序章 不思議な手紙
『つらくなったら ここへおいで』
一人の少女のもとへ届いた不思議な手紙。
文はたったそれだけ。 他は何もない。
「これじゃ、何処に行けばいいか分からないじゃない・・・
変なイタズラ・・・」
悪戯と分かっていながらも、その手紙を捨てることは出来なかった。
数日後、突然母が病気で倒れた。
父を早くに亡くした為、大切な人が死んでしまう辛さはもう知っている。
母は
「大丈夫、ちょっと疲れただけよ」
というが、そんな簡単な言葉では安心できたもんじゃない。
毎日が恐ろしくて堪らなかった。
ちょっと落ち込むと悪い方へ考えてしまう私の癖。
ふと、机の引き出しを開けると、あの手紙が目に入った。
「つらいよ・・・だから、行ってもいいよね・・・」
・・・知らない人にはついていっちゃ駄目よ・・・
小さいときから母に言われ続けた言葉。
ごめんなさい、約束を破ります。
目的地が分からない場所に向かってひたすら歩く。
悪戯と分かっていても、今は何かをしていたい。
やがて人気のない所へ、脚を踏み入れる。
銀杏の雑木林を抜けると、一つの小さな家が現れた。
無意識のうちに近づいている私。
ノックをしようとしたとき、
「どうかしましたか?」
振り向くと、着物に番傘を持った二十代後半ぐらいの男。
少女はいつのまにか、辿り着いていた。
数日後、母は死んでしまったが、心は穏やかだった。
『つらくなったら ここへおいで』