雪女
子供の頃、俺は両親と旅行でスキーをしに山に行って来た。
その旅行の最中に俺は両親と逸れてしまい、雪山を遭難してしまった。
「お父さん・・・お母さん・・・」
あの頃の俺は泣き虫でよく虐められてたっけ・・・。今は違うけどな。
俺は雪が降る山道を歩いていると小さな洞窟があったからそこに入ったんだ。
外は最初は雪もそんなに降っていなかったが、後からひどくなり吹雪になった。
その時はもうダメだと思ったな。
そんな中誰かが来たんだよな。あの吹雪の中。
俺は両親が来てくれた思いその人影に飛びついた。
「・・・・・・子供?」
「・・・え?」
その人影は両親じゃなかった。
髪は長くて色白で服は白い着物だった。
「お姉さん誰なの?」
「・・・・・・」
俺が聞いても何も言わなかったな。
でも、俺は自分以外にも迷子になった人がいるんだと思ってなぜか安心したんだよな。馬鹿だな俺は。
でだ。俺はその女を洞窟まで引っ張って雑談したんだよな。内容は・・・確か。
「お姉さんどこから来たの?何歳?家族はいるの?どうして着物きてるの?」
「・・・・・・」
「寒くないの?」
「・・・・・・」
「しんどいの?」
「・・・・・・」
一向に話さない女に俺は自分の事を話したのを覚えている。
「じゃあね。僕の事から話すね」
そう言うと俺は自分の家族・友達・ここに来た理由などたくさん話した。
「・・・・・・」
女は相変わらず話さないし、表情一つ変えなかったが、俺は誰かが傍にいるという安心感で嬉しかった。
外を見るとまだ雪はたくさん降っていた。
「早く止まないかな~」
「・・・・・・雪、嫌いなの?」
初めて女が喋った。
でも子供の俺は驚きもしなかったな。
「ううん。嫌いじゃないよ」
「なら・・・どうして?」
「服が濡れるから」
「・・・・・・」
我ながら馬鹿だと思う。こんな応え方をしたのは、でもその当時の俺はそんな子供だった。意味がわからんな。
俺がそう言うと女はキョトンとしていたな。そして
「・・・・・・・・・フフ」
微かだが笑ったのを覚えてる。
「おかしいかな?」
「いえ。ごめんなさい。急にそんなこと言うから思わず笑ってしまったわ・・・どうしたの?」
「お姉さんの笑った顔可愛いね」
俺は思ったことを率直に言う性格だった。今もそれはかわらない。
そう言うと女は顔を少し赤くしたのを覚えてる。
「寒いの?」
「・・・そうね。少し寒いかな・・・」
「じゃあこれ貸してあげる」
俺は自分が来ていたジャンパーを女に着せた。
「これで少しは温かいよ」
「・・・ありがとう」
しばらく俺と女は外の雪を眺めていた。
「・・・僕は雪女って知ってる?」
突然話しかけてきた女は雪女を知ってるか聞いてきた。
「知ってるよ。この前本で読んだ事あるよ」
「そう。・・・その雪女が私だとしたら・・・怖い?」
女は俺の顔を見て言った。
「・・・ううん怖くないよ」
俺はそう応えたのを覚えてる。
「どうして?」
「だってお姉さん本で読んだ雪女と違って優しいから」
「優しい?」
「うん」
「どうして?」
「だって僕を氷漬けにしてないから」
「・・・・・・」
「雪女って見た人を氷漬けにするんでしょ?でも僕はされてない。だからお姉さんは優しい人だよ」
「・・・・・・」
「変な事言ったかな僕?」
「・・・・・・いいえ」
女はそう言うと俺の頭を撫でてくれた。
その手はひんやりと冷たかったのを覚えている。
でも、何か温かなものも感じた。
「・・・ねえ。僕」
「なに?」
「あなたのお父さんとお母さんが来るまでもう少しお話しない?」
