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エリジウム  作者: 阿川佳代志
第1-1章 創世記
14/15

[1-11] 走れ、走れ

「わたしの心は激しく動き、わたしの力は衰え、わたしの目の光も、わたしを離れ去った。」(詩篇 38:11)

燃えるZone。


世界は燃えていなかった。流血していた。空気は焼け焦げた肉、溶けたプラスチック、そして何か甘ったるく腐敗したもの――変異生物と人間の死骸が混ざり合ったバイオマスからの蒸気――の濃厚なスープのようだった。バリアで常に白く霞んでいた空は、今や火災の反射で毒々しい深紅色に染まっていた。これは風景ではなかった。これは「新バビロン」という名の、巨大な瀕死の獣の剥き出しの内臓だった。


デイは飛んでいなかった。彼は撃ち落とされた鳥のように痙攣し、旋回しながら、この空気の中を沈み込んでいた。彼の外骨格強化装備(VIC)は過負荷で軋み、継ぎ目がきしんでいた。顔にはかつての虚勢の影さえなく、ただ動物的で、むき出しの恐怖だけがあった。肌は粘り気のある冷たい汗で覆われ、それは直ちに火災の熱で乾き、塩の跡を残した。見開かれた目は、混沌から新たな脅威を拾い上げて走った:骨の槍を持った影が炎の中を歩む;小さくてすばしっこい生き物の群れが、崩壊した塔の基部で何か大きなものを引き裂いている。一息一息が肺を焼き、一呼吸一呼吸が途切れ途切れの呻きだった。無感覚なテオの体を抱える彼の手は、指の関節が白くなるほど震えていた。彼はそれを感じなかった。感じたのは肘の氷のような無力感と、肩の裏切りような震えだけだった。


「俺は英雄じゃない、だよな?――頭の中で思考が走った、鋭く毒々しく、破片のように。――じゃあ俺は何をしてる?お前の無感覚な体を引きずり回し、自分の皮を危険にさらして。誰のために?報告書のため?義務の亡霊のため?お前のガールフレンドが…ああなったのは…」


思考が途切れた。鋭く。完全に。VICの唸りと同じように。エンジンが噎せ返り、パネルの青い光が消えた。静寂が訪れた――恐ろしい、張り詰めた一瞬の無重力。そして――物理法則だ。


落下は飛行ではなく、衝撃だった。彼らは短いが、十分に重傷を負わせる距離から下へ投げ出された。デイの握りから引き剥がされたテオは、瓦礫の上で転がり、横倒しにどさりと倒れた。デイは背中から着地し、肺から全ての空気が、穴の開いた風船のような音で強制的に押し出された。彼の右足の何かが軋んだ――大きくはないが、はっきりと、湿った丸太の中で乾いた枝が折れるように。吐き気と白くきらめく痛みの波が彼を頭まで覆った。


彼は横たわり、深紅の空を見つめ、息を吸おうとした。代わりに喉に刺すような煙が入り込んだ。彼はむせび、黒い唾を吐き出した。痛みと無力感の涙がこめかみを伝い、泥と混ざった。


「ずっと言われてきた。走れ。前に走れ…恐怖を見据えろ。どんなに怖くても関係ない。お前は助ける側の人間だ。その…」


彼の視線が、20メートル先の動かないテオの体に引っかかった。痛みより鋭いパニックが彼を貫いた。デイは、割れたガラスと何か粘つくもので覆われた地面に肘をつき、立ち上がろうとした。右足は、関節を引き裂くような恐ろしい苦痛で応えた。脱臼か。それとも骨折だ。彼は叫び声を飲み込み、それを嗄れ声に変えた。英雄は終わった。残ったのは本能だけだ。彼は這い始めた。


指がアスファルトの裂け目に、近くで引き裂かれた腹からはみ出した冷たい腸に、見ない方がいい何か柔らかくて従順なものに食い込んだ。一センチごとが、新たな吐き気と恐怖の波を代償として得られた。頭の中で、壊れたスクリーンのように、断片が点滅した:


