第五話 「濡れ衣」
夕暮れ。
ドレミア支部のギルドは、昼間の喧騒をそのまま引きずったようにざわめいていた。
古代遺跡〈アヴァルの塔〉での討伐を終えた三姉妹は、泥と血にまみれた装備のままカウンターへ向かう。
「依頼達成を確認しました。オーガ・ウォリアーの討伐……銅級にしては、見事な成果です」
受付嬢が感嘆の声を漏らす。報酬の金貨二枚が机に置かれた。
「ありがとうございます」ルナが淡々と受け取り、ミリアがほっと息をついたその時――。
ギルドの扉が勢いよく開き、〈赤牙の槍〉が派手に入ってきた。
「おい! こいつらが仕掛けた罠で、うちの仲間が怪我をした!」
ダリオの大声に、広間の視線が一斉に三姉妹へ向かう。
「……何を言っているの?」ルナが冷たい声で問い返す。
「とぼけるな! 遺跡の二階で、崩落の罠が作動しただろう。あれはお前らが仕掛けたんだ!」
「待てよ、あの罠は――」フィオナが反論しかけたが、ダリオは言葉を遮った。
「目撃者もいるんだぜ? 遺跡に入る前、お前らが怪しい細工をしてるのを見たってな」
周囲からざわめきが広がる。
「まさか……本当なのか?」
「昨日の模擬戦で負けた腹いせじゃないのか?」
ミリアの顔が青ざめる。
「ルナ姉、どうしよう……」
「落ち着いて。真実は一つよ」
ルナは受付嬢に視線を向けた。
「ギルドとしての判断は?」
「……正式な調査を行います。それまでは、あなた方は依頼の受注を控えていただきます」
その言葉は事実上の活動停止宣告だった。
◇
人々の視線を背に、三姉妹は宿へ戻った。
部屋に入るなり、フィオナが拳を机に叩きつける。
「くそっ! 全部あいつらの罠じゃねぇか!」
「証拠がない以上、こちらから動いても不利になるだけよ」ルナは冷静を装っていたが、その手はわずかに震えていた。
「でも、このままじゃ……」ミリアの声は泣きそうだった。
その時、扉がノックされた。
開けると、見知らぬ青年が立っていた。亜麻色の髪に澄んだ青い瞳、軽装の革鎧を身に着けている。
「あなた方がカーヴィル三姉妹ですか?」
「そうですけど……あなたは?」ルナが警戒する。
「俺はカイン。王都直属の冒険者部隊〈銀翼団〉の一員です。――あなた方に興味がありましてね」
その言葉が、三姉妹の運命を大きく動かすことになるとは、まだ誰も知らなかった。