「いいよ」
俺は色々な話をした。
女はその話を楽しそうに聞いていたのを覚えてる。
最初に会った氷みたいに冷たい表情は消えていた。
暫く話していると雪はいつの間にか止んでいた。
「あ!雪が止んでる!」
「・・・そうね」
「お父さんお母さん見つけてくれるかな?」
俺が心配そうな顔していると女は
「大丈夫よ。僕がここにいることを教えたからもうすぐ来るわ」
「本当!ありがとうお姉さん!」
俺は女に抱きついた。
女は驚いていたが俺を優しく抱きしめてくれた。
少しして遠くから声が聞こえ始めた。
「あ!お父さんとお母さんだ!」
「よかったね」
「うん!ありがとうお姉さん!」
お礼を言うと俺は洞窟から出ようとした時
「僕。一つだけお願い聞いてくれるかな?」
女が俺を呼び止めた。
「何?」
「私に会ったことは内緒にしててほしいの」
「どうして?」
「約束して。そしたらまたいつか会えるから」
「また会えるの?」
「ええ」
「本当に?」
「ええ。・・・ならこれを持っててくれるかな?今度会った時に返してくれればいいから、その時まで持っておいて」
女は手のひらから透明で透き通った指輪を渡してくれた。
「うわぁ~すごく綺麗」
「それを持っていて。いつか取りに行くから」
「うん!わかった」
俺はそう言うと洞窟を出て行った。
何でこんな回想をしたかはこれから起きた俺の日常でわかる。
「さみ~!!」
俺は身を縮込ませながら歩道を歩いていた。
俺は今年の春に大学に入学して一人暮らしをしている。
ここの冬は俺がいた実家とは違い寒くて雪がよく降る。そして、積もる!
一面が真っ白い景色の中俺はバイトから家へ帰っている。
そんなある日
俺はいつものようにバイトから家に帰っていると
「ん?」
真っ白い景色の中で何かが盛り上がっていた。
「何だこれ?」
俺はその盛り上がっているところに近づいた。
近づいてみると何かの形に見えた。
「何かこれ人の形に似てるな・・・」
その盛り上がっている雪は、人がしゃがんだ姿に似ていた。
「うまく作ったもんだな」
俺は一人で感心していた。
・・・・・・ぎゅるる~・・・・・・
「え?」
何か音が聞こえた。
俺は辺りを見回したが人はいなかった。
・・・・・・ぎゅるるる~・・・・・・
また聞こえた。
俺はどこからその音が鳴っているか耳を澄ませた。
・・・・・・ぎゅるるるる~・・・・・・
「・・・この雪からか?」
俺はこの盛り上がっている雪を搔き分けてみた。すると
「さ・・・さむ・・・い」
「うお!?」
中から女が出てきた。いや、女が入っていた。
「あんた何やってんだよ!」
俺は蹲っている女に話しかけた。
「・・・・・・」
「おい!きいてんのか?」
「・・・・・・た」
「え?何て?」
俺は耳を女の口元まで近づけた。
「おなかすいた」
そう言うと女はパタリと倒れてしまった。
「おい目を覚ませ!寝たらダメだ!」
俺は叫んだが女は気を失ってしまいピクリとも動かない。
「・・・どうしようかな」
俺は悩んだ末、女を置いて帰る選択をした。
「誰かが助けてくれるだろう」
スタスタとその場を去っていった。
「・・・・・・ああ!仕方ない!!」
やっぱり去らずに女をおんぶして家に帰った。
家に着くと背中に負ぶっている女をソファに寝かした。
「うう・・・おなかすいたぁ~」
女は意識を失っていても空腹を訴えてきた。
「・・・こいつ気を失ってるのに・・・」
俺はため息をしつつも台所へ向かった。
――――トントントン――――
「・・・・ん」
