目覚め
これは架空のお話です。
「・・・あっ、おかーさん?あたし。拓海に今すぐ来てって伝えて。携帯も持って来てって言っておいて。」
ツーツーツー。
真夜中4時のいきなりの電話だった。
通常、こんな時間の電話は非常識だ。
だけど私はまさかと電話に出たのだ。
一瞬にして身体に電流が走る。
この声を聞いたのは何ヶ月ぶりだろうか。
突然の事に声も出ず、電話は一方的だった。
―――――――――
お父さんと拓海君、千尋を車に乗せ病院へ急ぐ。
皆、まさかといった感じでむしろ私がおかしくなったという眼差しで、だが、真実であってほしい。そんな気持ちで付いて来ている。
車内は静まり返り、車のライトが全く通行のない道に光りを当てていた。
日中走れば30分かかる道のりも今は15分もあれば病院に着いてしまう。
それほど通行がないのだ。まるで娘が早く来いと手招きするかのように。
――――――――――
あの日もいつもとかわらない朝だった。
私の仕事に行く10分前に娘は千尋を連れ、仕事に出る。
「いってきまーす!」
それが最後の言葉だった。
私が仕事に行こうと自宅をでると娘の車がエンジンをかけた状態で止まっていた。車の中で顔中涙でいっぱいの千尋が泣いている。
娘は、後部座席側でうつぶせに倒れていた。
チャイルドシートに千尋を乗せ、ドアを閉めた所で倒れたのだろう。
病院で医師に脳出血と診断された。
次いで延命について説明がなされ
『呼吸器』
というものを装着し、かろうじて生きている状態になった。
そんな状態で数カ月がすぎ、みんな疲れてきっていた。
私は仕事をやめ、千尋を保育園に送りながら娘に毎日会いに行った。
お父さんは仕事帰りに娘に会いに来てはなにも言わず帰って行く。
拓海君は仕事に行く前娘に会い、帰り道千尋を迎えたあとまた娘に会いに行っている。
私達の生活はガラリと変化した。
――――――――
病院に付くと一目散に毎日乗っているエレベーターに乗り込み、病室へと急ぐ。
「お母さん、ただいま。」
私は大声を出して泣いた。びっくりして看護師がやってきた。
娘も看護師をしている。
気がついたらこっそりカフを抜いて、抜管。
機械もこっそりオフ。
そして看護師がいなくなったナースステーションで電話をしたらしい。
とんでもない娘だが
生きていてくれてありがとう。