ハイメスが笑いながら、ブリキのマグに自家製ウォッカを注いでいる。太陽(本物の、記憶の中の)が目を刺す。温もり。

レスラフ将軍が厳しく、弱い構えに対して彼に不可をつける。デイの突き出した腕が努力に震える。

若くて愚かな彼自身が、懸垂ができない新人の女の子を苛めている。彼女の涙。後悔。

そしてまたハイメス。彼らは屋根の上にいて、下で14歳のテオが傷だらけで、必死だが不器用に年上の男の防御姿勢に拳を叩きつけているのを見ている。彼は負ける。倒れる。そして小さな黒髪のレナが彼に駆け寄り、彼女の顔には恐怖、怒り、憧れが混ざっていて、デイの心が一瞬締め付けられる。彼女がテオに何か言い、彼が歯を食いしばって泣き止むのを見る。そしてデイは温かくなる。説明のつかない、このコンクリートの地獄の中で愚かなほどに温かく。


「お前こそが皆を助ける人間だ…――彼の頭の中の思考は静かで、灰のように苦くなった。――結局どうなった?俺たちは皆死んだ。そしてそれは全て…何のためだ?この燃えるゴミ捨て場のためか?」


「デイ…デイ…」


声は弱く、嗄れていたが、耳鳴りと火災の唸りを突き抜けてきた。デイは頭を上げた。彼の前で、肘に寄りかかってテオが座っていた。彼のこめかみを、泥と汗に混ざって真紅の血の筋が流れていた。彼の目には認識はなく、ただ濁った、動物的な当惑だけだった。


この視線がデイの中で何かを壊した。「楯の軍曹」の殻、最後の残骸が粉々になった。彼はテオにたどり着き、彼の汚れて血まみれの手が、支えのためではなく、必死の、しがみつく恐怖の激情で少年の肩に食い込んだ。彼はテオを自分に引き寄せ、震える胸に押し付け、顔を彼の髪に埋め、彼の体が最初の、押し殺したすすり泣きに震えた。


「許してくれ、テオ!」――彼の声は、嗚咽、痛み、罪悪感で歪んだ、想像を絶する咆哮に変わった。唾液と涙が彼の頬を流れ、テオの頭頂に滴った。彼は叫び、その叫びには何も人間らしさはなく、ただ純粋な、加工されていない苦悶だけだった。「許して…これは俺…俺のせいだ!奴を見て…凍りついた!たった一、たった一つの呪われた一秒、恐怖で凍りついた!一秒だけ――そして彼女はいなくなった!俺は英雄じゃない、テオ!臆病者だ!俺は惨めで、取るに足らない、軍服を着た臆病者だ!許してくれ!頼む!許して!」


彼はテオを揺さぶった、まるで彼から許しを揺り動かし、贖罪を打ち出せるかのように。テオは黙っていた。涙が彼の目から汚れた頬を静かに、無音で流れた。彼の目は虚ろだった。そこには怒りも非難もなく――ただ巨大な、底なしの黒い穴だけがあり、そこに全てが消えていた:怒り、夢、光。彼のレナ。怪物の顎の中へ消えた。そして彼はこの叫ぶ、打ち砕かれた男を見て、何を許せばいいのか理解できなかった。それさえもする力はなかった。


そしてその時、冷たい波が、馴染みの、吐き気を催す存在が、デイの背中から彼らを洗い流した。原始的な恐怖が、体の毛を逆立て、腸を冷たい塊に縮ませる。


「デ…デイ、」――テオの声はかすかな囁きだった、喉からではなく、彼の胸のあの黒い穴の最深部から発せられるかのように。「あ、あそこ…あそこに」


デイは黙った。涙は止まり、恐怖の冷たい湿気に変わった。彼はゆっくりと、首の骨が緊張で軋みながら、頭を向けた。


化け物ホワイトゴリラが30メートル先に立ち、煙の塊をその巨大な体で押し分けていた。動かない。ただ立って見つめている。その小さな猪のような目は、鈍い、生きていない光をきらめかせていた。そして口…口はあの、ありえない笑みに歪んでいた。顔の筋肉が緊張し、歯茎と黄色い、折れた針のような歯の列を露出させていた。これは怒りの表情ではなく、待ち望みだった。純粋で、抑えきれない、美食的な待ち望み。彼はもう舌の上で彼らの恐怖を感じ、もう彼らの骨の軋む音を想像していた。そして喜んでいた。無音で、全身で。