小刻みなリズムによって目が覚めた。
――――ジュー――――
「・・・いいにおい・・・」
「目覚めたか?」
起き上がると男が台所から顔を出してきた。
「もう少しまっとけ、すぐ出来るから」
「ここは?」
「俺の家」
男は台所に戻った。
しばらくすると男は食べ物を持って戻ってきた。
「簡単な物しか作れなかったけどないよりマシだろ?」
そう言うと男は皿に入った食べ物をくれた。
女は食い物に集中した。
「・・・すごい食べっぷりだな」
俺は呆れた顔で言った。
「だって・・・モグモグ・・・ここさい・・・・ガツガツ・・・きん何も・・・・ムグムグ・・・食べてなかったんだもん・・・・ムシャムシャ」
「食べ終わってから喋れ!米が俺に飛んだだろ!」
「ムグムグ・・・ごへん」
「・・・ごちそうさん」
女は食い終わると手を重ねて合唱した。
「いや~助かったよ。ありがとね」
「それはどうも。で、あんた何してたのあんな所で?」
俺は雪の中で蹲っていたときの話を持ちかけた。
「ん~。仕事だよ」
「仕事?」
「そうそう」
「何の仕事だよ?」
「外見たらわかるよ」
俺はカーテンを開けて外を見た。
外はあいかわらず雪が降っており、一面が真っ白だった。
「雪以外何もないぞ?」
「それだよ」
「ハァ?」
「雪を降らすのが私の仕事なんだよ」
「ごめん。意味がわからん」
女はヤレヤレとため息を
「だからこの雪は私が降らしてるの」
と言った。
俺は困惑しながら
「お前って人・・・間だよな?」
「違うよ」
女は否定した。
「私は人間じゃない。妖怪だよ。雪女」
「・・・・・・え?」
間の抜けた言葉が出てしまった。
妖怪やお化けなんてこの世にいるはずがないと思っていた俺は、今。現実で。この世に自分は妖怪の雪女ですって言っている奴が今目の前にいるからだ。
「冗談だよな?」
「冗談じゃないよ。・・・何?疑ってるの?」
「当たり前だろ!この世にそんな生き物はいねぇよ!」
「それもそうか」
女は手をポンっと叩いた。
「じゃあさ、どうやったら信じる?」
「何をだよ」
「私が雪女って事」
この女はまだそんなこと言ってやがる。・・・いいさ。こそまで言うんだったら無理なこと言って何者なのか聞いてやる。
「この部屋に雪降らしてみろよ」
俺はそう言った。
「え?」
「だからこの部屋を雪でいっぱいにしてみろって言ったんだよ。雪女ならそれぐらい出来るだろ?」
「・・・・・・」
「何だよ?出来ないのか?」
「・・・後悔しない?」
「しねぇよ」
「・・・」
「さっさとやれよ。それともなにか?雪女にはこのくらいの事も出来ないのか?」
俺が言った言葉がどうやら女の勘に触り女は
「そこまで言うんだったらやってやろうじゃない!人が・・・違った。妖怪がせっかく親切に下手に出てたらいい気になりやがって!」
女は立ち上がると片手の腕を上げた。
「この部屋を氷の部屋にしてやるよ!!」
女の手のひらから雪が降り出し、それはすぐに吹雪になった。
――――5分後――――
「・・・・・・」
俺は呆然とした。
さっきまで温かな部屋は一変として氷の部屋に変わってしまったからだ。
俺は悠然と自慢げに立っている女を見上げた。
「どうよ」
自慢げに鼻をフンとすると白い空気が漏れた。
「これで私が雪女って事がわかったでしょ?」
「・・・ああ」
俺は認めた。完敗だ。
「お前が雪女って事はわかった。さっきは悪かったな。いいすぎた」
「いいってことよ。それより私はお前じゃなくて雪って名前があるんだからそれで呼んでくれない?」
