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行き倒れシドニー

 

 竜の背に、一日中しがみついてアフリカからニューヨークへ。

 そんなこんなで、ようやく大和たちは国連本部のオフィスの一室にたどり着いた。

 ……もう、深夜過ぎだ。弾丸ツアーってレベルじゃねぇぞ……。

 ぐったりとため息を吐く大和。

 身も心もズタボロボンボンだった。

 もう床で寝たいくらい疲れきっていたが、床には行き倒れ――もとい先客がいた。

 一瞬大和は驚いた顔をしたが、正体に思い至ったようで肩をすくめつつ、行き倒れの側にしゃがみこんだ。

 行き倒れの名はシドニー。男性。

 名前から、例のごとくオーストラリア出身だ。借金大王。チンピラ。

 おおかた、ここに倒れてるのも腹減りのせいだ。間違いない。

 ちなみに、シドニーの英語は、オーストラリアの訛りが酷くて、ほとんど関西弁の様相を呈している。

「シドニー、あんたも呼ばれたのか?」

「……チーズパイ」

 チーズパイ好きなの? 俺はUFOが好きだ。

 大和は疲れのせいで間の抜けたことを考えた。ついでに、なんか張り合いたくなった。

 シドニーをドスドスとつつきながら、ダラダラと古今東西ゲームに興じてみる。好きなものいうだけのバトルだ。

 ……人間疲れると、わけのわからないことをしたくなるんだ。ちくわセラピーとかな。

「また借金で食ってないのか。アダムスキー型UFO」

「ロブスターグラタン。ビーフシチュー」

「作戦にはアンタも参加するのか。フライングヒューマノイド」

「フィッシュアンドチップス。タコス」

「トリニダート円盤」

「シーフードパエリア。ドドリアさん。ザーボンさん」

 ……大和は、慄然(りつぜん)とした。

(うわ、わたしの語彙力低すぎ?!)

 両手で口を覆って、例の年収バナーみたいなポーズを取る大和。全然かわいくなかった。

 シドニーは、大和が一つのUFOの種類言う間に、二つの料理名を上げてくる! 量的に二倍だ。これは勝てない!

(でも最後のは違うと思うの。なにドドリアさんて? ドリアのこと? あれ、ザーボンさんってなに……?)

 小首を傾げる大和。微妙にド○ゴンボール世代じゃなかったらしい。

 その前に、ドドリアもザーボンも食い物じゃないけど、大和は知らなかったので場の流れ的に食いものにカウントされた。なんだそれ。

(ハッ……まさか、シドニーは腹減りすぎて錯乱してるのでは!?)

 カッと大和は目を見開いた。いいとこ突いてる。一つ違ったのは、錯乱しているのは二人だってことだった。しむら―うしろのしょうめんー、ええいまどろっこしい! ――つまりおまえだよ、大和。

 なんかもうよくわからなくなってきた大和は、自分を連れてきた人物に助けを求めた!

「……ルー、駄目だ。俺もUFOの名前で対抗してるけど、コイツを正気に返らせるのって無理かもしれない!」

 大和が振り返った先では、点滴スタンドを抱えた少女がソファに座っていた。

 輸血パックから流れこむ血に陶然とした表情を浮かべている。さっきの竜と同一存在と思えないほど華奢な女の子だ。

 ちなみに輸血パックの中身は、昨日闘ったモケーレ・ムベンベの血である。

 ぐだぐだの男二人の会話に、ルーはどうでもよさそうにため息をついた。

「何のコメディよそれ。いいからほっときなさい。食事ったって、ここには何も……あ、この血はあげないからね!」

「それを食事にできるのはお前ぐらいだと思う……ラミエルタイプ」

 まだ続いていたらしい。

「……ステーキサンドイッチ。……もう血でもええ、それよこせや」

 こいつとんでもないことを――!

 大和は慄然(りつぜん)とした。(二回目)

 火を通さないと竜の血は食えないってお母さん言ったでしょ!!(言ってない)

「気を確かに持て! 宇宙人だって生じゃ食わないぞ!」

「今の俺なら、宇宙人すら食えるで……」

「ファッ?!」 

 大和は驚いて顎が外れた。 

(俺が愛する宇宙人ですら、こいつにとっては捕食対象なのか……?!)

 ごくりと、喉を鳴らす大和。

 被害者を出してはならない。……このエイリアンイーター=サンをスレイしなければ!

 大和がジリジリとフォトンソードに手を伸ばしたとき、

 ――ガチャリと、入り口のドアが開いた。


 □ □ □


「ようこそ国連本部へ~。作戦に参加してくれて嬉しいわ~」

 青い髪。間延びした声。……アメリアだ。

 アメリカ出身の国連付き超常現象対策の専門家。

 二条流しの黒い弔旗を気を送って硬化させ、鎌の様に振るう様から、《死神》と呼ばれている。

 だが、今の彼女の手には旗ではなく、立派な青い箱が抱えられていた。

「無理やり連れてこられたんですが、それは……」

「それじゃあ、作戦を説明するわね~」

「俺の話を聞いて~」

 アメリアはうふふと笑いながら、テーブルに地図を広げた。

 ついでに、床に転がるシドニーの口にカロリーメイトをぶちこんで耳元でささやいた。

「起きないと、……うふふ?」

「あああああ、オハヨウゴザイマス! いやー姐御、今日もお綺麗ですなぁ!」

 恐怖のうふふ。慈悲はない。シドニーは跳ね起きて必死にゴマをするが、アメリアの笑顔で沈黙した。こわい。

「うふふ。元気になって何よりだけど~、これ聴いてもそう言えるかしら~」

「えっ?」

 心の準備がまだなのに、容赦なくアメリアは口にした。

「人質事件犯人のアトランティス人たちから要求よ~。アトランティス大陸と五大陸の魔法使いたちで魔法のオリンピック開催しようって~」

「「「は?!」」」

「それで、魔法オリンピック――略して魔リンピックに負けた大陸を、一つ沈めるって~」

 困ったわね~と、頬に手を当てて嘆息したアメリア。だが、目が本気だ。本気と書いてマジと読む。

 三人は顔を見合わせた。



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