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憂愁お男(ひと)  作者: 捺魅
Une rencontre
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第1章 4 変態(へん)な人

昨日は、母を見つけることは出来なかった。


「千鶴ー! ボールとってー!」

「はいはーいっ」


本当なら今日も探していたかったのに、あの変な人が学校には行きなさいって言うから。


結局、一晩お世話になって色々話も聞いてくれた。

一緒に寝ますか?なんて言われた時は流石に拒否したけど、案外いい人だった。


ちゃんと受け止めてくれて、不覚にも私は泣いてしまった。

それも、初対面のよく分からない人に。

でも、それだけ警戒心を溶けさせるあの人も中々凄い人なんじゃないかって思う。


黒い髪に、灰色の帯、藍色の着流し、赤い番傘、白い腕、細い手首、透きとおった優しい声、

そして、吸い込まれていきそうな漆黒(くろ)い瞳。



放課後になった。


「ちづるー今日一緒にパフェ食べに行かない?」

「あ、ごめん暫く遊べない」

「あー、もしかしてバイトとか?」

「う、うんっ」


嘘をついた。

だって、母親がいなくなったから探していますなんて言える訳がない。


(どうしよう・・・)


「おかえりなさい」

「っ!」


振り向くと、昨日のあの人。


「どうして・・・」

「迎えにきたんですよ」


一人にしておくと色々と心配だから、と不意に手を握られたと思ったら、そのまま引っ張られるようにこの人の屋敷へ着いた。


「そういえば、お名前・・・」

江宮奏志(えみやそうし)です」


”江宮”・・・聞き覚えのあるような無いような・・・


「あの、江宮さんっ」

「”奏志”って呼んでくれないのですか?」

「え、あ、では、奏志さん・・・」

「何でしょう?」


縁側に座って話をする。


「お母さんのことなんですが・・・」


なんて切り出せばいいのか分からなくて、ぼそぼそと小さい声になってしまう。


「ああ、大丈夫ですよ」

「・・・えっ!?」


驚いたってもんじゃない。

どうして、何の根拠もないのにそんなことが言えるのか。


「だ、大丈夫って・・・」

「大丈夫です」

「そんな、そんな無責任なこと言わないで下さいっ」


すっと腕が伸びてきて、私の頬を触る。

知らず知らずのうちに涙が頬を伝い落ちて流れていた。


「大丈夫、大丈夫です」

「っ・・・」


優しく抱きしめられると、さっきまでずっと不安だったことが全て消え去ってしまう。

お母さんがいなくなって不安じゃないといけないのに、どうしてなのか安心してしまう。

そして、抱きしめられて、口づけをされて、それを一切拒まない自分がいる。

どきどきしている自分が、ここにいる。






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