「わりぃ。今度から雪って呼ぶ」
「よろしい。であんたの名前は?」
「俺の名前は岸辺 涼。涼って呼んでくれ」
「じゃあ涼。お願いがあるんだけど」
「何だ?」
「冬が終わるまでここに住まわせて下さい!」
雪は土下座をして俺に言ってきた
「はあ!?何でだよ」
「迷惑なのは重々承知してます!でも私、住むところがないんです」
「そんなん知るか。雪女だろ寒いのには馴れてるんじゃないのか?」
「いや、私寒いの苦手なんで」
「何で雪女やってるんだよ!」
「そんな事言われても知るか!寒いもんは寒いんだもん!だからお願いします!」
「断る!」
「どうして!」
「厄介ごとは嫌いなんだ」
「迷惑かけないから」
「無理だ」
「どうしても?」
「どうしてもだ」
しばらく俺と雪の口論が続いたが、やがて雪は
「・・・わかった。出て行く」
観念したのか部屋から出て行くといった。
「頑張れよ」
俺はそう言うと氷になった部屋の片付けに入った。
どうやって片付けようか・・・。
「本当に出て行くからね」
雪はまだ玄関にいたらしく、俺に言ってきた。
「ああ。だから早く出てってくれ。俺は片付けに忙しいんだ」
「・・・・・・」
「まだ何かあるのか?」
「言いふらしてやるから」
「何を?」
「私を無理やり連れ去って、あんなことやこんな事をしようとしたってここの住民の人に言ってやるから!」
俺はそれを聞いて驚いた。
「なに根も葉もないこと言うつもりなんだよ!第一お前の言うことを信用する奴がいると思うのか?!」
そう言うと雪は自信ありげな笑みで
「あるよ」
と応えた。
「私自分で言うのもなんだけど美人だしスタイルもいいからねぇ~。今まで私を信用しなかった奴はいなかった」
そう言うと雪はコートを脱ぎ自分のスタイルの良さをアピールした。
俺は雪の顔を見た。
確かに美人だ。髪は短く目はキリっとして長くまつげも長い。鼻は綺麗な小鼻で整っている。色は色白でうっすらと彩るピンクの唇は小さく可愛らしい。
確かにこいつに言われたら信じない奴の方がいないなと思った。
「卑怯だぞ!雪!!」
「知るか!で、どうするの?」
「ぐぬぬ・・・」
俺は悩んだ挙句、雪を住まわすことにした。
雪の協力もあって氷の部屋は元に戻った。
「・・・ふぅ」
俺は一息つくためにお茶を沸かした。
「あ、私にもねぇ~」
雪はコタツの中に入って寛いでた。
「・・・今この状況を見て雪を雪女って信じる奴はいないな・・・」
「何か言った?」
「いや、何も言ってねぇよ」
俺は湯飲みを二つだしコタツのテーブルに置いた。
ズズズ
「「・・・ふぅ」」
寒い冬には熱いお茶が一番だな。
「・・・所で、質問いいか?」
「な~に~?」
俺の家なのに俺以上に寛ぐ雪に質問した。
「何で雪の中に埋もれてたんだ?」
「ああ~。それはね、ちょっと張り切りすぎちゃって力使いすぎたんだよね。それで空腹だったのもあって力の回復が追いつかなくなって埋もれてたんだ。ハッハッハ!」
笑いながら言った雪。
「お前馬鹿だな」
「はい」
しゅんとする雪。
「次の質問。何で雪降らすんだ?」
「それは仕事だからだよ」
「仕事?」
「そうそう。季節って春夏秋冬あるよね。それぞれの季節に風流があるのはわかるよね?その風流を伝える為に私のような妖怪が仕事してるのよ」
「ってことは雪以外の妖怪もいるっ事か?この世界には?」
「そういうこと」
「で、私はここら一帯の雪を降らすのが仕事なの。人間に冬を告げる為にあちこちで降らさないといけない訳」
「それが終わったら?」
