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人の狙撃兵

作者:



「ふぅ。」

息を整える。

そして息を殺し、気配を殺す。

標的の頭をスコープの中心に映す。

銃の引き金にほんの少し力をかける。

あとはもう少し指に力を入れれば標的の頭は吹き飛ぶ。

だというのに、

「あぁくそ。またか。」




「ねぇ。本当に行ってしまうの?」

一人の女性が一兵士に話しかけていた。

あぁ、やはり俺が今撃とうとしていた兵士だ。

「あぁ。もちろん。大丈夫、必ず生きて帰ってくる。」

そう、兵士が言った。

「ねぇ。今からでも私と逃げるつもりはない?」

「そんなことはできない。僕は、君のためにも戦わなければいけない。」

その兵士は何かを決意したような顔をした。

その女性は心配そうな、悲しそうな顔をした。

あぁもう。クソ。

そんな顔をしないでくれ。

俺はそいつを殺さなければいけないんだ。

やめろ。やめろ。

俺は……やりたくなくても殺さなければいけないんだ。

「じゃぁ……約束して。絶対に生きて帰るって。」

「あぁもちろん。帰るさ。それまで元気でいてくれ。」

そう言い合い、そいつらはキスをした。

もうやめろ。なんでこんなものを見なければいけない。

俺が何をしたってんだ。

頭が痛くなってきた。

「じゃぁね。また会おう。」

そういってその兵士は心配そうな顔をした女性を背に走っていった。




「ッ!」

あぁもう。あれの後で考える時間はねぇのか。

俺はあの夢みたいなものを見る前の時に戻った。

ここも前回と同じかよ。

俺はスコープを覗く。

少し横に目標がずれた。

俺はそのずれを修正し、再度引き金に力を少しかける。

あとはもう少しかければいいだけだ。

だが、さっきの夢みたいなやつがフラッシュバックする。

俺がこいつを撃つのは果たして正義なのか?

撃てばこいつは死に、あの女性も悲しむだろう。

こういうのに情を入れるのはスナイパーをやると決めてからやめたはずだが。

そんなこと簡単じゃないらしい。

俺は引き金を引くかことを躊躇していた。

そうだ。これは仕事だ。

人殺しで、軍の上からの指令だ。

この森で来たやつを殺せと。

仕事なんだ。

「……………すまない。」

俺は心の底からそう呟き、引き金を引いた。

消音機によって、小さくなった乾いた銃声が俺の耳に届いた。

俺は撃った瞬間に目を離した。

自分のやったことから目をそらした。

「ッ!!」

急に頭痛がした。

「クソ!クソ!またかよ。もう、やめてくれ……!」




目の前が見えるようになっても俺は目を開けなかった。

前にもあったことだ。もう見たくない。

自分勝手だろうが知らない。

自分がやったことだろうが知らない。

俺がやったのは上からの指令をこなしただけだ。

俺は悪くない、俺は悪くない!

そんな抵抗をしても、目の前が急に明るくなった。

どういう力なんだよこれは!

目の前には泣き崩れている女性が見えた。

さっき撃った兵士と話していた女性だ。

一つの紙を持って。

あれになんて書いてあるかどうかなんて予想できる。

だが、知りたくない。

俺は目の前から目をそらす。

目をそらした先には俺がさっきまで見ていた景色が映っていた。

逃しはしないってことかよ。

「そんな…そんな…約束したじゃない…。帰ってくるって…。」

そう呟き女性はまた泣き出した。

ああああああああああああああ!

もう嫌だ!もう嫌だ!

俺は悪くない!

俺は…上からの指令をやっただけだ!

俺は悪くない…!

