魔法オリンピックのエグいルール
「「「…………」」」
黙らせたら、全員黙った。多分、気が進まないからだ。
だが、彼らを無理にでも盤上に載せないと、自分を信じて世界を預けてくれた人たちに申し訳ない。
アメリアの世界を救う交渉が始まる……!
「お願い~。世界の危機なの。貴方たちだって、世界に大事なものとかあるでしょう? それを守るのを手伝って~」
アメリアは指を組んで上目遣いのポーズで泣き落としにかかった。まぁとにかく、魔リンピック出るにも人数そろえなければどうしようもない。
対して、三人の反応は微妙だった。悩む隙すら見せない即答っぷりである。
「俺は別に、UFOさえ見れれば、世界なんてどうでもいいし……」
「借金取りごといなくなるんなら、むしろ世界なんて無い方がええんやで……」
「私は、アメリアさんが居ればどうにかなります」
全員、頭がおかしかった。
特にシドニーの表情には、悟りきった賢者のような笑みすら浮かんでいた……。ヤバい方に達観している。おまわりさんこの人です。
三者三様のつれない態度をみて、アメリアは内心ローラのようにてへぺろ~した。
(あらら~、そうだったわ~。この子たち、国家に対する忠誠心や愛国心なんてものが欠片もなかったのよね。だから、自国の大陸を救うためにお互いの足を引っ張る心配がなくて、選手候補に選んだんだわ~。失敗失敗)
情動に訴える方向は無しだ。アメリアは、すぐさま決断した。
「ならそうね~、任務が終わったらお望みの物をあげるわ~」
全員の死んでいた目が見開かれる――!
「UFOは!」
「うふふ、おっけー☆」
「俺の借金、全額肩代わり!」
「だいじょうぶだいじょうぶ♪」
「あなたの血肉が欲しいです!」
「んーわかんないけどオッケー☆ハッピー♪」
契約成立!
「「「依頼お引き受けします!!!」」」
「ローラ☆――じゃなかった、アメリア☆うれしい~♪ウフフ~」
そしてハイタッチ!
「「「「いえ~い☆ まとめて全部やっちゃおうね うふふ~♪」」」」
アメリアだけじゃなくて、全員ローラになった。だれかとめて……!
何はともあれ、ただの勢いと私利私欲で世界を救う勇者達は立ち上がったのである。実に現金な奴らだった……。
沸き立つ興奮そのままに、大和はこの上なく輝いた目でアメリアを振り返った。
「で、どうやって奴らをボコるんです?」
「まぁ、魔リンピックって言うくらいやし、なんか競技するんとちゃうんか」
「シド、せいか~い☆ まずはこの箱の中見てね~」
そういって、アメリアが取り出したのは強固な鍵のついた優美な箱だった。
まるで王妃の 時代がかった宝石箱のような。しかし、大きさは宝石箱のレベルじゃない。両手で持たないと手に余る。
「なんでしょうか、中身は?」
興味津々のルーにアメリアはウィンクした。
「これは、アトランティス人から、競技に必要だって渡されたものよ~」
片手で箱の底を支えながら、アメリアは蓋を開けた。
中を覗き込む三人。
箱の中――ブルーベルベット敷き布の上に、金色のプレートが五つ並んでいた。
注目すべきは、それぞれの形である。
――南北アメリカ大陸、アフリカ大陸、オセアニア大陸。ユーラシアは真ん中で別れており、それぞれ、ヨーロッパ大陸、アジア大陸となっている。
――つまり、五大陸の金のプレートが、青いベルベット地を海洋に見立て、世界地図の位置に並べてあった。
「綺麗……。アメリアさん、これって……」
「うん。この五大陸のプレートとアトランティス大陸を、一人ずつ持って、アトランティス大陸の中央の山頂。そこに建つ神殿の台座にプレートを収める――というのが競技の内容よ~。あ、ただし、五つ納められた時点で、台座はしまっちゃうの~。あぶれた一つの大陸だけ海中に没するってわけ~」
あ、あと道中にも、水泳とか射撃とかするポイントもあるのが特徴よ~。アスレチックみたいで楽しそうね~。
アメリアがのほほんと付け加えたが、注目すべきはその前のセリフである。なに、その五大陸絶対潰すマンなルール……。
「ほんま、えげつないなァ……」
シドニーが呆れたように笑った。
大和も肩をすくめた。
「つまり、本当のバトルロワイヤルですね。どうせ、競技中にプレートを破壊すれば、その時点でその大陸は沈んじゃうんでしょ? むしろ神殿の頂上に上る道中が危険だ」
「ありがちだけどね~。その通りよ~」
ルーもうんざりしたように首を振った。
「ただでさえ五大陸同士で恨みも憎しみもあるから、五大陸同士で足の引っ張り合いしている内に、アトランティス大陸が漁夫の利……本当にずるいですね」
「そうね~、犯行声明でも『せいぜい足を引っ張りあえ』って言っていたけど、これは、五大陸同士の共倒れを想定した言葉だと思うわ~」
しかし、それはアメリアたち、五大陸側がチームを組むことで未然に防ぐことが出来た。
私利私欲の勝利である! 別に誇らしくはない……!