「来年の冬まで別の所で冬を告げに行く」
「大変だな」
「大変よ。休みなんてあんまりないんだから」
「そうかそうか。まあ頑張ってくれ」
「何よその他人事のような言い方は」
「あぁそうだ。他人事だ。いや。妖怪事が正しいのか?まぁどうでもいいか。で?いつまでここにいるんだ?」
「ん~。私の担当はここだけだから、春が来るまでいるよぉ~」
「・・・まじかよ」
「マジです。ということでしばらく厄介になるねぇ~」
ニヤニヤしながら笑う雪だった。
「・・・にしても、雪女ってもっと冷酷で残忍で無口だと思ってた」
「どうしたの?急に」
「俺が知っている雪女はお伽話の世界だけだった」
「昔はそうだったみたいよ。今もそういうのいるし。・・・涼、あんた氷漬けにされたいの?やったげよっか?」
「されたくないわ!」
「でしょうね。私もしたくな~い」
「・・・話を戻すが、今もいるのかそんな雪女?」
「いるわよ。残忍ではないけどね」
「そうなのか?」
「そうよ。無口でいつも冷静な顔して表情一つ変えない奴もいるわよ。人形みたいにね」
「・・・・・・」
「私が言うと説得力ないでしょ?」
「ないな」
「ハハハ!よく言われるよ同僚に。お前は雪女なのに感情豊か過ぎるって」
「だな。まだ雪と会って少ししか経ってないがそう感じるぞ」
「でしょうね」
「何でなんだ?」
「何が?」
「雪が感情豊かなのはってことだよ」
「さぁね。よくわかんないね。気づいたらこうなってたからね」
「何か会ったのか?」
「秘密さ♪」
嬉しそうに言われたその言葉を聞き、更に追求しようとしたが、同時にこれ以上何を言っても教えてくれそうにないと思ったからやめた。
「それより涼。おなかすいた~。何か作って~」
「自分で作ろうと思わないのか?」
「私妖怪だよ?作れると思う?」
「・・・思わん」
「ならよろしく~。・・・涼のご飯おしいから気に入ったしね」
「・・・仕方ねぇな。ちょっと待ってろ」
俺は台所で食事の準備をした。
「ごちそうさん。やっぱ料理うまいね」
「バイト先で作ってるからな。ある程度は出来る」
「そうなんだ。・・・あ、私寝る時このベット使うね」
「おい。それは俺のベットだぞ」
「見たらわかる」
「なら遠慮しろ!」
「嫌だね」
「お前は・・・まぁいいや。勝手にしろ」
「ありがとね~」
雪はそう言うとベットに入りすぐに寝た。
「俺のベットは冬の間こいつに使われるのか・・・」
仕方なく俺はソファーをベット変わりにして寝た。
それからは冬の間、俺と雪の共同生活が始まった。
「じゃあ行って来るね~♪」
雪は朝早くに出て行き、夕方に帰って来る。
その間俺は大学の課題・レポートをしたりバイトに行ったりしていた。
夜は一緒に食事し、その日にあった出来事などの雑談をした。
そんな日が暫く続きいつしか冬が終わろうとしていた。
「大分温かくなってきたな」
「そうだね。今日くらいで終わりかな?」
「そうか。もう春になるんだな」
外は冷たい風がまだ吹くが、もう雪も降らないくらい温かくなっていた。
木々には蕾をつけた木がたくさんあり、春を告げていた。
「今日でお別れだね」
「そうだな」
「さみしいかい?」
「全然」
「・・・かわいくないなぁ~」
ムスっと頬を膨らます雪。
「可愛くなくていい」
俺はそう言い食事をテーブルに置いた。
俺と雪は食事に入った。
そしていつものように雪は仕事に行き、俺はバイトに行った。
その日の夜
「ねえ涼。お願いがあるんだけどいいかな?」
「何だよ?」
雪が改まって真剣な顔してこちらに顔を向けた。
