシビュラの特別授業を受けることが決まっている。初日だから、短めで済ませる予定ではあるらしい。
だがその前に、俺は俺で用事があるわけで。
「約束はきちんと守ってくれるみたいね」
まだ生徒が残っている昇降口。己の美貌に集まる視線を、鬱陶しそうに眺めている美少女がいる。
なんだか、取りつく島もなさそうだ。目付きが鋭いこともあり、本気で睨まれた生徒は二度と彼女に近寄れなくなるだろう。
「その約束、割と一方的だった気がするけど?」
「でもユキテル君はここに来た。最低限の興味は持ってたんでしょう?」
「……まあ」
シビュラは駄目、と断りを入れていたのも気になる。
もしかしたら罠なのかもしれないけど、不思議と疑う気にはならない。多分、ヘルミオネ自身が持っている空気感によるものだ。曲ったことを嫌う女性なのは、中庭の会話で推察できたし。
一方で、彼女に注目している生徒達からは困惑する声が聞こえていた。異性との行動自体が稀らしく、天変地異が起こるんじゃないか、と恐れる者までいる。大げさな。