「そう、私達と、アトランティス。ただでさえ、四対一なんです。それにアメリアさんが指揮してくれるなら、鬼に金棒です。魔術大国だかなんだか、知りませんが、絶対に勝てます!」
アメリアへのあふれんばかりの信仰心を込めて、ルーは力強く断言した。気持ちが軽い……。こんなしあわせな気持ちでアメリアさんと一緒に戦えるなんて、初めて……。そう、もう何も怖くな――
「あ、四対一じゃないわ~。多分、いえ確実に『四対たくさん』になるわよ~。数だけなら、私達が不利ね~」
全員の動きが凍りついた。
「おま、ハートフルボッコなアニメのフラグなんて立てるから……!」
「何の話よ!」
大和がムンクの叫びのようにうわぁああと無音でドン引いた。何かトラウマがあるらしい。自覚のないルーが怒ったようにツッコミを入れる。無意識フラグ建設ウーマンほんとコワイ……。
「馬鹿共はほっといて――姐御、それどういうことなん?!」
シドニーがアメリアに食い気味に尋ねる。人数のアドバンテージが取れないどころか、下手すると囲んでフルボッコにされるおそれがあるらしい。それは困る!
「プレートは五大陸とアトランティス大陸以外にも存在するの~。大陸にカウントされない、準大陸や諸島なんかにもプレートがあるわ~。イギリスやアイルランド、ミクロネシア諸島、フィリピン、キューバにプエルトリコ他いっぱい! あ、そうだったわ、日本も入るわね~」
「まさか、そいつらも魔リンピックに参加できるっちゅうんじゃ……」
シドニーが引きつった声を漏らした。
「せいか~い☆ でも彼らは、別に参加しなくても沈みはしないわ~オリンピックの呪いは『五大陸のみ』にかかっているんだもの~」
ええ~。三人は、うめき声を上げた。なんでそんなめんどくさいことに!
「じゃあ、何のために参加するんですか!」
ルーが全員の心を代弁した。アメリアはのほほんと応える。
「この魔法オリンピックは、憎い国を大陸ごと沈めることが出来る機会なの~。プレートを破壊するだけなんだもの、他国が見逃すと思う~? きっと刺客に四方八方から狙われるに違いないわ~。そうね~キューバとアメリカ大陸なんか、多分血を見ることになるわね~」
うふふ~。とアメリアは仄暗い笑みを浮かべた。アメリカ出身のアメリアとしては、なんか余人には測れない苦々しい思いがあるらしい……。
その暗黒微笑をみて、大和は引き気味に頭を掻いた。
「エグイ事をするなぁ……これもアトランティスの策略ですか?」
「あ、これは人質になってるIOC会長が、『どの国も参加できるオリンピックじゃなきゃ、オリンピックじゃない!』って熱く語りすぎちゃったせいね~。アトランティス側は『お、おう……』感じって押しきられたわ~」
「自爆やないかい!」
とんだ誤算である。敵は身内にいた……。IOC会長ェ……。
「まぁメリットも有るのよ~。木を隠すなら森の中って言うでしょう~? それにならって五大陸以外の準大陸のプレートでアトランティス人を攪乱することだってできるわ~。向こうには誰がプレート持ちかなんてわからないんだし~」
「アトランティス人が普通の人間と変わらなかったら、俺達にも見分けることができなくなるんですが、それは……」
「あ、そうね困ったわね~」
フォローもなかった。メリットとは一体……。
ころころと笑うアメリアをよそに三人は頭を抱えた。
引き受けた以上、完遂する気ではあるが、前途は多難である。
これもうわかんねぇな……。