「来年もここに住んでいいかな?」
「・・・・・・」
「嫌ならいいよ。無理維持はしない。でも、出来れば私はまた冬になってこっちに来た時、涼の所に住みたいと思っている。別に変な意味じゃない。ただ涼といると楽しいからね」
「・・・・・・」
「だめかな?」
「・・・因みに、俺が断ったらどうするんだ?」
「その時は野宿でもするさ。体は丈夫だからね。風邪は引かないさ・・・たぶん」
「好きにしろ」
「え?」
「好きにしろって言ったんだよ。風邪を引きたくないなら家に来ればいい。あと三年はこの町にいるからな」
「ありがとう!」
雪は俺に抱きついてきた。
その体は冷たかったが何か温かいものを感じた。
「(何かこれ昔にもあった気がするな)」
俺はそう思いながら雪をひっぺ剥がした。
「さっさと次の場所に言って来い。次の冬まで待っててやるから」
そう言うと、雪は満面の笑みで
「うん!それじゃあいってきま~す!!」
雪は元気良くドアを開けて出て行った。
次の季節の冬がやって来た。
「そろそろあいつが来る頃だな」
俺は冷たい風を感じながら呟いた。
「そういえば、今日は夜に雪が降るんだったか?」
朝の天気予報を見ていたので、俺は空を見上げた。
空は薄暗く厚い雲に覆われていた。
「・・・・・・」
空を見つめていた俺は
「・・・今日は鍋にするか」
呟き暖かくしてある部屋に戻った。
俺は鍋の材料を切り、鍋に入れ温めていた。
「・・・もうそろそろ出来るな」
鍋の蓋から湯気が出てきた。
蓋を開けると
湯気の中から美味しそうに出来上がった食材達が顔を出した。
「中々の出来栄えだな」
俺はそう言いベランダのカーテンを開けた。
「・・・降ってきたな」
外はチラホラと雪が降り始めていた。
「あいつもそろそろ来る頃か」
そう言った途端
――――ピンポーン――――
とチャイムが鳴った。
「・・・開いてるぞ」
俺がそう言うとドアが開いた。
「ただ~いま~♪」
元気な声で雪が帰ってきた。
「あ~寒い!」
雪は身を縮み込ませながら中に入った。
「あ!鍋だ~!」
テーブルの上に置いてあった鍋に気づいた。
「やっぱ冬は鍋だよね~」
そう言うとそそくさとコタツの中に入る。
「早く食べようよ」
「相変わらず食い意地が張ってるな」
俺はそう言いながらコタツに入り鍋の食材を雪によそってやった。
「ハフハフ。うるひゃいな~」
「食いながら喋るな」
「むう」
俺と雪は暫し食事に集中した。
食事が終わると
「それにしてもよく私が今日帰ってくるってわかったね」
コタツでミカンを食べながら雪が言った。
「ニュースで言ってたからな」
「あぁ~なるほどね」
「今回はいつまでいるんだ?」
「ん~っと・・・温かくなるまで?」
「曖昧だな」
「曖昧だよ」
たわいもない会話が続く。
「・・・ねえ涼」
「何だ?」
「涼は私が雪女ってこと知ってるでしょ?」
「ああ」
「その事は誰にも言ってないよね?」
「言っても誰信じねぇよ」
「言ってないよね」
急に真剣な目で見てきた雪に俺は少し動揺したが
「ああ。言ってないぞ」
「・・・よかった」
俺がそう言うと雪はにこやかに笑った。
「何でそんなこと聞いてきたんだ?突然」
俺が訳を聞いたら雪はこう言った。
「お伽話の雪女は知ってるよね」
「知ってるぞ」
「実はね。あれ今も続いてるの」
「続いてる?」
「うん。大人の人間に知られたら殺さないといけない、子供に見つかったら永遠に内緒にするのを約束してもらわないといけない。それが破られたら・・・」
「なるほどな」