デイは息を呑んだ。心臓が一度打った――あまりに強く、一瞬目がくらんだ。足の痛み、罪悪感、絶望――全てが彼の胸の中で小さな、硬い点に凝縮された。そしてそれを追い出したのは、ただ一つ、水晶のように澄んだ思考だった。


彼はテオを押しのけ、力を込めて、彼を転がらせた。デイの歯は笑みではなく、痛みと狂った決意の顰蹙で剥き出しになった。左足に体重をかけ、彼は立ち上がった。手が腰のエネルギーブレードの柄を探った。軽いカチッという音――そして彼の手の中で、青い、不均一な純粋な光の刃がざわめき、きらめき始め、彼の顔に鋭い、ちらつく影を落とした。


「テオ、」――彼の声は静かで、嗄れていたが、一音も震えはなかった。「逃げろ」


「でも、デイ…」――テオは立ち上がろうとした、彼の目はデイの背中と微笑む悪夢の間を走った。


「言っただろ!」――デイの咆哮は銃声のように短く、テオを貫いた。この叫びには議論の余地はなかった。ただ命令だけ。最後の命令だ。


背中から咆哮が聞こえた。人間のものではない。獣の、勝ち誇った、非人間的な喜びに満ちた。そしてその後――デイの猛烈で必死な叫びが、空気を切り裂くエネルギーブレードの甲高い金切り声と融合した。


「走れ、テオ!速く走れ!ここから逃げろ!」


そしてテオはそれを見た。デイの目の中に。彼が英雄たちにそう見たかった、あの決意を。死ぬ決意を。そしてそれは、ついに、彼を打ち砕いた。恐怖は消えなかった――それは唯一の燃料になった。彼はその場から猛然と走り出し、考えず、どこへ走るか見ずに。


「逃げろ。走れ。逃げろ。」


思考は狂ったハンマーのような心臓の鼓動と同期して打ち、それはこめかみで、喉で、全ての指で打った。それはサイレンの遠吠えや火の軋む音をかき消すほど大きく打った。彼の耳は鳴っていた。


「レナ…レナが言ってた…『何かあったら逃げて、私が側にいるから…』どこにいる?どこにいるんだ、レナ?!」


彼の足は彼を地獄の中を運んだ。彼は地面を走っていなかった――彼は地獄の絵画そのものをかき分けていた。彼のブーツが甲高い軋む音で何か柔らかく従順なものに沈んだ。テオは一瞬だけ下を見た――そして手を踏んだのを見た。人間の手を。うつ伏せに倒れている死体からだ。薄い皮膚の下の骨が乾いた小枝のように軋んだ。彼は叫ばなかった。ただ足を引き、それは不気味な、湿った音で滑り出た。


周りはひどい有様だった。かつて人間だったものたち。「鋼の拳」の軍服の切れ端、血まみれの子供のドレス、チューブから絞り出されたペーストのように裏返しになった内臓。血。あまりに多くて水たまりを作り、靴底に貼りつき、足元から跳ねた。彼はちぎれた手足につまずき、血の海で滑り、何か温かく粘着質なものに膝まずき、跳び上がり、また走った。


「逃げろ。走れ。逃げろ。」


テオは新たな力で前に突進した、盲目的に、道を見ず、ただ足元の血と、背後で一瞬この悪夢全体を照らして消えた青い光の閃光だけを見て。


彼は走った。一人で。胸には――かつて命が鼓動していた場所に、氷のように冷たい空虚。耳には――最後の命令の反響と、あの優しい、永遠に失われた声:「バカだな、もちろんよ。そんなの決まってるでしょ」。今は決まっていた。今は違っていた。永遠に。

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