第六話 「銀翼団の誘い」
翌朝。
宿の食堂で簡素な朝食をとっていた三姉妹のテーブルに、カインが静かに腰を下ろした。
ルナはパンを置き、じっと青年を見据える。
「で――“興味がある”って、どういう意味かしら?」
カインは軽く笑い、懐から一枚の羊皮紙を取り出す。
「これは王都直轄の依頼書だ。……ギルド経由じゃない」
「ギルドを通さない依頼?」フィオナが眉をひそめる。
「そう。表に出せない任務だ。君たちが今、依頼を受けられない立場なのは知っている。その状況を逆手に取れるかもしれない」
羊皮紙には、地図と簡潔な文が記されていた。
『王都北東、アデル渓谷。護送隊の極秘警備。報酬:金貨五十枚』
「……金額が異常ね」ルナの目がわずかに細くなる。
「理由は?」
カインは声を潜めた。
「王都にとって、アデル渓谷は今、火薬庫みたいな場所だ。反乱を企む貴族派が潜伏していてな。俺たち〈銀翼団〉は、その動きを押さえるために動いている」
「じゃあ護送隊ってのは……」フィオナが察する。
「重要人物の移送だ。ただし正式には“物資”扱いにされている。……敵に狙われる可能性が高い」
ミリアが小さく息をのむ。
「危険ってことですよね」
「そうだ。でも成功すれば、君たちにかけられた濡れ衣も払えるだろう。〈銀翼団〉が王都で証言する」
カインの瞳は真剣だった。
ルナはしばらく沈黙し、妹たちを見た。
「……行くわ」
「ルナ姉! 本気かよ?」フィオナが驚く。
「今のままじゃ何も変わらない。それに、これは私たちにしかできない仕事かもしれない」
「わ、わたしも……姉さんと一緒に行く」ミリアが心細げにうなずく。
カインが笑みを浮かべ、立ち上がった。
「決まりだな。出発は二日後。――その間に準備を整えてくれ」
彼が去った後、食堂の片隅で彼らをじっと見ている影があった。
赤毛の男。〈赤牙の槍〉の副長、バルドだ。
「チッ……面白くなってきやがったな」
その呟きは、静かな朝に不穏な影を落とした。