俺は驚きもしなかった。
「驚かないの?」
「驚くかよ。でもなぜ俺は死んでないんだ?」
俺は去年の冬に雪を見つけ家に(脅されて)居候させた。その時雪女って事を知った。なのに死んでいない。
「それは・・・涼が命の恩人だからだよ」
「命の恩人?何かしたか俺?」
「私を助けたからだよ。だから涼は特別に約束を守ってもらうって事にしてるの」
「・・・もし破ったら?」
「涼を氷漬けにして殺さないといけない」
「それが命の恩人にする行為か?」
「ごめん。でもこっちの掟は守らないといけないから・・・ごめん」
しかられた子犬みたいにしゅんとする雪を見て
「・・・とんだハズレクジを引いたな・・・」
俺は雪の頭を軽くポンポンと叩いた。
「・・・怒らないの?」
「怒らねぇよ」
「どうして?」
「怒って変えれるか?」
無言で首を縦に振る雪。
「だろ?だから怒らねえ」
「それだけの理由で?」
「充分だ」
目が点となっていた雪だったが暫くして
「フフ。涼は人間にしておくには惜しいね」
と言い、笑っていた。
「安心しろ。俺は約束は守る方だから氷漬けにしなくてすむぞ」
「そうだね。安心したよ」
目に涙を浮かべながら嬉しそうに言った。
冬の間は雪と過ごした。
次の冬も
そして
大学4年の冬
「今年で雪との共同生活も終わりだな」
俺と雪は雪が積もった歩道を歩きながら喋っていた。
「そうだね~」
「俺は春から就職が決まったからこの町を出る」
「うん」
「雪はまた冬になったらこの町で雪を降らすんだろ?」
「そうだよ」
「お互い頑張ろうや」
「頑張ろうね」
「・・・四年間ありがとう。楽しかった」
「何だよ。いきなり」
「涼に会えてよかったよ」
俺の目を見つめて雪は言う。
「どうした急に?らしくないぞ?」
「相変わらず失礼な奴だね~・・・」
陽気に言っているその言葉だが、雪の顔を見るとそう感じなかった。
「何かあったのか?」
「・・・・・・」
何も応えない。
「雪?」
俺は下を向いたまま顔を見せない雪に近づいた。
すると
「!?」
俺の唇に冷たい感触がした。
雪が俺にキスをしたんだ。
最初は何が起こったかわからなかった。
「何するんだいきなり!」
「ごめん。・・・でもこうするしかないんだ」
「何がだよ!・・・ッツ!!」
急に俺の頭が痛くなった。
「雪・・・俺に何・・・をした!?」
俺は手で頭を押さえながら雪の顔を見た。
頭痛と眩暈でハッキリとは見えなかったが、いや、見えていた。
雪は泣いていた。
「・・・本当にごめん。今涼にやったのは私の記憶を永久に思い出させないようにする為に氷漬けにしたんだ」
涙が一粒、二粒と雪の目から落ちていく。
「・・・涼がこの町からいなくなるから、私の事を喋ってしまうかも知れないから・・・」
「俺を・・・信・・・用して・・・なか・・・ったのか・・・」
首を横に振る。
「信じてるよ!四年もあんたと居たんだよ!冬の間だけだったけどあんたがそんな人間じゃない事くらいわかってた!!・・・でも!」
鼻を啜りながら話す。
「でも・・・そうでもしないとあんたを・・・涼を殺さないといけないから・・・・。私は・・・涼を殺したく・・・ない。だから・・・」
その場でしゃがみ込んで泣き始めた。
「・・・・・・・・・」
俺は頭を抑えながら雪に近づき
「なら・・・仕方・・・ねぇ・・・な」
雪の頭をポンポンと軽く叩いてやった。
「俺を・・守るため・・・にやったん・・・だろ?怒らねぇよ」
「・・・ごめんよ」
「だが・・・な。俺は絶対に忘れないからな」