必死に前の景色から目を離す。

後ろを向き、目を閉じ手で目を隠しても意味がなかった。

目には泣く女性が鮮明に映った。

「いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。」

「……………もう……もうやめてくれ。」

喉の奥から声を絞り出す。

それが伝わったのか、また頭痛がしてきた。




「ッ!!!」

目をゆっくりと開ける。

目の前にはいつもの薄暗い森が広がっていた。

「ふぅ。」

安堵のため息を吐く。

少し前からあの現象は起きた。

殺す瞬間にそいつの過去を見て殺した後にそれで何が起きたか。

それを見るようになった。

神とやらがこれの原因なのなら殺してやりたい。

確かに俺がやったのは人殺しだ。

許されるなんて思ってない。

だが、これは守るための殺しなのだ。

俺が殺さなければ仲間が殺される。

国が殺される。

「俺は悪くない。」

そう苦々しげにつぶやいた。



運のいいことにその日はこれ以上やつらが来ることはなかった。

俺の任務は戦争が終わる、または弾薬が尽きるまでここに来たやつを殺すこと。

だから俺はここを離れるわけにはいかない。

無断で戻れば敵前逃亡で死刑だ。

だから俺は逃げられない。

この悪魔みたいな役回りから。




「ふぅ。」

息を整える。

敵は二人。

一人殺して素早く二人目を殺さなければならない。

照準をつける。

一人付けたら、もう片方もどう撃てば素早く倒せるか頭で考える。

そしてスコープを覗く。

目標の頭がスコープの中心に映す。

引き金に少し力をかける。

あとは引き金を引くだけだ。

あの夢みたいなやつを見ませんように。

その願いが届いたのか、

「ッ!!!」

急に頭痛が俺を襲った。




急いで目を閉じる。

目の前に来る現実から目を背けるために。

だが、今回も見逃されなかった。

目の前にはさっき俺が撃とうとした兵士が鮮明に映し出された。

「じゃぁそろそろ行ってくるよ。」

そんな声が聞こえた。

見たくない。必死に目を背ける。

それでも目の前にはその兵士がいた。

「元気でね。生きて帰ってくるんだよ。」

おそらくその兵士の母と思しき人のこえらしい。

「もちろんさ。母さんも元気でな。」

急いで耳をふさぐ。

景色は見えても、音が聞こえなければ……!

それでも神様はみのがさないらしい。

しっかり聞こえていた。

「あんたも……元気でね……。」

そういってその兵士の母は涙を流した。

兵士も涙を流していた。

もう嫌だ……もう嫌だ!

見たくない。聞きたくない…!

俺が何をしたんだ……!

「ッ!!!」

クソ!また頭痛が……!




あの夢が終わった。

そんなことを思ったが、それは大間違いらしい。

目の前には撃とうとした二人目の兵士がいた。

見逃してはくれないのかよ……!

だが、今までのような状態じゃない。

入隊式のようだった。

目の前にいる兵士はすべてをあきらめた目をしていた。

新兵にありがちな夢を見るような目とは程遠い目だ。

何があったというのだろう。

だが俺はこの目に見おぼえがあった。

……あぁこれは何か大切なものを失ったやつの目だ。

俺が軍に入った時にもこんな目をしたやつがいた。

そいつは親を失っていた。

おそらくこいつもそんな感じなのだろう。

なんというか、俺はこいつに同情のような気持ちができた。

こんな何も知らないとしか思えないやつに同情されるのはこいつは嫌だろうか。

こいつみたいに失ったやつなんかもいる。

今まで見たやつらみたいに大事なものを置いてきたやつなんかもいる。

そいつらを殺すのは本当に正義だろうか。

いや、もともと俺は正義だなんて思ってはいない。

だが、悪とも思っていない。

俺は一体どっちなんだろうな。

……俺は何考えてんだ。

「ッ!!」

また頭痛が……!




あの夢のようなものを見た後、俺はなんだか落ち着いていた。

本当になんでだろう。

あの疑問ができたからか。

だが、そんなことは気にしていたら今はだめだ。

急いでスコープを覗く。

少しだけずれている照準を修正し、引き金に少し力をかける

あとはもっと力を入れれば目標を殺せる。

だが、やはり一人目の夢が特に俺を引き留める。

それでも俺は、その感情を捨て去った。

引き金を引く。

瞬時に消音機で小さくなった銃声が聞こえた。

だが、まだ安心してはいけない。

二人目の兵士に照準をつける。

その兵士は隣の兵士が死んでもその場に立っているだけだった。

だが、そいつはこちらを見た。

スコープ越しに目があう。

そいつは諦めたような顔をした。

……この距離でこいつ、わかるのか?

