駆動の温度
『起床のお時間となりました』
響の寝ぼけた脳に、毎朝同じ抑揚が響き渡る。13年ほど型落ちの人型のメイドロボットだ。
(毎日この音聞かされるなら 目覚まし時計の音のほうがましだよ)
17年ほど前に人々は自動化や異形の効率化ロボットに疲れ、非効率な人型のロボットに癒しを求めた。
顔が滑らかなのっぺらぼう型や、カメラのレンズのような大きなアイが付いているものが主流である。
優れた人工知能が搭載され、普段の接し方や日々の環境で自動で学習し人の生活を支える高性能型の物。
最低限の学習能力と目的に応じて追加されるプログラムに従って動く、標準的なロボット。
学習能力を持たない、ただ人型にした安心感だけを与える廉価版。言うなれば高度なからくり人形のような自我無しの存在である。
響の家で稼動しているメイド型のロボは、人型でありながら女性のような見た目をしており、全体でみると1%程度の流通量である。人型は世の中に受け入れられるが人間を模した物については、かつて女性を中心とした大規模な反対運動が起こった。
現在は一部の会社から女性型のみが、細々と販売されているが世間の風当たりは強い。
響が一人暮らしを始めるにあたって、過保護な母親がどこからともなく手に入れてきた新古品のメイド型ロボット。
(廃版や型落ちならともかく、作ってた会社そのものが倒産してるんだよなぁ・・・)
反対運動が全盛期の頃に作られたモデルで、落ち着いた頃にはすでに新型に取り変わられた空しい存在。
食事の支度をする後ろ姿 心地の良いまな板の音 吹き出るガスの燃える音は・・・生まれて此の方聞いた事はない。
『お紅茶です』
「「あっどうも」」
デカフェの紅茶を啜りつつ客人だと思い、後ろ姿に挨拶をした時のことをふと思い出す。
毎日与えられる栄養の偏りがない健康的な献立の食事、特に抗酸化が徹底された内容である。
(白米が恋しい・・・母さんが追加したプログラムの影響だろうか麦の入った雑穀米ばかりだ)
料理の腕は平凡な汎用型であり、実に家庭的な味である。
「行ってきます」
『こちらをどうぞ』
小さな保冷バッグが手渡される。
「うん ありがとう」
『行ってらっしゃいませ』
いつもと変わらぬ空いたバスの席に座り、中身を確認するとビニールに入ったチョコと保冷剤が入っている。
≪母さん、なんでチョコ?
《何のこと
≪ロボットからチョコもらった 手作りの
《あの子手作りできるの?今度一緒に料理したいから連れてきて
かみ合わないやり取りににため息をつきながら、試しに一つ口に入れる。
少しだけ焦げ臭いざらつきのある冷たいハイカカオはなぜだか甘く暖かな口溶けに感じられた。
『お帰りなさいませ』
いつもと同じ出迎えの声に昨日と同じ言葉で少しだけ溶けた発音で返事をする。
「ただいま」