「・・・無理だよ」
「俺は約束は守る」
「・・・期待しないで待っておくよ」
「で・・・いつまで・・・覚えて・・・るんだ?」
「・・・朝日が昇るまで・・・」
「・・・そう・・か・・」
俺と雪は朝日が昇るまで一緒にいた。
次の日の朝
俺は雪との記憶がなくなった。
月日は経ち
俺は社会人になって社会の荒波に飲まれていた。
そんなある日
会社の転勤により引越しの準備をする為に、部屋の掃除をしていたら
「・・・ん?」
机の整理をしていたら奥に何か光るものがあった。
俺は手を突っ込んでその光るものを取って見た。
「指輪?」
その指輪は透明で透き通って綺麗な指輪だった。
だが、俺はこんな指輪を買った覚えはない。
「誰かの忘れ物か?」
俺はそう思いながらも、仕事の行く時間になり、俺はいつも通り仕事へと向かった。
その日の夜
俺は夢を見た。
小さい頃に雪山で遭難した夢だ。
冬がやって来た。
「さあ~て、今日も仕事頑張りますか♪」
私は町に雪を降らすために人気のいない所にやって来た。
「冬の最初だし控えめでいいかな」
私は手を上にかざして雪を降らした。
空からは白い雪がゆっくりと降り始め、辺りを白い景色へと埋めていった
「・・・よし!これくらいでいいかな」
私は雪を降らすの止め、町中を歩いた。
時間は夜も遅く人のいる気配はしない。
「それにしても、やっぱり寒いわ~」
コートを着てはいるが寒いものには変わりはない。
「今日はどこで寝ようかな」
寝床の場所を考えていると
「風邪引くぞ」
男の声が聞こえた。
私はその声に聞き覚えがある。
振り返った。
「寝る所、決まってないんだろ?」
「・・・・・・」
「どうした?寒くて話せないか?」
「・・・どうして?」
「何がだ?」
「どうしてあんたがここにいるの?」
「いちゃ悪いか?」
「だって記憶を氷漬けにして思い出させないようにしたんだよ!?」
「思い出した」
「え?」
「夢を見たんだ。昔の・・・子供の頃の夢を」
「夢?」
「ああ。雪山で遭難した時に会った雪女の夢だ」
そう言うと涼は私に近づき
「手出してみろ」
「・・・うん」
私は手を差し出した。
「この指輪お前のだろ?」
「!?。これって・・・まさか涼だったの?」
「ああ。雪はだいぶ変わったが夢で見たお前の笑顔は同じだったからな。それで雪のだろうと思って持ってきた」
「・・・・・・私の指輪だ」
「当たりだったな。・・・で?どうするんだ?」
「・・・え?」
「今、偶然。俺はこの町で仕事をしている。家もある。雪がよければ泊めてやってもいいぞ?」
「・・・・・・」
「それとも、また俺の記憶を氷漬けにしてなかったことにするのか?」
「・・・・・・」
「俺は約束は守ったぞ。絶対に思い出すってな。またやっても思い出してみせる。どうする?」
「・・・そんな事・・・・出来る訳・・・ないじゃないか!!」
涙を流しながら俺に抱きついてきた。
「そろそろ帰ってくる頃だな・・・」
俺は窓から雲を見てそう言った。
「お母さんが帰ってくるの?」
可愛らしい男の子が俺に聞いてきた。
「ああ。今日ぐらいには帰ってくるぞ」
「わ~い!!」
子供は嬉しそうにはしゃいでいた。
子供にはお母さんは世界中を飛び回って旅行の案内をしている仕事と言ってある。
「ねえお父さん」
「ん?」
「玄関でお母さんをお出迎えしよう!」
そう言うと俺の手を息子が引っ張り、玄関に連れて行かれた。
ピンポーン
「開いてるぞ」
俺がそう言うとドアが開き元気な声で
「ただ~いま~♪」
と俺の奥さんが帰ってきた。