その疑問で俺の体は止まった。

そしてそいつはこちらにライフルを向けてきた。

ッ!!!!そうだ。今は昼だ!

昼には太陽が出る。太陽が出ればスコープに光が反射する。

やべぇ。それで位置がばれる!

急いで俺は逃げようとする。

だが、間に合わなかった。

パァンという乾いた銃声が一発、静かな森の中に響く。

その瞬間、右足に激痛が走った。

「あッ!」

地面に倒れこむ。

死ぬ。そう感じた。

死にたくない。

散々殺しておいて俺はそう思った。

俺はしばらくそのまま倒れていた。



何分経ったか。

ゆっくりと行動を始めた。

被弾個所の確認。

右足の太ももに当たっている。

軍服に血がしみ込んでいた。

こういう時のために俺は包帯を持っている。

頑張って包帯を巻いた。

確認し忘れていたが、銃弾は貫通していたらしい。

体内に残ってはいなかった。

立ち上がろうとすると、右足に激痛が走った。

しょうがないので匍匐で少しずつ基地に戻ることにした。

傷を負っての撤退は許可されている。

ゆっくりゆっくり、激痛に耐えながら基地に近づいて行った。

そんな中、考え事をした。

俺は人を殺した。

何人も何人も。

仕事とはいえ、任務といえ。

だが、この場合命令を下した上官が悪なのか。

それとも実行した奴が悪なのか。

犯罪では指示役と実行役どっちにも罪をかぶせる。

だから俺も悪なのだろう。

だが、実行役が何かのためにやったとしたらどうなるんだろう。

俺がやったのは仲間、国を守るためだ。

犯罪でいえば、家族を危険にさらすと脅されたとか。

だが、そんなことがあっても実行役は指示役よりかは軽い罪がかぶせられる。

だが、結局は俺がやったのは人殺し。

どんな事情があっても相当な罪をかぶることになるだろう。

だが、俺自身は悪とは思っていない。

俺は、俺たちは何かを守るために殺した。殺された。

相手もこちらを殺す。こちらも相手を殺す。

どちらとも同じだ。

犯罪者と犯罪者が殺しあう。

だが、その犯罪者は何かを守るために犯罪者になったものだ。

人殺しを美化するつもりはない。

それでも、俺たちは殺すのだ。

………何言ってんだ俺。わかりにくいだろこれ。誰に伝えるでもないことだから、わかりにくくてもいいけど。

本当に、何考えてんだ。何やってんだ。

謝罪か?それとも責任逃れか?

どっちでもいいが。




どれくらい移動したか、森の出口が見えてきた。

もう少しだ。もう少しで、いける。

だが、そんな希望を壊す音が聞こえた。

エンジン音。なんといえばいいのかもわからない音。

そんな音が聞こえた。

見たくもない上を見る。

そこには予想してしまったやつがいた。

「攻撃機…!」

対地攻撃用航空機がいた。

さっき俺が撃てなかったやつが知らせたんだろうか。

攻撃機は森の中に手あたり次第機関砲を乱射していた。

ズダダダダダという音が森の中に響く。

嗚呼、これが死ぬってことか。

俺はこんなことをしてたんだな。

だが、この攻撃機に乗っている奴も人殺しだ。

だが、こいつは俺に対する復讐みたいなもんだろう。

仲間を大量に殺した。

俺に対しての。

こんな時だというのに俺の頭は正常に作動した。

そして、なぜか今、さっきまで考えていたことの答えがわかった気がした。

世界は俺たちを犯罪者とする。

俺たちは、守るための犠牲であるとする。

その違いは、視点の違いだ。

実際に同じ身になったやつと、外から表面だけ見たやつの違いだ。

なんだか、ようやく答えが見つかったような気がする。

だが、この答えは俺だけの答えだ。

他のやつは違うんだろう。

「ハハッ。俺は何考えてんだ。こんなわかりにくいこと。」

そして俺は、機関砲の弾丸を全身に受けた。

こんな物語をここまで読んでくださったすべての方に感謝を。

本当にありがとうございます。

よければ評価等お願いします。

ほかの作品もよければ見てください。

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